花・伊太利

日々の生活に関する備忘録です。

あの日にかえりたい

2023-09-30 09:46:00 | Weblog
 今年はユーミンのデビュー50周年にあたるそうです。「The Journey」とタイトルのついたコンサート・ツアーが大々的に各地を回っています。9月末は日本武道館で公演があり、家族の付き添いで出掛けてきました。半世紀にわたってユーミンは人々に愛されてきただけあって、「歌は世につれ、世は歌につれ」といいますか、時代時代に彼女の歌はしっかりと織り込まれているように思います。そして実際、コンサートで歌われた曲を自分の半生に照らし合わせてみると、いろいろな思い出が呼び覚まされました。

 スキー場へ行く途中、渋滞につかまった車の中で繰り返し聞いた曲や、スキー場で流れていた曲は、若い頃、仲間と遊んだあれこれを懐かしくよみがえらせてくれました。ドラマやコマーシャルに使われた曲からは、その頃の流行りや世相が。また、子どもが好きでよく一緒に観た映画に使われていた曲に、幼かった子どもの姿が浮かび上がります。楽曲のどれもがそれらを聞いたシーンと今も結びついています。

 レーザー光線やプロジェクションマッピング、サーカスチックなダンスなどを盛り込んだユーミンのショーを楽しむと同時に、この夜は自身の振り返りも楽しめました。一方、ユーミン・ワールドと一体化して、完全に没入しているかに見える熱い、でもやや熟し気味のファンが相当数いました。私がユーミンの歌を通してその時々の自分を見ていたのに対して、おそらくは、ある一時点にタイムスリップしているように思えました。

 ユーミンは今回のコンサートで荒井由実時代の「あの日にかえりたい」を歌いました。この曲の歌詞に、「あの頃のわたしに戻って あなたに会いたい」というフレーズがあります。「あなたに会いたい」の「あなた」は、私にとっては自分自身だった感があります。もちろんそれがユーミンだった人もいるでしょう。あるいは他のだれか、例えば・・・

道徳基準は金

2023-09-23 14:17:00 | Book

 英国の作家ジョージ・オーウェルは、当てにしていた仕事が反故になり、お金がないためロンドンの救貧院を渡り歩きます。その時の体験は「パリ・ロンドン放浪記」(岩波文庫)で読むことが出来ます。オーウェルはどん底の人たちと暮らす中で、物乞いと普通の市民の間に本質的な違いはないと言っています。その理由は、


 「土工はつるはしを振るって働く。会計士は計算をして働く。物乞いは晴雨にかかわらず戸外に立ち、静脈瘤や気管支炎になりながら働いているのだ。これだってれっきとした商売である。むろん、さっぱり役には立たない。だが、それなら、体裁のいい商売の中にも、役に立たないものはいくらでもあるのだ。物乞いは寄生虫ではあっても、およそ無害な寄生虫なのだ。社会から得るものは、ようやく自分が生きていく費用だけであって、しかも、そのためにはさんざん苦労しているのだから、倫理的観念に照らしても物乞いは正しいということになる。」


 では、どうして物乞いは軽蔑されるのかの問いに対するオーウェルの答えは、


 「世間体のいい生活を送れるだけの稼ぎがないからにすぎない、と私は思う。仕事が有益か無益か、生産的か寄生虫的かということなど、実際には誰も問題にしていないのである。大事なのはもっぱら、儲かるということだけなのだ。完全に金が道徳基準になってしまったのだ。物乞いは、この基準によって失格し、この基準によって軽蔑されるのである。物乞いという行為によって一週間に十ポンドでも儲けようものなら、物乞いはたちまちにしてれっきとした職業になるだろう。」


 全く別の分野の本ですが、金が道徳基準になっていることについては、次のような指摘もなされています。


 「人間の価値を高める人間存在の次元というものは、生活水準を不当に高く評価する文化のもとでは、曖昧かつ俗悪化されやすい」(中村勝己著「近代文化の構造」筑摩書房刊)


 「パリ・ロンドン放浪記」の最後では、オーウェルがどん底の生活から学んだこととして、「浮浪者というのはみんな飲んだくれだなどとは二度と考えないだろうし、物乞いに金をやれば感謝するだろうとも考えまい」、と言っています。九十年前に出された本ですが、今なお示唆に富む内容だと思います。


阪神の「アレ」に貢献した坂本捕手

2023-09-15 20:09:00 | Sports
(※朝日新聞朝刊連載「折々のことば」風に)

 「次につながる後悔の仕方をしたほうが、自分たちに返ってくるものが大きい」 

 強力投手陣を擁する阪神タイガースが18年ぶりにセ・リーグを制した。女房役の坂本捕手によると、「コントロールのいい投手が多いので、配球の選択肢は多い」そうだ。投手は投げたい球が捕手の要求と違えば、サインに首を振ることがある。首を横に振って打たれることも、うなずいて打たれることもある。どちらにせよ、打たれれば後悔が残るけれど、その後悔が次につながるかどうかが大事だと言う。お互い自分なりに考えて、配球を決めるやり取りを積み重ね、後悔を糧としてきたことが、ペナント奪取に少なからず寄与しているだろう。ところで、私たちがスマホのご推奨に従ってばかりいて、それが習い性になってしまったら、次につながる後悔は生まれるであろうか。

9月15日付 朝日新聞朝刊・スポーツ面から


自分が勝てる駒になる 坂本誠志郎捕手 阪神、リーグ優勝 プロ野球:朝日新聞デジタル

自分が勝てる駒になる 坂本誠志郎捕手 阪神、リーグ優勝 プロ野球:朝日新聞デジタル

 ■坂本誠志郎捕手(29) いやー、うれしい。甲子園で決められたのが一番。 昨秋、岡田監督が梅野さんが正捕手だと発言したという報道がありました。僕からしたら、まだ...

朝日新聞デジタル

 


「ネット敗戦」への小さな違和感

2023-09-07 20:24:00 | Weblog
 本日の朝日新聞朝刊オピニオン面に、『「ネット敗戦」の理由』と題するインタビュー記事が載っていました。インタビューに答えているのは、日本初のインターネット・プロバイダー、インターネットイニシアティブ(IIJ)会長の鈴木幸一さんです。GAFAのような巨大IT企業が日本に生まれなかった点について、鈴木さんは次のような理由を挙げています。

・政府にネットを軍事技術、国家戦略とする視点がなく、大規模な予算を当てなかった。
・著作権法などでネットには法的グレーゾーンがあるため、開発に慎重となった。
・日本はプライバシーに神経質で、またIT弱者に優しかったことから、既存の仕組みを残してITと二本立てになった。

 要はお金とスピード感が欠けていたわけです。こう分析したうえで、鈴木さんの話は日本の未来に及びます。「どんな希望を抱くかによります。平穏でつつましく快適に暮らすなら、日本はとてもいい国です。ただ、志や野心を持って何かを実現しようとしたら難しい。日本では、みんな競争が嫌いになっちゃったからね」

 そして、「日本では、みな小さくまとまりすぎています。もっと変わった子を許容する社会や教育システムが必要です」と語り、インタビューを締め括っています。

 実際、ビル・ゲイツもスティーブ・ジョブズも日本にはいないので、鈴木さんのおっしゃることはもっともだと思います。大昔に遡れば、エジソンはアメリカの人で日本人ではありませんでした。でも、電球や蓄音機があればそれでいいじゃないかという気がします。それから、このグローバルな時代に「国単位での勝った負けたを言うのもなぁ」とも思います。

 鈴木さんのインタビュー記事の隣の面は、読者からの投書欄でした。神奈川県の笠原博明さん(73歳)の近所のスーパーは、セルフレジが32台あるのに従来型は1台だそうです。スマホなどによる決済が苦手な高齢者は、従来型の1台に並ぶしかない。セルフレジのために買い物が出来ない高齢者はどうなるのだろうと、問題提起されています。

 電子マネーについていけない人にも、計算が難しい人にも、親切に接してくれる店員さんのような、そんなセルフレジの開発に取り組む技術者が出てきたらいいのにと、自分は思います。ネット戦勝国でありながら、カメラで監視したり、お金を使えなくしたりして、個人情報を徹底的に管理する国より、住みよい敗戦国の方がずっとましではないでしょうか。


(インタビュー)「ネット敗戦」の理由 インターネットイニシアティブ会長・鈴木幸一さん:朝日新聞デジタル

(インタビュー)「ネット敗戦」の理由 インターネットイニシアティブ会長・鈴木幸一さん:朝日新聞デジタル

 インターネットの時代が訪れて、はや30年。その間に創業したグーグルやアマゾンなどは、今や世界を席巻するガリバー企業だ。日本には、なぜそうしたビッグテックが育た...

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(声)セルフレジ、高齢者はどうする:朝日新聞デジタル

(声)セルフレジ、高齢者はどうする:朝日新聞デジタル

 無職 笠原博明(神奈川県 73) 近くの大型スーパーが改装され、新たにセルフレジが32台設置された。店員がいるレジは、前は7、8カ所あったが、今は通常1カ所だ...

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