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赤染晶子 『乙女の密告』

2010-08-25 | 本の紹介
第143回芥川賞受賞の赤染晶子著『乙女の密告』を読みました。
単行本もすでに出版されていますが、
総合言論誌『文藝春秋』に全文掲載されているのでそれを読みました。
今年の春からこの雑誌を図書館に入れています。

出版の新潮社によるあらすじ―――
京都の大学で、『アンネの日記』を教材にドイツ語を学ぶ乙女たち。
日本式の努力と根性を愛するバッハマン教授のもと、スピーチコンテストに向け、
「一九四四年四月九日、日曜日の夜」の暗記に励んでいる。
ところがある日、教授と女学生の間に黒い噂が流れ…。
(わたしは密告される。必ず密告される)―

赤染さんはこの作品を書くにあたって、
同じ強制収容所から生還した一人の女性が書き残した
「こんなことは、アンネは望んでいなかった」という言葉が、
作品の出発点になったと明かしました。
この女性、アメロンヘンは戦後にアンネの隠れ家を訪れた際、
しきりに写真を撮る観光客、特に日本人に違和感を覚えたそうです。

この作者の言葉にハッとしました。
「耐え忍んだアンネ」「かわいそうなアンネ」「苦境の中で日記を書き続けたアンネ」
という何となくロマンチックなイメージを私たちは持っています。
それは、もしかしたら勝手に作り上げたイメージなのかもしれないと思いました。
アンネは、自己(=ユダヤ人)を直視することで絶望していたのかもしれません。
他者(=オランダ人)になりたくてもなれない自分。

それから、
女学生たちがスピーチ原稿を「忘れる」という恐怖が、
アンネの「忘れられる」悲しみとも相まっています。

文藝春秋には、芥川賞選者たちによる書評も載っています。
作家たちがこの作品をどう読み、評価したのかが各々違っていて面白かったです。
ちなみに石原慎太郎氏はこの作品がお気に召さなかったようです・・・

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