彼女がその名を知らない鳥たち/白石和彌監督
得体のしれない邪悪な心を持っている女は、結婚はしているらしいがあちこちにクレームをまき散らしながら不機嫌に暮らしている。そういう中クレーム先の店長と恋仲に落ちて、そのまま浮気生活に入る。年上の夫は献身的でそのような彼女のなにもかもを、基本的には許容し、必死でご機嫌を取ろうとしている様子だ。映画的にこの図式がなんとも気持ちが悪いまま、結構延々と続く。さらにこの新たな恋愛の展開において、8年前から続く女の過去が、徐々に明かされていくことになる。そうしてそのために、その過去に大きな事件が絡んでいるらしいことも、じわじわと明かされていくのだった。
正直に言うと、展開の意味は良くわかるのだが、男女関係の意味というのが、僕にはさっぱりわかりにくいという展開だった。貢いでくれる男というのは現実に存在するだろうが、やはり最終的に性的な目的がありそうだし、ダメ男であるのは分かるが、逃げ出すことはできなくはなかろう。姉がいる様子であるけれど、そのほかの家族の姿が希薄である。男は孤独なのだろうか。また、どうしてこんなに無能そうなのだろうか。
女の異常性はかなり際立っていて、こういう存在と男が出合い付き合うというのはどういうことだろうか。魅力的な女性であるという設定だと思うが、それでもふつうこのような出会いなら、男は完全に敬遠するのではないか。無能でも夫がいるのも分かっている。そういうあたりの展開が安易のようで、どうしてもうまく呑み込めない感じだった。
しかしながらミステリは、後半見事に逆転する。そういうことだったのか、というパズルがパタパタとはまりだす。結末がどうなのか? という疑問は残るけれど、まあ、疲れてしまったのかもしれない。
普通なら蒼井優の女優魂のこもった見事な演技といったところだが、最終的に服を脱ぐわけではない。これだけセックスしながら脱がないのは、何か事務所の都合があるんだろうか。そのような女優魂というのは、海外の女優はするりと脱皮するものである。だから凄いなあ、と素直に感心してしまうことになるが、この場合は、何かかなり中途半端な感じがするのであった。一通りやることはやっていると示唆されるけれど、説明的であるというか。まあ、それでも映画的にわかるんだからそれでいいじゃないか、ということなんでしょうかね。僕にはそういうところもよくわかりません。