異人たちの館/折原一著(文春文庫)
富士の樹海で行方知れずになった小松原淳の母は、宝石商で金もある。息子を溺愛していることとちょっと変わった性格であるためか、この息子の伝記をゴーストライターに依頼して書いてもらうことにする。依頼を受けた島崎は、小松原淳の資料をあさり、関係者にインタビューしながら作業を進めていく。しかしそうやって伝記をまとめている折に、誰かに尾行されていることに気づくのだった。
一人の人間の伝記を書くにあたって、その関係者を含めて事実を追っていくうちに、自身がその家の関係者ともかかわりを持つようになる。そうして自分自身が、この物語の中に、微妙に関係者と化していくように展開してしまう。いくつかの重層的な話と錯綜していくことで、読者は混乱させられることにはなるが、その中に伏線的にいくつものトリックがちりばめられている。結果的に驚くような仕掛けの中に、迷い込んでいくことになるのだろう。
正直に言って人間関係においては、ずいぶん不自然なことが多く起こる。ちょっと事件が起こりすぎるくらいである。これだけ事件の多い中に生きていく人々というのは、特殊な感じもする。つまるところ、ただでは済まない騒ぎになるはずだと思うのだが、あんがい事は静かに忘れられたりしている。そういうところが、なんとなく不満だったけれど、最終的には、トリック的に驚かされる。やっぱりどうかしている部分はあるけど、どんでん返し的に満足できるのではないか。著者は呪術トリックを得意としていることで有名なのだが(そういう作品は過去に読んだ覚えがある)、いわゆる立場において、語りにおいてのトリックは確かによく練られている印象を持った。妙な人格の人が多いとは思うが、そういうわけで致し方ないのである。シリーズでなかったので売れなかったというが、間違いなく力作であろう。