カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

一分間の沈黙がもたらす奇蹟   フィッシュストーリー

2023-11-20 | 映画

フィッシュストーリー/中村義洋監督

 原作は伊坂幸太郎。じつはこの映画、ずいぶん前に見たことはあるのだ。森山未来が正義の味方で出てきた時に、やっと思い出した。ちょっとカッコよすぎですが……。
 巨大彗星が地球にぶつかる5時間前、つまり人類滅亡まであとわずかしかない時間の中、まちは荒廃しつくしているが、いつも通りレコード店を営業して、いつも通りレコードを聴いている人がいる。聞いているのはフィッシュストーリーというアルバムで、この表題曲には間奏部分が約1分無音になっている。それは何故かというと……。
 この1分間にまつわる解散したバンドのエピソードや、この一分間にまつわるホラー伝説をめぐっての事件、そうしてこの曲に懸けた若者たちの思いが、ある軌跡へとつながっていくという、時空を超えた人間ドラマが重層的に展開される。ちょっと説明が厄介なのだが、フィッシュストーリーという題名も含めて、構成が見事なエンターテインメント作品になっている。出ている俳優たちも今となってはそれなりに豪華で、そういうところも時代性があって面白い。そうして不思議にそんなに古びていない感じもする。そもそもなんとなくチープであるのだが、それが時代を感じさせる効果もあるのかもしれない。さらに斉藤和義が、この表題曲を提供していて、この曲もなかなかにいいのである。実際に俳優たちが演奏しているようには見えるが、どうなんだろう。確かに僕らが若い頃のパンク感があって、一緒に音響にたずさわっている音楽プロデューサーなんかが、若い音楽のことをわかってないところもよく描かれている。まあ、時代に合わず売れなかったんだらか、商売として分かっていたのは会社側の人間だったのかもしれないが……。
 実際にはいじめられていて嫌な感じだとか、社会に対する大いなる反発心だとか、仲間の裏切りのようなものだとか、いかがわしい宗教だとか、そうして取り返しのつかない失敗談とか、それぞれに、いかにもという身近な感じで分かるからこそ、そのつながりの壮大なあり得無さへの展開が、なかなかに爽快なのである。そうなっていいのか? とも思うが、そう来なくちゃ、とも思う。若い頃の僕は、これを観ていったい何を感じたのだろうか。ほとんど忘れていたけど、悲鳴が聞こえたら、やっぱり助けに行かなくちゃ、とは思ったんじゃないだろうか。今でもそう思うからね。実際どうなのかは、分からないけれど……。
コメント
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