転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



秋にピアノの発表会に出ないかと先生から言われていて、
もちろん娘ではなくて私のことなのだが(大汗)、
わかっていたのに、実は夏じゅう、ほとんどピアノを弾いていなかった。
どうするんだ、これから(爆)。

何を弾くかについては、夏前から少しずつ話が出ていて、
当初は、ずっと練習していたベートーヴェンのソナタ5番をやるかな?
と漠然と思っていたのだが、家のアプライトでならエラソーに弾けても、
人前で、不慣れな会場で、初めて触るピアノで弾いたらどうなるのか、
と考えると、だんだん憂鬱になってきた。

だったら、シューマンのユーゲントアルバムから何かやっては、
と先生が提案して下さった。
確かに、シューマン・イヤーではあるし、今年弾くにはぴったりだ。
それに志の低い話ではあるが、ユーゲントなら、とても易しい(汗)。
少なくとも暗譜に関する気楽さは、ベトベンとは比較にならない
(本番は無理に暗譜で弾かなくていい、とは言われているのだが、
自宅でなら暗譜で弾ける、というくらいまでは持っていく必要がある)。

ユーゲントアルバムで私が最も愛しているのは、
いちばん最初に載っている『Melodie』という曲だ。
譜面上は、ピアノを習いさえすればどんな小学生でも弾ける曲だが、
私は、これを弾くと、姑を、ばーちゃんを、思い出すのだ。
下降音型で、返事がなくても語りかけを続ける右手の旋律と、
お構いなしに、穏やかに機嫌良く歌っている左手と、
『おやすみ』と言うかのような、終わり方と。
この曲は私に、去年まで本当によく知っていた感覚を、思い起こさせる。

Robert Schumann melody(YouTube)

しかし本当に怖いのは、この曲は本質的にはとても難しいということだ。
ここまで音数が少ないと、一音一音の難しさが尋常でない。
どの程度の弾き手であるかは、最初の左手の一小節だけで明白になってしまう。
アンコールでいつでもバラキレフの『イスラメイ』が弾けるのに、
体調不良のときはクレメンティのソナチネが弾けないポゴレリチ(爆)、
の味わっている恐怖を、私なりのレベルで想像できる気がする一曲だ。

それはともかくとして、せっかく発表会に出てきて、
Melodie一曲、一分かそこらの演奏時間で引っ込む、
というのはオバさんには許されないことだ。
それでほかにもシューマンの小品を続けて弾くことになった。

『楽しき農夫』、これも小学校低学年で弾く曲だ。
私自身、初めて弾いたのは小学校1年生のときだった。
バイエルに掲載されていたのが、出会いだったのだ。
ただ、そのときは当時の先生の方針で、本来の曲集に関係のない、
このテのおまけ的な収録曲はお稽古しないで飛ばすことになっており、
この曲も、レッスンはして貰えなかった。
だから私は、家で自分で譜読みをして自分で弾いたのだ。
当然、出来映えには満足できなかった。
けれども、どこをなおせば良くなるのか、1年生にはわからなかった。

シューマン 楽しき農夫/演奏:石井晶子(YouTube)

私は今、40年ぶりに、失われた時を取り戻しつつある(爆)。
ちゃんと先生に習って、正しい『楽しき農夫』を弾くときが来たのだ。
そして、もはや、こちとらはオトナだから、
前曲のMelodieとの音色や雰囲気の変え方も考えなくてはならない。
元気よく弾けば褒められた7歳児ではないのだ(汗)。

いいオトナが、バイエルかそれ以下の技術の曲を弾くとどうなるか、
これは私の今回の大きなチャレンジだ。
だから、私としては、もう、この二曲で帰らせて貰いたかった。
しかし先生は、「短か過ぎる」と仰った。
そうか。そうだったな(苦笑)。
それで、もう一曲、弾くことになった。

Schumann: Phantasietanz op. 124 n.5 (Marco Lo Muscio, Piano)(YouTube)

Phantasietanzは英語だとFantasy Danceだろうと思うのだが、
私はこの曲を、もう少しうだうだと、気怠げに弾きたいと思っている。
勿論、キメるところはキメないといけないのだが、
このYouTubeのは随分と確固たる演奏になっていて、
私が思っているのと、少し違う。
だいたいシューマンというのは、私の印象では、
溜息をつきながら、モヤモヤの分散和音の中で目を回している、
という感じなのだ。
なんというか、なおりかけの良性発作性頭位目眩の中で踊っている、
みたいに弾きたい、というのが今の私の希望だ。

・・・ふ。弾ければ、な(逃)。

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