パターソン/ジム・ジャームッシュ監督
主人公のバスの運転手は、詩を書いている。朝起きて仕事を終えて、家で食事のあとは犬の散歩の途中でバーで一杯飲んで帰る。ほとんどそのような決まり切った一日を繰り返す生活らしい。その一週間をのんびり追っていくわけだが、当然何か不思議な雰囲気と仕掛けに観る者はとらわれていくことになる。
ジャームッシュ映画なんであるから、それでよいという作品である。それがなんであるかというのは、要するに何か変だけど、それがいい、ということなんだろうと思う。ジャームッシュのコメディは、以前ドリフも取り入れたりしていたが、あまり成功してはいなかった。そんなに面白いことは無いのだし、たぶん表面的にウケはしない。しかしコメディアンとしてはやってみたくなる。というたぐいのものなのではなかろうか。分かる人に向けて。そうして分かる自分に向けて。
俳優たちは演技をしているのだが、何かうまく科白を回しているようには見えない。リアルな会話だからそうなるというより、無理に無感情にいいことをいう。感情がうまくこもっていないような気がするが、言っていることはまともそうなので、非難できない。そうして話は発展せずに、断片を残したまま、終わるような気配である。今のは何だったのだろうか。本当は何かほかに言いたいことがあったのではないか。そんなことを見るものは考えてしまう。それは監督には答えがありそうだけど、やはり教えてはくれまい。もやもやとして残るものがあって、それがなんとなくこの映画を名作めいた雰囲気にしている。それが、ジャームッシュ映画なのだ。
最後の方で永瀬正敏が、割合重要な役割で出てくる。これが、なんとなくだが、この映画の意味めいたものを醸し出している。分かったような、わからないようなものだけれど。さて、この映画を僕が好きなのかどうかというと、正直言って好きである。そうして、このような映画を好きな人と、一緒に詩でも書いてみたいな、と思ったりして(嘘)。