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コラボ消費の四大原則

『シェア』より

コラボ消費のさまざまな例を見てゆくと、どのサービスにも、その根底に四つの大切な原則があることがわかる--それは、「クリティカル・マスの存在」「余剰キャパシティの活用」「共有資源の尊重」、そして「他者との信頼」だ。どれかひとつが他の原則よりとりわけ重要ということはない。実際、ある原則がサービスの成功の決め手になる場合もあれば、それがあまり大切でないこともある。

クリティカル・マスは、システムを自律的に維持するために充分なモメンタムがそこにあることを表す、社会学の用語。このコンセプトは、たとえば核連鎖反応や本のベストセラー化、またMP3のような新しいテクノロジーの普及といった幅広い分野のさまざまな現象を説明するために使われている。ニューヨーカー誌の名物ジャーナリスト、マルコム・グラッドウェルは、クリティカル・マスに到達する時点を「ティッピング・ポイント」と名づけ、これが広く知られるようになった。

まわりを見回しただけでも、ムダなものの多さに驚くはずだ。一日のうち二二時間は車庫に置きっぱなしの自動車。めったに使わない予備の寝室。いつか着るチャンスがあるかもしれないイヴニングドレス。一日の半分も使わないオフィススペースや設備。車がたまにしか通らない道路。倉庫に押し込んだムダなものたち。実際、アメリカ人が持っているものの八割は月に一度使われるか使われないかだ。コラボ消費の核心は、この余剰キャパシティをどのように分配し直すかだ。オンラインのソーシャルネットワークやGPS搭載の携帯デバイスといった最新のテクノロジーは、この問題をさまざまな方法で解決する手段になる。格安のネット接続が普及したおかげで生産性とモノの活用が最大化され、ハイパー消費が生みだす余剰を吸収するのにコストもかからなければ不便も感じない。「これこそがインターネットの存在理由、つまり大勢で余剰キャパシティをリアルタイムにシェアできるプラットフォームが、インターネットなんだ」

「共有資源」というコンセプト、つまり人類全員が所有する資源を示すこの言葉の起源はローマ時代にさかのぼる。古代ローマ人は、特定のもの、たとえば公園や道路、公共の建物などを「レ・パプリカ(公共の利用のためにとっておくもの)」と呼び、空気や水や自然の動物、また文化、言語、一般知識などを「レ・コミュニス(全員が共有するもの)」と呼んだ。この考え方は広く浸透し、一五世紀まではほとんどだれも疑問を抱かなかったが、その後イギリスでだれのものかわからない放牧地がとげのある柵で囲い込まれ、個人の所有物として分割された。私有地のコンセプトと土地の囲い込みは、一八世紀と一九世紀をとおしてヨーロッパとアメリカに急速に浸透した。資源をみなで共有することには個人による乱用や誤用の危険があるとして、私有化か正当化された。個人は必ず目先の自己利益のために行動するというシナリオは、それから一世紀後の一九六八年に微生物学者のガレット・ハーディンがサイエンス誌に寄稿した論文、「コモンズの悲劇」によって一般的になった。ハーディンは、これを家畜の放牧にたとえた。[だれでも入れる放牧地を想像してみよう。家畜をそこで放牧する飼い主は、家畜が牧草を食べ尽くしてしまう心配などせずに、一匹でも多くの家畜をその放牧地に送り込もうとする。もう一匹、もう一匹と……。共有の放牧地を利用する飼い主が全員合理的なら、みんながそう考えるはずだ。そこに悲劇がある」つまり、たとえそれが集団のだれにとっても得にならず、または将来の利益につながらないと知っていても、そうでなくても、人間は取りすぎてしまうのだ。ハーディンは「共有資源の自由は全員を滅ぼす」と断言した。

人々が協力してプロジェクトや特定のニーズにあたれるような適切なツールを持ち、お互いを監視し合う権利を上手に管理できれば、「コモナー(共有者)」は共有資源を自己管理できる。この考えを理想主義者の夢だと思うなら、イーベイ、ロンドンーリフトシェア、エアビーアンドビーなどの、移動参加者監視型でその大部分は自律的に運営されるサイトを思い浮かべてほしい。こうしたサイトでは、たいていのいざこざは、コミュニティ内部で解決されている。大成功したこれらの「マーケットプレイス」では、「命令と支配」によるトップダウンのメカニズムは使われず、それに伴う何段階もの許可や意思決定や仲介者も必要なくなる。こうした場では、P2Pのプラットフォームによって分散化したフラットなコミュニティがつくられ、「他者との信頼」が構築される。
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コラボ消費の登場

『シェア』より

この五〇年というもの、子どもたちは過剰に個人主義を重んじる社会で育ってきたために、生まれつき備わった自分勝手な性質が、同じように生まれつきもっている分かち合いの精神を覆い隠しても不思議はない。しかし、この傾向は変わりつつあるようだ。過去数年の間に、コラボレーション革命が静かに、しかし力強く起こりはじめ、文化や政治、経済のシステムの中でそれは勢いを増している。私たちは、資源をシェアし、オープンにすることで、個人の利益とコミュニティ全体の利益のバランスを保ちながら、どうやったら価値を創造できるかを、もう一度学び直している。人は、個人の自主性や自分らしさを失くさずとも力を合わせることができる。オンラインコミュニティ、シェアラブルの創始者、ニール・ゴレンフロが言うように、「コミュニティは、人々を、一人ひとりバラバラにいる時以上の存在にしてくれる。つまり、『コラボ的な個人主義』からみんながメリットを受ける」のだ。

コラボ消費を身近に行うミレニアム世代はますます増えている。だが、こうした習慣はひとつの世代だけの特徴ではない。さまざまな形のコラボ消費に参加するには、多少はネットに慣れていた方がいいけれど、テクノロジーオタクでなくても、パソコンの上級者でなくてもいいし、大都市に住んでいる必要もない。実際に、イーペイにとり憑かれた膨大な数のベビープーマー(ユーザーの二一パーセントは五〇歳以上)から、ますます頻繁に物々交換のサービスを利用しているジェネレーションXまで、多種多様なサブカルチャーや社会経済階層、年齢、性別、人種のグループが、それぞれ違う形のコラボ消費に参加している。

ただ、コラボ消費に参加するには、大きく分けて二つのやり方があり、それぞれが別の人々を惹きつけている。ひとつは、個人プロバイダーとして、貸し借りやシェアの対象になる資産を提供する立場。もうひとつは、個人ユーザーとしてモノやサービスを利用する立場。両方の立場で参加する人もいれば、一方の立場だけがいいという人もいる。ジロックやリレーライズをとおして、自動車や使わないものを貸し出して副収入を得たい人たちは、それを借りるユーザーとは違う動機があるはずだ。また、ソーパなどのソーシャルレンディング・サイトでお金を貸して高い金利を得ようとする人々は、借り手とは違う理由でこのサービスを利用している。

コラボ消費の利用者のなかには、先を読み、社会のためによかれと考える人もいるが、そうではなく、新しくよりよい方法を探したいという現実的な理由から利用する人たちもいる。その現実的な理由とは、お金や時間の節約かもしれないし、よりよいサービスを利用することかもしれない。それはまた、より持続可能な形で生活することかもしれないし、ブランドよりも人とより強くつながることかもしれない。コラボ消費に参加する人の大半は、少女ポリアンナのような無邪気な善人ではなく、資本市場や自己利益の追求といった原則を強く信じている。『カウンターカルチャーからサイバーカルチャーヘ』の中で著者のフレッド・ターナーは、こうした人たちは「個人が自己利益のために行動しながらも、同時に、それによってみんなが『ひとつになれる』ような、統一された社会が生まれることを望んでいるのだ」と言っている。

行動を変え、新しい習慣を根づかせるコラボ消費のパワーは、世界最大のカーシェアサービス、ジップカーが実施したマーケティングのキャンペーン、「車抜き(ローカー)ダイエットチャレンジ」の実験に表れている。ジップカーの会員は、アメリカ国内の四九都市に加え、ヴァンクーヴァー、トロント、ロンドンで、二四時間三六五日、最短で一時間単位からいつでもインターネットや弓ゴoコのアプリ、そして電話で自動車を利用できる。二〇〇九年七月一五日、世界中の一三都市から参加した二五〇名の参加者がーその多くは自称「クルマ中毒」で、カーシェアの「初心者」だ--車のキーと良心をジップカーに預け、一か月間自家用車に乗らないことにした。その代わり、参加者は公共の交通機関を利用したり、歩いたり、自転車に乗ったりして、必要な時だけ車に頼った(参加者にはジップカーの会員証が配られだ)。チャレンジ終了後のアンケートで、自家用車を持たない生活が、参加者のお財布や健康、そしてコミュニティにもよい影響を与えたことがわかった。参加者の公共交通機関の利用は九八パーセント増え、自動車での移動距離は六六パーセント減り、自家用車の付帯費用も平均で六七パーセント節約された。歩いた距離は九三パーセント伸び、自転車で走った距離は一三ニパーセント以上に増えた。運動量が増えたので、参加者の四七パーセントは体重が減った。その一か月間に減った体重の合計は一八七キロ、ひとりあたり平均二キロの減少になった。しかしこの実験の結果でもっとも注目すべきなのは、参加者の六一パーセントが今後も自家用車を持たない生活をつづけるつもりだとし、二二パーセントもそれを考慮中と答えたことだ。二五〇名の参加者中一〇〇名が、キーを返してほしくないと固辞したのだ。クルマ中毒がクルマ断ちに成功したのである。本書でも紹介してゆくように、コラボ消費につま先を踏み入れると、それが衣類の交換であれカーシェアであれ、それ以外の行動も少しずつ変わりはじめる。
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スターバックスの顧客価値創造システム

『なぜ、あの会社は顧客満足が高いのか』より スターバックスのオーナーシップ・バリューモデル

商品の提供時間は遅いといってもよい。さまざまなバリエーションのなかから自分の好みを見つけるためにはオーダー方法も学ばなくてはならないし、場合によっては何度も失敗を経験する。店舗や時間によっては空席もない。価格も決して安くはない。パートナーたちは、慌てる様子もなく、ただ笑顔で歓迎の意を示してくれている。そして、顧客はこうした「スピード」を楽しんでいる自分自身を楽しむことができる。同じような楽しみを感じている他の顧客との間には「見る・見られる」関係がある。自分は今日、スターバックスにふさわしいファッションで、スターバックスを物理的にも精神的にも楽しむことができる顧客なのだ、ということを顧客自身が確認し、店内で、あるいはサイレンと呼ばれる女神のプリントされたバッグを持ち帰ることによって発信しているようにも思われるのである。

このように、スターバックスは比較的高価格の商品を揃え、職場でも家庭でもない「サード・プレイス」において顧客がゆっくりとした「スピード」を楽しむことができるように心配りがなされている。

一方、店舗のパートナーたちの間で囁かれているのは、「商品の利幅は価格の実に九〇%を超える」ということである。現実には売上総利益率(二〇一一年度末)が七ご丁六%であることがいくぶん誇張されて共有されていると推察される。同社が法外な収益を上げていると結論づけるよりもむしろ、パートナーを奮い立たせ、ホスピタリティの溢れるサービスを提供する動機づけとしての効果にも目を向けることが必要である。パートナーたちの人間性、暖かさ、細やかな配慮なくしては、顧客もあえてスターバックスを選ばないだろう。それではつぎに、スターバックスのパートナーたちのオーナーシップを育成する仕組みについて確認しよう。

接客マニュアルはない。これは意外なことかもしれない。パートナーたちには臨機応変に顧客と接することが求められている。季節ごとのメニューや新メニューのマニュアルは用意されている。しかしこれらのマニュアルは自宅で予習し暗記するといった性質のものではない。マニュアルは原則的に持ち帰ることが禁じられている。アルバイトのパートナーたちも含め、営業時間が終わった後、自主的に学習しなければならない。

パートナーのトレーニングにはピア・コーチ制が採用されている。能力によって厳密なヒエラルキーがあり、アルバイトはOJT(on-the-Job Training、研修中という立場)、ショート、トール、ベンティ、というように、ビバレッジのサイズと同じ名前の階層があり、それぞれ給与も異なる。新人の研修期間は八○時間である。また経験と能力を身につけたパートナーはピア・コーチ(同僚の指導員)となり、下位のパートナーの指導役にもなる。この階層は勤務歴によらず、能力にもとづくものである。下位のパートナーは上位のパートナーの勤務時間に合わせてシフトを調整し、営業時間後のトレーニングもコーチ役の都合によるところがある。チームでの職務に就くこと、そして残業とは必ずしもみなされない自発的なトレーニングの時間を持つことがパートナーたちに求められている。

アルバイトの職階でも、OJTと最上位のピア・コーチとの問には一・五倍ほどの給与差がある。顧客がスターバックスに魅力を感じるのと同じように、スターバックスに勤務したいと考える者たちは多い。そして一旦店舗内の人間関係が構築されると、チーム単位での業務が多く、離職を抑えるはたらきもある。自然に、パートナー同士のコミュニケーションなくしては仕事を覚えることができず、人間関係づくりに困難を感じる者はスターバックスに勤めることはできない。結果として、同社の離職率は社員八%、アルバイト四〇%と業界では低水準であるといわれる。

アメリカではパートタイムの従業員も保険に加入させるという画期的な決定をしたように、パートナーを重んじる文化がある。日本のあるパートナーの言によると、スターバックスの給与や福利厚生は手厚い(もちろん、勤務する者たちにとって給与はより高い方が望ましいのだけれども)。

前項の最後にふれたとおり、「価格の大半が利益であること」がパートナーたちのモチベーションを高める効果を持っている。価格に見合ったサービスを提供するためには、コーヒーのみならず、顧客それぞれの好みに応じたカスタマイズに対応することのできる知識が必要である。同時に、笑顔や溌剌さ、心配りなくしては顧客を満足させることはでふないし、何より、職務を遂行するためにはパートナー同士が協力し合わなければならず、コミュニケーション・スキルの磨かれたパートナーたちがスターバックスを支えている。
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