海外企業買収:件数、金額とも最高 円高・株安が後押し
2012年1月5日 19時53分 更新:1月6日 0時21分
昨年1年間の日本企業による海外企業の買収が、件数、金額とも過去最高だったことが米調査会社トムソン・ロイターのまとめで分かった。国内需要の低迷で海外に活路を求める動きが活発化するなか、1ドル=70円台後半に定着した円高や世界的な株安で買収コストが低下していることも後押ししている。今年も薬品や食品など内需型産業を中心に、海外企業の買収は高水準で推移すると見られている。
昨年の件数は前年比19.4%増の634件で、金額は80.1%増の690億4400万ドル。金額はこれまで最高だった08年の675億2600万ドルを上回り、過去最高を更新。ただ、円建てでは5兆5118億円で、過去最高の08年(6兆9935億円)に次ぐ規模だった。この間に進行した円高・ドル安が影響した。
金額で最大だった案件は、約1兆1000億円に上った武田薬品工業によるスイスの製薬大手ナイコメッド買収。買収される企業の業種別では昨年、「ヘルスケア」が1.7兆円でトップだったが、武田のナイコメッド買収が大きく貢献した。
最近では「内需型産業」とも言える保険会社の買収意欲も高い。昨年は国内損害保険最大手の東京海上ホールディングスが米中堅保険デルファイ・ファイナンシャル・グループを約2000億円かけて完全子会社化すると発表。また、三井住友海上火災保険がインドネシア大手財閥傘下のシナールマス生命に約700億円、日本生命保険がインドの生保リライアンス・ライフに約480億円をそれぞれ出資するなど、各社のアジア展開も加速している。
円高メリットを生かして資源権益確保を急ぐのは大手商社。昨年は伊藤忠商事が米投資ファンドなどと共同で米石油ガス開発会社を約5400億円で買収する大型案件があった。
野村証券でM&Aを担当する奥田健太郎執行役員は今後の見通しについて「最近では金額はやや小さいが中国の案件が増えており、日本企業のアジア市場の開拓意欲をうかがわせる」とする一方、「債務危機の影響で欧州関係は少ないが、世界的には昨年と同じような規模が見込まれる」と指摘している。
【岩崎誠】毎日JP