花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

タガ(箍)

2016-01-28 21:45:55 | Weblog
 今日の朝日新聞朝刊「折々のことば」は、「人間、一度タガがはずれると、誰しも自分のなりたくないものにまでなってしまう」でした。筆者の鷲田清一さんは、「ちょっとばかり気負うところがないと、他人の前に『自分』を立てることもできない。軸を外すとぐじゃぐじゃに崩れてしまう」と解説していらっしゃいます。「自分のなりたくないものにまでなってしまう」のは怖いですが、もっと怖いのはタガが外れた状態が気楽に感じられ、気が緩んでいるのを自覚せず、「自分のなりたくないもの」をいつしか「なかなかいいじゃん」と捉えてしまうことです。安逸を貪ることを戒める良いメッセージだと思います。

寒夜

2016-01-21 22:27:45 | Weblog
 暖かい日が続いていましたが、センター試験の翌日、東京では雪が積もり、この週は全国的にも真冬モードになっています。生来、ひねくれ者なのか、厳しい寒さが予報されると、それに挑んでみたくなります。掛け布団を押し入れにしまい、毛布一枚で寝てみました。寒さのため、夜中に何回も目が覚めます。ボイルした海老のように身体を丸め、早く朝にならないかと縮こまっている時、雪山テント泊のことを思い出します。今はなかなかいい寝袋があって、マイナス20度あたりでもしのげますが、しかし、それも最初の日だけです。寝ている間に身体から蒸散される水分が寝袋の中で氷になり、2日目は相当寒く感じられ、寒いと寝袋の中に潜り込んでしまうので、今度は呼気も加わって凍りつき、翌日はさらに氷の布団度合が強まります。夜明けが待ち遠しく、陽が射してくると太陽の有難さが骨身の髄まで浸みるように感じられます。そんな冬山登山のことを数日うつらうつら思い出していたら、昨晩、家人が引いてくれた床では、毛布に掛け布団が洗濯バサミで止められていました。無言の批判を感じ、そのまま寝たところ、暖かったのかいつもより30分寝坊してしまいました。

読み始め

2016-01-10 14:17:52 | Book
 「汝殺すなかれ」、これはモーセの十戒のひとつであり、かつ信仰の有無にかかわらず誰もが首肯しうる教えです。お正月に帰省した折、本棚を見ていたら新潮文庫の「海と毒薬」が目に留まりました。遠藤周作さんの代表作で、高校生の頃に読んだものです。何だか急に読みたくなり、家に持ち帰りました。久しぶりに読み返して思ったのは、「汝殺すなかれ」、この自明のことがいかにもろい戒めであるかということでした。戦時中、福岡の大学病院で実際に行われた米軍捕虜への人体実験による殺人に材をとった小説の中で、人は肺をどれくらい切り取られたら死に至るのかといった実験が平然と行われます。実験を行った医師たちの中でひとりを除いて誰も命の尊厳に思いをはせる人はありません。この医師たちは血に飢えた悪鬼のような性格ではなく、妻や子を持ち、また人並みに出世や保身に心を砕く普通の人たちです。そういえば、小説の最初のところにある銭湯でのシーンで、ガソリンスタンドの主人や洋品店の店主が戦争で中国へ行った時に、人を殺して悪びれない話が出てきます。これらの人などもどこにでもいそうな小市民です。残虐な性格異常者や殺人嗜好症の人間ではなく、私たちの身の回りにいる普通の人間が、時と場合によっては良心の呵責もなく人が殺せる、今年最初に読んだ本からこのことが強く心に残りました。人体実験に加わったものの、壁際に立ったまま何も出来なかった医師に対して同僚が次のように語ります。「あの捕虜のおかげで何千人の結核患者の治療法がわかるとすれば、あれは殺したんやないぜ。生かしたんや。人間の良心なんて、考えよう一つで、どうにも変わるもんやわ」 時と場合によって良心がどうにでも変わるのが人間の本性であるなら、そのような時と場合を作らないことを考えなくてはならないのかもしれません。