元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

東京日帰りの旅

2008-07-12 | 仕事について
昨年から東京で開催される文具などの大展示会ISOTに一緒に行こうと、分度器ドットコムの谷本氏と約束していました。
こんな早く起きないと東京にたどり着くことができないのかと思うくらい早く起きて、7時発の飛行機に乗るために神戸空港を目指しました。
神戸空港ができてから、東京行きは飛行機以外考えられないくらい、神戸空港は便利だと思っています。
三宮駅から20分以内という近さと、ポートライナーや車から降りてすぐに空港の建物に入ることができるという新神戸駅よりも小さいくらいの規模が、さらに便利に思わせます。
昨年オープン前の東京行脚から1年振りの上京ですが、それが何年も前のことに思えるくらい、自分を取り巻く環境は変わっていますが、毎日が次々と新しい展開で過ぎていき、それに感慨を感じる間もありませんでした。
ISOTの会場は見慣れた風景で、たくさんの人がいて、中には見たことのある方もたくさんいましたし、メーカーのブースでも懐かしい人に何人も会うことができました。
文具店よりもさらに狭い品揃えの当店にとって、取り入れることのできる目新しいものはさすがにあまりありませんでしたが、こうやって展示会でメーカーの新製品を見ていると、情報は常にアンテナを張り巡らせて、取りに行かなければ入ってこないと思いました。
当店に来てくださるメーカーや問屋の方々は新製品の情報を持ってきてくださいますが、その人たちが全てを網羅できるわけがなく、知らなかったことがたくさんあることを知りました。
そんな刺激を受ける場として、ISOTのような大展示会は良い機会だったのかもしれません。
以前は胸に下げた大看板の名刺を見て、メーカーの方が商品を見ている間じゅう張り付いて説明をしてくれたりしていましたが、今回はそういったこともなく、私たちは静かに、でもとても自由に会場を見て回り、自分たちのお金で昼食を食べ、お伺いを立てる上司もなく、自由にでもとてもシビアに自分たちが良いと思うものを買い付けることができる機会を楽しみ、足が痛くなるまで会場を歩きました。
会場を2周してから、私たちは銀座に行くことにしました。
目的は文具の聖地、イトーヤさんです。
もう10回以上行っているはずですが、何回行っても楽しめるお店で、私は何時間でもいることができます。
ゆりかもめと地下鉄でいつも行っていましたが、タクシーに乗ると15分くらいで行くことができることを知りました。
エレベーターで最上階に上がり、上から下に順番に見ることにしましたが、そのイトーヤさんの中で、偶然当店のお客様である奈良のI先生ご夫妻に会いました。
I先生は予告通り、お休みをとって、東京に来られていたのですが、聞いてみると私たちよりもハードなスケジュールで、ISOTを見た後、書斎館、パイロットペンステーション、イトーヤと回って、この後北欧の匠へ行くとのことでした。
イトーヤ見学を楽しんで、またさっきの運転手さんのタクシーで羽田に向かい、東京タワーやレインボーブリッジが見えた時、おのぼりさん丸出しではしゃぎながら、後部座席でドライブを楽しみました。
羽田第1ターミナルの書斎館も今回の見学コースに入れていました。
客数の多さから、青山本店も凌駕するほどの売上げを上げると思われる羽田空港の書斎館は、小さいながらも的確に売れ筋商品を絞って陳列していて、しかも書斎館らしさも持ち合わしているという見事なお店でした。
谷本氏と私はポスタルコのクォヴァディスカバーを買ってしまいましたが、今回の旅の良い記念になったと思いました。
帰りの飛行機の中、ほとんど寝ていて、富士山が見えるとか言って、はしゃいでいた行きの元気はありませんでしたが、たまたま大和出版印刷の川崎さんが同じ飛行機で、三宮駅まで車で送ってくださいました。
もう少し時間があれば、たくさんのお店を見て回りたかったと思いながら、駆け足の東京日帰りの旅の1日が終わりました。

結婚記念日のヴァンゴッホ

2008-07-07 | 仕事について
七夕の日が結婚記念日だというSさんご夫妻が、初めての結婚記念日の品にヴィスコンティヴァンゴッホを色違いで購入されました。
ヴァンゴッホは、万年筆にマニアックな知識のある男性の方よりも、若い方や女性の方などに人気がある、繊細な感性に選ばれるペンだと思っています。
天地が丸く仕上げられ、独特の色使いがされているヴァンゴッホにはとてもお洒落な雰囲気がありますし、大型の金ペン先仕様はなかなかの良いフィーリングを持っていると思います。
全てにおいて、こだわりのあるライフスタイルを持っているお二人に、とてもピッタリな選択だと思い、その特別な日の万年筆選びに立ち会えて、とても幸せな気分になりました。
ともに小学校の先生というハードなお仕事をしながら、共同生活を始めることに、いろんな苦労があったと思います。
別々の暮らしをしてきた二人が一緒に生活するわけですから、最初のうちは意見や考え方、生活習慣の違いから喧嘩をすることもあったと思いますので、1年をお二人が幸せに迎えることができたというのは、本当に価値のあることだと経験したことのある人はよく分かると思います。
ご主人とは彼が大学に入る前から知り合っていて、一緒にアーケードの落ちたセンター街の店頭のひどい環境の中でほこりで真っ白になりながら働きました。
その後、彼は教育大に進み、私は万年筆の道を歩き出し、別々の方向に行きましたが、ここで二人の道がまた交差したことに縁を感じます。
お二人の暮らしが、より幸せに充実したものになることを心から祈って、お二人の1周年を心からお祝いしたいと思いました。

楔の銘木

2008-07-03 | お店からのお知らせ

楔の永田さんが神戸に来るのに合わせて、ル・ボナーの松本さん、分度器ドットコムの谷本さんが閉店後の神戸の夜のために当店に来られました。
閉店まで時間があり、お客様もおられましたので、永田さんお得意の緊急展示会、即売会が始まりました。
当店での品揃えは永田さんのたくさんの作品の中から一般的なものをピックアップしていますので、様々な素材による永田さんの作品を全て見ることのできる貴重な機会で、居合わせたお客様は本当にラッキーだと思いました。今回もおもしろいものがあったので、ご紹介いたします。
永田さん、谷本さんより、少し遅れて松本さんがお店に来られましたが、松本さんが来られてすぐに永田さんが手渡していたのが、この分厚いハンドルがついた大型カッターナイフ、ルボナー松本モデルです。 https://www.p-n-m.net/contents/products/ZZ0056.html
革包丁は片刃のため、直線は切りやすいのですが、カーブを切るときに裁断面に角度ができてしまいます。両刃のカッターナイフなら、カーブを切っても角度ができず、きれいに切ることができるという理由と、切れ味が悪くなった時に革包丁のように研ぐ必要がなく、刃をパチンと折ればシャープな切れ味が戻るという理由で松本さんは革の裁断に革包丁ではなく、カッターナイフを使います。
そんな松本さんからの依頼で永田さんが作ったカッターナイフで、ウォールナットの手触りの良い厚いハンドルが付けられています。
革包丁を使う方が職人ぽく、見栄えもしますが、そこにこだわらず良いと思ったものを使う、合理的な松本さんの姿勢の表れのひとつが、この松本モデルカッターナイフです。受注生産で、3週間ほど時間をいただいています。ホームページからご注文いただけます。
パトリオットペンも今回は杢のすばらしいものが入りましたので、ご紹介します。
今までそれほど銘木というものに馴染みがなかった私たちも、「花梨のこぶ杢」の、複雑で見ていて楽しい木目に目が行くようになりました。
そんな花梨のこぶ杢の素晴らしいものが入ってきました。
https://www.p-n-m.net/contents/products/BP0041.html
グルグルとした木の目がビッシリとたくさん入った極上のものになっています。
それだけ値段は高くなってしまいますが、高級家具のように派手な木目を楽しむことができます。
黒柿は茶道具など、古くから日本の伝統工芸品に使われてきた素材ですが、1万本に1本しかないという「幹の中心が黒くなった柿の木」の孔雀のような木目が美しい杢が出たところだけを使っています。
木と平行方向に木取りしたものを板目取り、木と垂直方向に木取りしたものを木口取りと言います。
普通板目取りよりも木口取りの方が値段がかなり高くなりますが、美しい杢を楽しむことができます。https://www.p-n-m.net/contents/products/BP0039.html
使い続けると手の油で磨かれ、ピカピカの状態になり、美しい光沢を放ちます。
そして黒と灰色だけの墨絵の世界を連想させる日本的な美しさから珍重されている材料がこの黒柿です。
カッターナイフも何種類か入荷してきました。
スネークウッドは大変密度の高い木で、ずっしりとした重さがあり、手触りもツルツルして気持ちよく、その名の通り、蛇の地紋のような模様が特長的素材です。
スネークウッドの性質上、製品になってからでも月日が経つとヒビが入りますが、そこから壊れていくことはありません。
永田さんは木工家という肩書きの通り、そのものの機能やデザインよりも、木をいかに美しく表現するか、木の見た目や感触の良さを感じさせるためのキャンバスとして、ペンやカッターナイフを作っています。
文具業界にずっといましたので、今までそういった木へのアプローチを知ることがありませんでした。
永田さんとの出会いはいまだに私たちに新鮮な刺激を与えてくれます。
店を閉めた後、私たち一行はトアウエストの愛園で回る円卓を囲み夕食をし、バランザックへ流れていき、神戸の夜はすぐに更けていきました。