カワセミ側溝から

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

鞄の中身問題

2020-02-14 | 掲示板

 普段から鞄は持ち歩いている。無いと困るのではないかとは思う。中身に関しては、あまり考えてはいなかった。必要なものが入っているはずだという感覚のみであろう。
 鞄の中身を、毎日全部出してから詰めなおした方がいいという話がある。もう何年も前から、いわゆるビジネス書関連の本に書かれだした内容だと思う。いろんなところで目にするので、一種の流行りなのではないか、と疑っていた。最初は佐藤可士和あたりが言っていたような気もするが、それなりに評価する人が居るようで、ボツボツ見るようになっていたものが、段々広がりを見せるようになっている。多くの人が実感を伴って紹介しているということだろう。
 要するに、鞄の中身を点検しなおすことで、さらに効率が増すということを言っているわけだ。鞄の中身は、それなりに無駄が残っている可能性があり、そういうものを点検して見直すだけで、さらに自らを磨き上げられるだけでなく、いわゆるリセット効果のようなもので、やる気まで引き出されるという。またはその象徴的な作業ということなのかもしれない。
 その通りかもしれないとは思う。とは思うというのは、とは思わない自分がいるということだ。
 鞄の中に無駄なものがあるのは、当たり前ではないかと思うからだ。その日に使うか使わないか、必ずしも明確でないものが入っている。そういう状態こそが、ある意味で自然ではないか。鞄に入れておくものは、そういうものを含んだ方が、むしろいい場合もあるのではないか。
 それというのも、鞄には保険のような効果もあるからだ。とりあえず持って出るだけで、困らないかもしれないという安堵がある。持っていても困る場合はあるにはある。持っているはずのもの、入っていると思っていたものが無い(もしくは見つからない)ということが、絶対に避けられないわけではない。そういうことを避けようと思えば、毎日登山用のリュックを背負う必要があるだろう。それなりに最小限くらいとは思いながら、厳選まではしないまでも、中身を詰めていたはずである。もちろん時々は、これ要らんな、くらいで取り出すことはある。全部を毎日やるというのが、何か滑稽な感じがするのである。要するに、そういう時間があれば、他のことをするだろう(それくらいの時間は無いわけではなかろうが)。
 まあ、意味として、自分の目的意識にフォーカスして、日々を送る必要というのは分かる。それくらい忙しい毎日を送る中で、さらに無駄になる要素が、生活の中に潜んでいるのも分かる。しかし、鞄の中の無駄な要素は、それらのことをなんとなくカバーするようなものがあるのではないか。いつまでも入れたままで読まない文庫本とか、実は請求出来た領収書とか、ひょいと必要になった絆創膏だとか、そういうものが入っている方が、世の中豊かなのではないか。もちろん無駄のために重いものを常時運ぶ必要はない。しかし、そういう妙なものが自分の中にあることが、自分なりのミステリで面白いのである。
 まあ、やっぱり時には整理はしてみよう。捨てるものがあるのも、それなりにいい気分ではある。そうして新しいものを、また詰めなおせばいいのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

オタクのファンは本当に純粋なのだろうか   ファンボーイズ

2020-02-13 | 映画

ファンボーイズ/カイル・ニューマン監督

 癌のために余命が少なくなったと考えられる友人に、公開前のスターウォーズの新作フィルムを盗み出して観ようとする仲間たちの友情物語。基本的にはふざけたコメディだが、スターウォーズに熱狂する若者オタクたちの青春を、素直に描いた作品となっている。フィルムを盗むために、ジョージ・ルーカスの財団のようなものの博物館に行くのだが、長旅の上、何故かスター・トレックのファンの集団の妨害を受けるなどする。オタクたちは、分野によって住み分けられ、仲が悪いらしい。
 またオタク男たちに混ざって、ついてくる女の子もいたりする。要するに恋愛劇も起こりそうなのだが、オタクと恋愛の相性はあまり良くない。いったいどうなるのか? ということもある。不思議な話もあるし、それでいいのかどうかよくわからないものもある。つまるところ、ファンというのはその思いの強さゆえに、もっと面白いことをやってしまうということなんだろう。日本のオタクもそうなのかよく分からないが、映画館で盛り上がっている姿を見ると、やっぱりアメリカ人は、映画を楽しむ姿勢が日本とはかなり違うな、という感じが伝わる。映画も演劇もコンサートも、おそらくみんな一緒のノリで楽しめるのだろう。
 まあ、なんとなくいい話にはなっていて、やっていることは犯罪行為なのだが、なんだか罪の意識はみじんもない。夢のある行動は許される、という考え方なのだろうか。そういうことこそ罪深いのではないか、と僕は思うが、思わない人が作っているのであろうから、どうにもなるわけではない。そういう世界の話なので、受け入れられる人が観るように致しましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

1+1に答えは?

2020-02-12 | ことば

 スープを作るにあたって、様々な食材を生かし、最高のものを作ろうとする料理人を紹介するものを見た。その人の談で、目指しているスープは「1+1のものが3になるように」作られるのだということだった。
 まあ、意味は分かるような気はするのだが、3になるのであれば、1+2だったりするはずなのが正解で、いくら1+1を試したところで、3にはならないからこそ意味があるのである。それが数学というものであって、根本的に考えを理解していないと思われる。
 しかし、繰り返すが、意味は分かるし、そういうものかもしれないという雰囲気も良く伝わりはするのである。食材の組み合わせというハーモニーが、不思議な化学反応のようなもので、深みのあるスープの味となるのであろう。それは確かに1+1のような組み合わせのはずなのに、3になってしまうように感じられるのであろう。
 そうなんだけど、実際には1+1ではなかったから3という結果が得られたのだ、というのが、数学的な答えなのである。そこに実証的な態度がある。そうしてだからこそ本当の意味を知ることができるのだ。要するにこれは数式を借りた文学であって、フィクションである。そういう世界の話が、この世にも存在するという空想を共有する人々の物語なのでありましょう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

暴力から逃れられない自由人たち   菊とギロチン

2020-02-11 | 映画

菊とギロチン/瀬々敬久監督

 関東大震災後の時代。夫の暴力から逃げ出した女性が、女相撲の興行団体に入って相撲に打ち込むようになる。同時期、アナーキズムを標榜する政治ゴロのグループが、エロ目的で女相撲に興味をもって同行するようになる。社会の動きの中で、彼女らの運命も振り回されることになるのだった。
 社会運動家なのか、単なるタカリ屋なのか、それともチンピラなのか分からない連中と、人々を抑圧する権力の横行を描いているようなのだが、なんだかピントがしっかりあっていない感じ。演出上大声を出して暴れる人々が多いので、何か演技が下手な連中がたむろっているような印象を受ける。俳優たちは決して演技が下手なわけではないのだろうが、何か下手にしないとならないような、空気が流れているようだ。そうして、話がやたらに長い。ソリッドに切れるものが、もっとあっても良かったのではないか。
 また後半に様々な暴力が実際に錯綜するが、これらから逃げていることが出発点にもかかわらず、甘んじて受けている人が多いように思う。ボクサーではないのだから、これだけ打たれてしまうと、それなりにダメージは深いものである。暴力も表面的なものに過ぎない印象を受けてしまう。向き合うのであれば、もう少し真摯に向き合うべきなのではないか。
 おそらく実話がベースになっているようだが、必ずしも史実に忠実なわけでもなさそうだ。もちろんドキュメンタリーではないのだから、それでもいいのである。ただし、着色して訴えたかったものがきっとあったはずだ。そうした映画的な文法のようなものが、今一つ読み取りにくい作品だった。ちょっと惜しいところもあって、面白くなりそうなのだが、なんだかそこで切れてしまう。そういうところが、一番残念だったかもしれない。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

絵本・漫画(昨年読んだお勧め本5)

2020-02-10 | なんでもランキング


もうぬげない/ヨシタケシンスケ著(ブロンズ新社)
 子供向け絵本。著者をテレビで見て、面白い人だな、と思って購入。この人の絵本は、様々な国でも翻訳出版されているという。もちろん日本でも絶大な人気を誇っているようだ。知らない方面のお話とはいえ、凄いです。
 題名の通り、子供が風呂にはいれと言われて服を脱いでいる最中に、服が引っ掛かってどうしようもなくなる。それで、もうこのままでもいいや、って感じになったりするいきさつが描かれているわけだが、このような危機を迎えている子供は数知れずいても、絵本になったのは世界初であると絶賛されたものである。

ナージャの5つのがっこう/キーロバ・ナージャ著(大日本図書)
 絵本。ナージャさんは親の転勤の関係で、ロシヤ、英国、フランス、米国、そして日本の学校を転々とした経験があるようだ。この絵本はそれらの学校の様子を紹介したもの。国によって学校に持っていくものが違うし、教室の机の並べ方などが違う。昼の食べ方も違うし、先生の教え方も違う様子だ。どこの国がどういいとか悪いとかいうことでなく、違うんだな、ということがとにかく確認できる。そうして国際比較をしたとき、一番変な国がどこなのか、明らかにされるのである。

刑務所の前/花輪和一著(小学館)
 漫画、全三巻。凄い作品である。
 著者は銃刀法違反で実刑を受けた経験があるようだが、そういう経緯を含めた体験談が語られているはずの内容である。そうであるのだが、実はいきなり時代劇(おそらく室町)でもあり、鉄砲鍛冶屋の娘の視点で、親子の屈折した憎悪や愛などを描いたものである。あまりにも内容が錯綜してあり、とても一言では筋を語ることはできないが、傑作であることは間違いない。頭の中がグラグラするかもしれないが、ご堪能あれ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

砂漠で商売と恋愛   王様のためのホログラム

2020-02-09 | 映画

王様のためのホログラム/トム・ティクヴァ監督

 中東の王様に3Dホログラム映像システムの営業をかけることになる。現地に行ってみると、炎天下、それなりに立派だがオフェスはテントだし(エアコンが効かない)、秘書に問い合わせてアポを取っているが、王様はいつも不在。八方ふさがりにみえた中、背中に瘤ができて、体調の方も悪くなっていく。
 笑えはしないが、一応コメディなのかもしれない。向こうではこういう妙な絶望的設定を自ら笑ってしまう自虐的なコメディというのが時々つくられる。一緒になって困っていって、さて、本当にどうするか、というカタルシスを得ようという算段なのかもしれない。
 だからこの場合の設定から考えて、最終的には営業がうまくいかなくてはいけないような気がするが、物語はちょっと違う風に展開していく。中年以上の男女のためのお話というか、なんというか。これって恋愛映画だったのか…。
 というわけで、意外な展開ではあったわけだが、面白かった訳でもない。中東の様子はなんとなくわかるけれど、ものすごく金持ちが何やら高い車に乗っているけど、何をやっているのかミステリアスで、本当に仕事をしているのか分からない。結局夢の国のようだ。
 王様といっても、ふつうは一人なのだろうが、あちらの国には様々な親戚関係があったりして、複雑に王室があるような印象がある。まあ、親戚家族がいるのは当たり前だろうし、さらに側近などもいてそうで、息子や兄弟がうじゃうじゃいるということなんだじゃなかろうか。利権が一族や民族に絡んでいて、本当には西洋的な商売ができないのではなかろうか。まあ、そういうのも想像上のことかもしれないが。日本も石油買っているので(それもプレミア価格)、ああいうところで苦労している人はいるのだろう。砂漠というのはなんとなく楽しそうじゃないけど、頑張ってください(映画では海もありました)。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

小説・ミステリ(昨年読んだお勧め本4)

2020-02-08 | なんでもランキング


コンビニ人間/村田紗耶香著(文春文庫)
 コンビニでのバイト風景と、主人公の36歳・女である古倉の小人生的なことがつづられている。妙な感じはするにはするが、ちょっと変わった感性の女性なんだろうという風に思いながら読み進んでいた。ところが段々と常軌を逸してきて、とんでもないお話に発展していくような感覚に陥る。なんなんだこれは。
 芥川賞受賞作は、読んでつまらない小説、といわれている。なのでこれは例外的に面白い小説なのである。

自負と偏見/ジェーン・オースティン著(新潮文庫)
 断るまでもなく英国の古典的名作である。なんだか分厚いし、男である僕が中年になって手に取るような小説とは考えにくい内容ではある。まあ、ふつうは表紙さえも見ないものではないか。ところがそうしてしまったのは、なんとなく古典的な英国の階級社会の日常というものが何なのか、覗いてみたくなったのと、この作品が映画界では繰り返し作られていることを知っているからだ。「高慢と偏見」であったり「自負と偏見」であったり「プライドと偏見」というのもあるが、すべてこの小説を題材にしている。映画だけでなくドラマ化された作品も多数ありそうで、まるで水戸黄門のように繰り返し量産されている。おそらくだが、そのような作品だからこそ、普遍的に愛されているのである。

ここからはミステリ作品。
悪意/ホーカン・ネッセル著(東京創元社)
 5編組んであるので短編集であるが、最後の一編以外はそれなりに重厚な物語構成になっており、日本のいわゆる短編集とは違う感じだ。二段組でもあるし、読みごたえがある。先が気になって仕方なくなるので、この長さでないと我慢できないかもしれないが。
 殺人事件が主で、いわゆるミステリ作品なのだが、文学作品としてたいへんに優れているのではないか。ものすごく上手い文章だし、構成が見事なのである。人間心理が描けていて、適度のユーモアがある。独特の皮肉も効いていて、思わず唸らされる。それでいて面白くて読むのがやめられない。こんな作品にはめったに出会えるものではない。

連続殺人鬼カエル男/中山七里著(宝島社)
 マンションの13階に、フックにかけられた女性の腐敗した全裸死体が発見される。傍らには、子供が書いたような文章が残されていた。その後も第二第三と猟奇殺人が行われ、小さな町は大パニックに陥れられる。何のつながりも見いだせない連続猟奇殺人に、警察の捜査も犯人に絞り切れるものが見つからないのだった。
 猟奇殺人のホラー的な要素と、まちが恐怖のためのパニックに陥った後の、警察への暴動スペクタクルへ発展する。映画で言えばB級ホラーめいた展開になりながら、執拗に残酷と暴力描写が続く。そうして最後には、大どんでん返しの仕掛けが爆裂するのである。

楽園のカンヴァス/原田マハ著(新潮文庫)
 日本とアメリカのアンリ・ルソー研究家の二人が、スイスの大富豪に呼び寄せられる。ルソーの最晩年に描かれた「夢」に酷似する「夢を見た」という作品をめぐって、真贋どちらか判断をさせるためだった。さらにその判断をするために、一日に一章ずつだけある物語を読まされる。全部で七章あるらしく、その物語を読んだ最終日に絵の判断を下さなければならないルールである。勝った方には、その絵を自由にしていい権利を与えられることになるというのだったが…。こういうスケールの作品を日本人が書いているのは、実に珍しいことのように思える。これは国際的にも絶対にウケるはずである。

悪いうさぎ/若竹七海著(文春文庫)
 女探偵は家出中の女子高生を連れ戻す際に負傷する。何とか退院するが、その後またその友人の行方不明の女の捜査を頼まれる。他にも行方が分からない友人もいるらしい。何か妙なつながりがありながら、金持ちの家同士の確執も絡み、物語の行方はどんどん妙な展開を見せていく。そういう中に親友に彼氏ができるが、どうもこの男も結婚詐欺師らしい。友情も捜査も、なんとなく気になる人も、そうして怪しい大人たちも、どんどんと黒い闇の世界に引きずり込まれていくのだった。女であることの困難を描いて、さらに難事件と身の危険もある。もう大変なんである。

チョコレートゲーム/岡嶋二人著(講談社文庫)
 作家である近内は、息子の様子がおかしいと妻から言われる。どうも時折学校を無断で休んでいるらしい。話をしようにも、荒々しく拒否されるだけで取り付く島もない。ある日息子が家を飛び出して外泊した晩に、息子の同級生が何者かに殺されたことを新聞で知る。学校で何か大きな事件が起こったらしい。そうしてこの事件に息子が大きく関与しているらしいのだったが…。古典的に有名なミステリらしい。確かにトリックの小道具が、時代的になっているが、だからと言って本当には古くなってはいない。改めて素晴らしい構成ではなかろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

お金が好きは純粋だから   ひみつの花園

2020-02-07 | 映画

ひみつの花園/矢口史靖監督

 子供のころからお金に関して執着していた咲子は、好きが高じて銀行員になって毎日お金を数える生活ができて、ちょっとだけ満足していた。が、銀行強盗に一緒にさらわれ逃亡したのち、五億円の行方が分からないまま車は爆発炎上して投げ出されて、富士の樹海の水脈に流され、奇跡的に命は助かる。
 警察や報道では、車が爆発炎上した際に五億円は一緒に失われてしまったとされていたのだが、咲子の記憶では、しばらく五億円ととともに富士の樹海をさまよった記憶がある。それを頼りに五億円を探すために、咲子は地質学の勉強を始め、またそれらの資金を稼ぎ出すために、多少怪しい仕事まで精力的にこなすようになる。その一途な思いが届いて、五億円が見つかるのだろうか…。
 福岡伸一が雑誌のコラムで紹介していたので、興味をもって観ることにした。矢口監督も定評のある監督ではあるが、いかんせん多少古臭くなっているチープな作りの映画である。ところがこのチープな感じはあえての演出であって、さらに多少の古さがあるのが、それなりの味のようなものになっており、今の風俗とはずいぶん違った若者描写が随所に見られる。コメディとしても緩くてそれなりに成功しており、正直言って思った以上に面白い。ハマるというのかなんというのか、主人公の行動はかなり破天荒で危なっかしく、非現実的ではあるんだが、素直にいつの間にか応援したくなる自分がいるのである。そうしてほだされていくというか、主人公咲子に思い入れをしていくようになるというか、さらに尊敬の念まで抱くようになっていくのである。
 はっきり言って咲子の行動は単純で直線的で、馬鹿げている。実際に周りの人は、迷惑を感じながらも馬鹿にしている。嫉妬も受けて妨害もされる。しかし水泳も頑張り山登りも頑張り測量の技術を磨き、必死にノートを取り勉強する。お金のために散財して、無一文になる。そうして五億円を手にすることだけが、彼女の目的だったのか? ということになるのである。
 すべてのチャレンジャーに送る賛歌である。そうして生きていくことがつらい人への応援歌である。こういう生き方は誰もができるものではないのかもしれないが、人間が生きていくうえで、一番の楽しさは、ここになるのではないか。チープだけど素晴らしいコメディの傑作である。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

猪瀬本(凄いです)(昨年読んだお勧め本3)

2020-02-06 | なんでもランキング

 昨年は、猪瀬直樹を定期的に読んだ。なかなか噛み応えのある本が多いので、一筋縄ではいかないが、面白いのでつい読んでしまう。そうしてものすごくためになる。猪瀬直樹は、日本人の必読書・作家なのではなかろうか。

昭和16年夏の敗戦/猪瀬直樹著(中公文庫)
 先の大戦前に、いわゆる若い日本のエリートを集めて日米大戦のシミュレーションを行った。その結果は、現実の大戦とほとんど同じような展開を見せて、敗戦となるものであった。その報告を受けてもなお、東条首相は(負けると分かっている戦いを)避けることはできなかった。陸軍相としては、軍の後ろ盾から開戦論をぶっていた東条だったが、開戦を避けたい意向だった天皇の指名を受けて首相となり、何とか米国との戦いを避けるよう模索する。しかし、正式な討議をしてもなお、開戦に追い込まれていくしかない日本の政治の姿に、あらがうことはできなかった。戦後は東条のような軍部出身の政治家などは、すっかり悪人に仕立て上げられ、その責任を一部の人間に背負わされてしまった。そうして現代も、そういう誤解は解かれてないのではないか。

天皇の影法師/猪瀬直樹著(中公文庫)
 大正天皇が崩御した朝、東京日日新聞(現毎日新聞)は新元号を「光文」と報じた。実際はご存知の通り「昭和」だったわけで大誤報だったのだが、その顛末とは何だったのか。さらに森鴎外の最晩年に元号にかける強い思いとは何だったのか。歴代天皇棺を担いできた八瀬童子といわれるある村の人々とは。など、天皇にまつわるシステムについて考えるルポルタージュである。新元号が生まれる直近になったので手に取ったわけだが、それ以上に収穫があった。

黒船の世紀/猪瀬直樹著(角川ソフィア文庫)
 副題に「〈外交〉と〈世論〉の日米開戦秘史」とある。徳川の歴史の終焉には、ペリー来航の外圧が大きなきっかけだったわけだが、そのような米国の外圧は、太平洋戦争と突き進まざるを得なかった日本の運命ともつながっていた。開戦前には米国は、日本の脅威におびえていた。そうして日本との開戦を描いた作品がたくさん作られた。実は日本も同じで、日米開戦を扱った作品がベストセラーになったりした。そうして扇動された大衆が、開戦を望む内閣を後押ししていくのである。

ミカドの肖像/猪瀬直樹著(小学館文庫)
 西武グループのコクドが旧皇室の土地を次々と買い取りプリンスホテルを建てていく物語から、皇室を読み解いていく。中心だか周辺だか分からない距離感で、日本人の潜在的に持っている皇室観が浮き上がっていく。いろんな意味で、目から鱗が落ちまくること必至。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

需要をうまくとらえた設定の勝利   岬の兄妹

2020-02-05 | 映画

岬の兄妹/片山慎三監督

 兄は足に障害がある様子で、勤めていた工場は人員削減のためなのか首になる。妹は知的障害があるようで、時々失踪する先で、男と関係を持ち、こづかいまでもらっていたようだ。最初兄は、このような売春まがいの行動をとる妹に対して、情けなさや心配もあり激しく叱る。しかし生活は困窮しており、罪の意識をみじんも持たないであろう困った妹を使って、売春の斡旋をして収入を得るという方法を思いつくのだった。
 最初に断っておくと、僕のような福祉的な仕事をしている人間にかかわるだけで、こういう生活に陥る必要はなくなる。サポートする方法は、山のようにあるからだ。なぜこれほど孤立しているのかは不明だが(障害年金だってもらえるだろうし、行政が放っておくとは考えにくい)、そういうことを成立させる条件なのだから仕方がない。だけれど、これは好きで困窮しているようなものであって、現代日本では、ちょっと考えづらい状況であるとは断っておくべきだろう。要するにある意味でファンタジーである。
 そうではあるが、設定の面白さがあって、悲惨な話だけれど、それなりに注意深く観ることができる。特に面白い視点だと思ったのは、同じく小人症の客の対応である。売春客でありながら、妹はなんとなく好意を抱いている様子があって(同じような障害者としての仲間意識かもしれない)、妊娠したのを機に、兄はこの客に相談に行くのである。しかし、この小人症の男は、好きでもなんでもないと、冷たく拒むのである。しかし、何かそこに複雑な心情が絡んでいるように見えて、なるほどな、と思わされた。この設定の大勝利といっていいだろう。
 障害者が売春をすることで、客としては逆に売春へのハードルが下がるような様子も見て取れる。いわゆるヤクザなプロではないというのもあろうし、高齢の客だとか、高校生だとか、女性として性の対象のハードルが下がるのかもしれない。そういうのも、なかなか考えさせられることである。要するに需要がありそうな感じがあって、鋭いのではないか。実際にボーダーといわれる人たちが、一定以上性風俗にはかかわっているとされている現状もある。そうでなければ成り立たない世界であるかもしれなくて、この映画が語っているのは、実は限定的な悲劇ではないかもしれないのである。
 障害者を扱った映画がこれまでなかったわけではないが、このように正面から体当たりの映画というのは、さらに数少ないことと思われる。そうして出来栄えもいいから、たいへんに話題になった。楽しい映画ではないかもしれないけれど、こういうものは、やっぱり観るべき映画だと思う。まあ、さらに誤解する人もいるかもしれないが、もともと偏見の世の中である。是非とも打ちのめされていただきたい。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

新書・入門(昨年読んだお勧め本2)

2020-02-04 | なんでもランキング

 新書・入門だからといって侮れない。から、紹介するのです。

なぜフランスでは子どもが増えるのか/中島さおり著(講談社現代新書)
 ヨーロッパの女性がどうしてこんなに強いのか、これで理解できるのではないか。要するに日本の女性も間違いなく将来的にはもっと強くなる。しかし、このようなライフスタイルになるためには、日本には様々なハードルが横たわっている。働き方改革をはじめ、人の幸せとは何かも考えさせられる。

いじめと探偵/阿部泰尚著(幻冬舎新書)
 学校で起こっているいじめの実態を、探偵という職業を通してレポートしたもの。いじめられている子供や家庭の問題から、当然ながらいじめを行っている加害者のことも書いてある。また自殺やレイプなど深刻な問題や、このような問題が起こる学校という環境についても詳しい。ほとんど知らないことだらけだったので、本当に目から鱗が落ちた。そして学校がやる気にさえなれば、いじめは撲滅できると確信できた。
 
現代人の論語/呉知英著(文春文庫)
 題名の通りの内容であると思う。論語は古い書物であるが、現代のわれわれにも十分に影響力を持つ内容を持っている。もちろんそのことは多くの専門家を魅了し続け、研究しつくされていることではあろうと思われる。そうではありながら、実際のところ今に伝わる論語の内容の多くは曲解され誤解されている。現代人ゆえの理解のなさや、考え方の浅さによることが多いためではなかろうか。残念ながら論語を読むのは、そう簡単なことではないからである。そのまま読んでも理解できなくなったものは、解説を交えて読むより仕方がない。そうして面白さは、改めて知ることになるのである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

バイオレンスで精神を安定させる   ディス・ウィッシュ

2020-02-03 | 映画

ディス・ウィッシュ/イーライ・ロイ監督

 当時はチャールズ・ブロンソン主演の邦題は「狼よさらば」で有名な作品のリメイクを、主演がブルース・ウィリスで作られた作品。設定も微妙に違って、設計士から医者になっている。ブルース・ウィリスが医者? っと思わず突っ込みたくなるが、まあ、愛嬌はあってもいいかもしれない。
 犯罪都市シカゴにあって、不条理に暴力の犠牲になる一般市民がありながら、チンピラまがいの人間の命を、救急医療の医師である自分は助けている。そんな中、強盗団が自宅に押し入り妻は殺され、娘は意識不明の重体に陥る。警察の捜査は進まず、家族を守れなかった自責の念に苦しめられる医者は、自警的に銃をとるアメリカの思想に共感を抱くようになる。そして、ある時重体で担ぎ込まれたチンピラのポケットからこぼれ落ちた銃をくすねて、街を徘徊する。そうやって偶然遭遇した犯罪者を、自ら銃殺処刑するのだった。
 ここで処刑現場を見ていた一般女性がおり、彼女は映像をネットにあげていた。たちまち話題になって、私刑を行う「死神」として名をはせるようになるのだった。
 家族の復讐劇として、別の犯罪者を私刑にすることにより、段々と精神衛生上改善していく姿が、この映画の一番の面白いところかもしれない。最初はぎこちないながらもなんとか銃殺を成功させるのだったが、段々と殺人に慣れていき、運も味方はするが、死神として成長していくのが、ブラックに爽快感を伴うようになる。実際に殺し方は残酷であるにもかかわらず、悪を倒すカタルシスに満ちていくのである。まあ、水戸黄門みたいなものだろうか。
 もっとも、苦悩という点と、映画的な出来栄えは、オリジナルが当然いい。オリジナルがいいからこそ、新たに作られたわけだが、そういうところで比較をすると、やはりまだまだなのかもしれない。もちろんこの機会に、見比べることをお勧めする。まあ、暴力ばかりだから、食傷するかもしれないけれど。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノンフェクション(昨年読んだお勧め本1)

2020-02-02 | なんでもランキング

 昨年シリーズ、ご参考に。

未来からの遺言/伊藤明彦著(岩波書店)
 副題は「ある被爆者体験の伝記」。不思議な読後感がある。貴重な被爆体験を残すことは大切なことだが、その中に混ざる真実とは別のものをどう伝えたらいいのか。簡単には切り落とせないことが確かにありながら、やはり危ういものというのはある。有名な本らしいが、今まで知らなかった。

道徳感情はなぜ人を誤らせるのか/管賀江留郎著(洋泉社)
 「二股事件」「浜松事件」といわれる冤罪事件の顛末から、拷問自白に至る警察の行き過ぎた捜査の闇を暴くとともに、そのいきさつにまつわる奇跡的ともいえる様々な社会的な背景や、告発した正義が踏みにじられる数奇な運命などを克明に解き明かしたもの。そのようなことになってしまう理由として、書名にもあるように道徳感情という人間の考え方の基本があることを暴露していく。事実というものは物語ではなく、ただそこにあるものである。これを人間は、なかなか正直に読み解くことができないのである。

おばちゃん介護道/山口恵以子著(大和出版)
 食堂のおばちゃんをやりながら遅咲きで作家デビューを果たした人が、同時に老齢の母親を介護しながら格闘する毎日の様子をつづったもの。著者はテレビにも出るような著名人らしいが、僕は知らなかった。今もテレビで見たことは無い。作家で食べていくのは、やっぱり大変そうである。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

天才少女は馬鹿にしか見えない   響HIBIKI

2020-02-01 | 映画

響HIBIKI/月川翔監督

 原作漫画があるようだ。それも漫画大賞受賞作である。それで映画化されたのかもしれない。15歳の天才文学少女が現れ、芥川賞と直木賞のダブル候補作となり話題となる。同時に同じく15歳の人気作家の娘も同級生で文学作品が売れていた。一方で何度も候補作を書きながら受賞に至らない屈折した労働者作家や、落ちぶれた過去の才能作家や、様々な出版事情と絡まって、業界がてんやわんやの騒ぎとなるのだった。
 基本的には、天才少女が身勝手に暴力をはたらいて周りを困らせる物語である。作家としては天才という肩書で、本人は少し頭が足りないか、もしくは素直にバカである。そういうことを爽快に描いているということのようだけれど、単に身勝手に暴力をふるってでしか物事を解決しようとしかしない、ヤクザな感じである。本を読んではいるが、だからと言って努力はしない。親も放任のようだし、何らかの構造的な問題を内包している特殊な人たちなのかもしれない。
 文学賞というのがあって、一定の評価基準になっていると考えられはするが、どの賞だから権威があるというのは文化的なものであって、本当の優劣であるとかないとかいうこととは、やはりどこか別の割り切り方が必要だろうと思われる。漫画なのに権威には弱く、社会的な暴力には寛容というスタイルをとっているので、なんだかわけが分からない話になってしまっている。結果的に(彼女が)計算していた通りに収まるので、ものすごく運のよい少女の物語なのかな、という印象は受けたが…。
 賞をめぐる人間模様として、親の七光りだったり、苦労話だったり、才能の枯れ具合だったり、そのまま勢いの問題だったりすることを、サイコパスの目から俯瞰している世界があるということのようだ。エンタティメントとしてそういう描き方があるということだろうが、だからと言って深みが感じられるわけではなく、おそらく漫画で成功したように上手く行っているとは限らない。むしろステレオタイプすぎて、いったい何をしたくて暴れているのか、結局訳の分からない展開になってしまっていた。暴力的だから強いというのも違う気がするし、だから社会的に抹殺されるべきだとも思わないが、だからこそ頭は使うべきなのではなかろうか。やはり奇をてらった芸人作品なんであろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする