海を照らす光/M・L・ステッドマン著(早川書房)
灯台守の夫婦は、孤島で任務にあたっている。妻が二度目の子供も流産した直後に、ボートが漂着してきた。中には男の死体と、赤ん坊が乗っていた。妻は神から授かった子だといって、そのまま育てる決意をする。夫は戸惑いながらも、不憫な妻を思ってその考えに従うことにしたのだったが…。
設定は違うけれど、日本にも幼い子供を育てる側と、失った側を描いた作品はある。物語は当然、大変な悲劇を伴う。どのようにしたらいいのかというのは、たいへんに重い決断を必要とする。そのあたりの描き方が、非常にうまくいっている作品ではないか。
もっとも、あまりにも倫理的なテーマであるせいか、読んでいてそれなりに葛藤を迫られることにもなる。この物語は、ひどく罪深いことを描いているのではないか。僕自身は、何か途中でこの妻のことを許せない気分が支配した。お気の毒であることは重々理解できるが、またそのために、傷ついた人に対してどのような償いができるというのだろう。一応の答えが物語にも描かれるが、その是非についてはそれなりにまた考えさせられる。非常にまとまりは良く、それ以上の答えなど無いとは思うが、その説得のための状況設定は、これ以上のものが無いのだろうか。それはやはり図りかねない問題かもしれない。このテーマを扱う以上、こうでなければ、やはり成り立たない構図なのだろう。そういう意味では、確かに素晴らしい作品なのだろう。
しかし涙なしには、とても最後まで読めるものではない。まったくこんな気分にさせられるなんて、なんてやるせないことだろう。後半になると、一定の物事に対する強い考え方が示されるが、それは、人間の行いえる最大の難関でもあるだろう。許しというのは、それほどに難しいことなのだ。
映画化もされているというが、そのことは知らなかった。作者は女性で、謎も多いが、ロンドン在住だという。これはデビュー作だそうだが、このような作品を、今後もまた生み出すことができるのだろうか。失礼ながらなかなかそれは難しいのではないか、と思わされるほどに、この作品は名作めいていると思った。