そして扉が閉ざされた/岡嶋二人著(講談社文庫)
目が覚めると核シェルターに男女四人が閉じ込められていた。彼らは溯ること三か月前に、仲間の一人が殺されるということがあった。閉じ込めたのは、その殺された娘の母親であるらしい。娘を殺したのは、他ならぬこの四人のうちの誰かだという確信あってのことだ。何日か分の水と食料はある。その中で四人が徹底議論をして、誰が殺したのかを明らかにしていくことになるのだった。
お話は単純なはずだし、誰もが殺しができる状況で、さらに誰もが殺してなどいないという。しかしこの中の四人以外に、咲子という娘を殺す理由も無いし、そうしてそれができる人もいなかったはずなのだ。時には迷宮に迷い込むかに見える議論も、核シェルターという絶望的な密室の中での閉塞感も相まって、緊迫した議論や口論が続けられていく。犯人が自ら自白することは無いと考えると、論理的に理詰めで事件の謎を解くよりほかにない。いったいどうやって謎を解いていけばいいというのだろうか。
恋愛劇や愛憎の絡む男女間のやり取りと、実際に使われたであろう凶器など少ない証拠をもとに、いかに殺人のトリックが組まれていったのかが後半に明らかにされるわけだが、これがまさに、何という! という展開なのである。密室殺人というのは聞いたことがあるが、犯人かもしれない人が閉じ込められて、三か月も前のことを考えて推理して謎を解くなんてことは、ちょっと他にはないストーリーではあるまいか。いや、あるのかもしれないが、このお話は、やはりこのお話以外にはちょっと出来そうにない完璧さを思わせられる。読み終わってしてやられる快感を味わう読書として、やはりこれは傑作だと満足に浸ることになるだろう。
僕は岡嶋二人については、遅れすぎて知ったものであるが、すでに古典化している作品が、ちっとも色あせていないことを告白しておきたい。今からでも遅くはない。せめて彼らの書いた後期三部作といわれるものは、読んでなかった人のしあわせの書として推薦しなくてはならない。ほんとに楽しい時間に感謝である。