転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



5年前、今治にいたとき、子供会で『亥の子さん』という行事があった。
多分、10~11月頃、全国各地で行われるお祭りだとは思うのだが、
近所の子供達が『亥の子さん』をして、我が家にもまわって来た、
という経験は、なぜか、今治のときだけしか私はしなかった。

『亥の子さん』は、お祓いをした大きな石に、しめ縄を何本もつけ、
11月の、亥の日(に近い週末)の夕暮れに地元の小学生達が集まって、
家々をまわっては、しめ縄をひとりひとり手に持ち、
玄関の前で数え歌を歌いながら「ついて」まわる行事だった。
具体的には、皆で歌に合わせて、手に持った縄を上げ下げして、
石で玄関前の地面を叩くわけだ。
地域によっては、石を持つ子供達のほか、
鬼の面を被って舞を舞う役目の子もいたりするそうだ。

その数え歌というのが、今治のときは、こうだった。
出てくる音階は、「ラ」と「ソ」と「ミ」だけで、
いたってシンプルな節回しだった。

 いのこさん と いうひとは
 いちで たわらを ふんばって
 にで にっこり わろうて
 さんで さかずき さしおうて
 よっつ よのなか よいように
 い~つつ いつもの ごとくなり
 むっつ むびょう そくさいに
 ななつ なにごと ないように
 やっつ やしきを たてひろげ
 ここのつ こくらを たてならべ
 とおで とうとう おさまった
 しょうばい はんじょう するように
 おとこのこ が で~きるよ~に!!

これをやると、その家の人が出てきて、ご祝儀やお菓子をくれる。
日本版ハロウィーンみたいな感じが、なくもなかった。
学区内の、決められた範囲の家を一軒ずつまわって、
その都度、歌を歌って「亥の子さんをついて」、
全部終わると、当番の家に集まって、オヤツを食べた。
普段の門限より遅めの、暗くなって来た時間帯に、
皆で集まって遊べるので、子供達は面白がっていたものだった。

今治の地元のおばあさんが仰っていたところでは、
昔は、亥の子をさせて貰えるのは男の子だけだったそうだ。
最後の『男の子が出来るように』という歌詞にもあるように、
当時は、まずは男の子がいないことには、
農家だって商家だって、一家の安泰は望めなかったのだ。
立派な息子がいて、お嫁さんを貰って家を継いでというのが、
その頃の家族制度の中で考えられる幸せのかたちだったわけだから、
ここでいちいち男尊女卑!と怒るのは、ヤボというものだろう。

「でもねえ。今は子供が少ないけん、女の子がしてくれんと
亥の子さんができんよね。まず娘を欲しがる家も多いしね」
と、おばあさんは苦笑いをなさっていたものだった。

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