ブラッド・ワーク/クイント・イーストウッド監督
原作小説があるらしい。そちらも傑作というが未読。実は観だしてから二度目の鑑賞と気付くが、それでもどんでん返しはちゃんと面白い。よくできたサスペンスの傑作だろう。
主人公は連続殺人犯を追っているFBI捜査官。死体現場に血痕で書き残されている数字のメッセージの意味を読み解けず、悩まされている。ある時やはり殺人現場で、そのようなメッセージが残されていた。外に出ると、報道陣ややじ馬に交じって、犯人らしき足元を見かける。追いかけるが、その時に心臓発作が起こってしまい、取り逃してしまうのだった。そして、時は二年が経過する。心臓移植を受けて生き延びたが、合併症の予防などの為か多くの薬を飲みながら静かにボート生活をしている様子。そこに一人の女が訪ねてきて、移植された心臓の持ち主の姉だという。移植された心臓の女性は殺されたまま、犯人は捕まっていなかったのだ。
既にFBIは引退していたものの、殺された被害者はいわば命の恩人であるし、その恩返しのような気持ちになって、独自に捜査をすることになる。管轄の警察には疎まれながら、何とか事件の概要を掴むビデオや資料を手に入れる。独自のプロファイリングの読みが、新たな捜査方向を生んでいる様子だ。当初はコンビニ強盗という行き当たりばったりの殺人に見えた事件が、何やら不思議な別の事件へのつながりを見せていくのだったが…。
まさに、こんなことってあるのか! という驚きの連続である。凄まじいアイディアである上に、何というむごい人間模様であるか。会話はウィットにとんでいて、軽快に進むのだが、事実が次々に明らかになるにつれ、その事件の奇怪で重たいものに、まさに心臓に負担になるような気分になっていく。そうして犯人は、実に意外な人物に行きあたっていくのだった。
まぎれも無く傑作娯楽作である。演出自体は淡々としたものだが、アクションシーンは手に汗握るし、人間模様もそれぞれになかなか興味深い。観るものは、恐らくさまざまな感情に揺さぶられることになると思われる。人間の倫理というのを嘲笑うかのような悪魔的な人間が、殺人鬼として身の回りに居たりすると、本当にたいへんな人生になるものだと恐ろしくなった。ひとの命は一回で終わる。しかし、その貴重な命をつかって遊んでしまう悪魔の人間がいるのである。お話としてなのだが、実に恐ろしいことである。そういうものが、ひょっとすると生まれてしまう危険のある人間社会というものも、考えてしまうのではあるまいか。