ずいぶん前のことだけど、給料をもらって銀行でお金をおろして、家に帰る途中の酒屋でウイスキーを買った。赤いキャップのバーボンで、その当時はそれなりに奮発したのである。普段ウイスキーを飲むのかといえばNOで、そうめったに飲んでたわけではない。そのバーボンにしても、名前を知っているから手に取ったということと、普段飲まないからこそ買ってみたという感じだったのかもしれない。手に取って、高校生じゃあるまいし、初めて酒を買ったわけでもないのに、ちょっと勇気を出して買った。そしてもちろん、家にかえってビールを飲んで、それから氷を落として飲んだ。胃のところがグッと熱くなって、すぐに酔っぱらったと思う。ウイスキーってそういう飲み物だし。
以前は時々そういう気分になっていたな、と思い出したわけだが、じゃあ最近はどうしてそういう気分にならないのだろう。お酒はつれあいが買い置きしてくれるようになって、めったに自分で買わなくなってしまった。それに飲むパターンというのがあって、家で飲むときにウイスキーの入る余地が無くなってしまったというか。
ウイスキーを飲んで人と話をしても別段悪くはないのだが、そうして深夜のバーなどでは、そうやって会話している人だっていることだろうけど、ウイスキーを飲むというのは、どうも一人で孤独でやっている方が、しっくりするような感じもある。アルコール度数が強いので、すぐに酔っぱらってしまうということもあるけど、何かグッと自分の内に入り込む感覚というか、そういう気分と同調しやすい飲み物ではないか。そうはいっても僕は話好きで、飲めばいくらでも語りだしてしまう性質があるわけで、誰かがそばにいたりすると、ウイスキーであろうと何だろうと、饒舌になって、気分が台無しである。だから誰もいない状態だと自由に語ることができないわけで、一人になって内省するしかないだけなのかもしれない。時にはそうすべきという意見も聞かれそうなんだけど。
ということで、僕はウイスキーを飲まなくなったのだろうか。聞くところによると、巷間ではハイボールにして飲む人がたくさんいるんだそうだ。まあ、ハイボールも美味しいですけどね。トイレは近くなるけど。僕の高校生くらいの時には、それなりにハイボールとかコークハイとか流行ってたな。どことなく懐かしい飲み物だ。それにウイスキーとはいえ、わいわいやっていい感じも確かにする。もうウイスキーの持つ孤独な感じとはかけ離れすぎている。結果的に原料なんですよ、ということであるだけのような感覚だろうか。それにわざわざ銘柄を選ぶというような必要さえ感じないというか。
ということで、とりあえずは一人でウイスキーを買いに行きたくなるような気分とは程遠いところに住んでいる。それが良いことか悪いことか……、たぶん、良いことなんだろう。