元町の夕暮れ ~万年筆店店主のブログ~

Pen and message.店主吉宗史博の日常のこと。思ったことなど。

オリジナルインク

2020-04-14 | 実生活

30代半ばの時に茶道の考え方に触れて、日本的な美意識について考えていました。茶道や日本の工芸に関する本を探して読んだりして、そのモノの美しさに対する考え方を日本人として感性で理解できていると思っていました。
インターネットのおかげで、情報は距離に関係なく手に入れられるようになって、世界は狭くなっていくと思っていました。
そういう世界だからこそ、日本の感性が感じられるモノ作りでないと世界で通用しないと考えていて、オリジナルインクも日本的美意識を感じられるもの、日本人が直感的に美しいと思える簡素の美 墨絵の世界の中の色をインクで表現したいと思って冬枯れインクを作りました。
グレーほど薄くなく、ブラックほど濃くない、書いた後紙にスーツと沈んでいく濃度。ページいっぱいに書いてもうるさくならないインクとして私も気に入って使っています。
インクブームが来るまでのオリジナルインクに対して、ロットが多く在庫負担になるわりに、売上の足しになりにくいと思っていましたが、店のこだわりや世界観を表現するものとして必要なものだと思っていました。
インクブームが、主にアジア圏からのお客様を中心としたインバウンド需要とともに突然訪れて、日本中のお店がその波に飲まれました。
当店もその恩恵を受けていましたし、毎日にように来られる言葉が通じないお客様に対してスリルを感じながら応対することが楽しかった。
その時、国境は感じられなくなり、世界は狭く感じられたけれど、これは今だけのことだと少し冷めた目で見てもいました。
以前にイメージした世界になっているのに、冷めた目で見ていた自分が可笑しいですが、いずれ終わると思っていたインクブームが懐かしく感じられます。
きっとあんなことは二度と起こらないだろうと思います。
私たちステーショナリーの店、業界の人間はインクに次ぐ一手を考えないといけなかったけれど、それと同時にコロナウイルスで全く変わってしまった世界の中でどう生き抜くか考えないといけなくなった。
自分たちのこだわり、世界観を表現するために作っているオリジナルインクに、過ぎ去ってしまった懐かしい日々の思い出が付け加えられたことで、オリジナルインクはますます大切なものになったけれど。