怒りを鎮める うまく謝る/川合伸幸著(講談社現代新書)
謝罪の研究は日本では少ないそうで、ほとんど米国のものらしい。日本では謝罪は当たり前の習慣でもあり、そのあたりが関係するのかもしれない。しかしながら謝罪することで相手の怒りが収まるのかと言えば、そんなに効果が無いらしい。怒りを収めるのはむしろ保障の方で、そのことが明確にならない以上簡単に相手の怒りを収めることは出来ない。しかしながら犬が怒られてお腹を見せるのでも分かると思うが、相手の怒りから暴力などを受けることを防ぐためには一定の効果がありそうである。怒りは収まらないまでも、戦意をそらせるような効果はあるかもしれない。謝ることは自分を守る行為とはいえるだろう。しかしながら、例えば夫婦間のいさかいなどで、安易に謝罪することで事がさらに大きくなる場合も少なくないという。謝罪することでさらなる怒りを増幅させてしまうこともあるのだ。
こぶしを握り締めるだけで脳は怒りを感じるようだし、逆に寝転がると怒りが収まる。身体の動かし方で感情がコントロールできそうだ。頭にきたときはすぐに怒りを爆発させた方がすっきりすると考える人もいるようだが、そのように表に出す怒りは、さらに怒りを増幅させてしまって逆効果だ。怒りっぽい人はいつも怒る習慣をつけているようなものだ。誰かに見られているという意識は怒りを止める効果があるそうで、虐待防止などにも応用できるという。また血糖を上げると怒りは収まりやすい。頭に来たらチョコレートを口にするなどもいいだろう。やりすぎるとどうなるかは保証できないが。
人間の本能には仕返しする快感のようなものがあるのかもしれない。宗教戦争などは何千年もやったりやり返したりをやめていない。多くの紛争も報復の連鎖ともいえる。忠臣蔵や水戸黄門がいつまでも人気が高い理由も、やり返すのを見るのが好きな証拠かもしれない。そうではあるが、被害者の方が赦しを行うことで、精神的な満足感のようなことを得られることも可能だという。もちろんそのために加害者や第三者などを交えて様々な努力のしようがあると思うが、報復の連鎖を断ち切る赦しの力で、根本的な怒りの繰り返しを止めることが出来ないかと模索されている。現実にそのような大きな怒りの連鎖を止めることに成功した例がいくつかある。人間のそのような寛大で崇高な精神性をどのように育んでいくのかというのは、国際紛争を含めて、もっと研究を進めて実行されるようにすべき課題であろう。
かといって日本の場合など東アジア情勢などを勘案しても、その課題は大変に難しいようにも思われる。さらに北朝鮮問題などになると、生命の危険さえ伴う難しい駆け引きになりそうだ。このような本が翻訳されるといいのかもしれないのだが。
この本の内容は研修などにも有用であると思われる。仕事や人間関係を円滑に進めるような事が必要な場面では、怒りのことを知り、効果的な謝罪方法などを学んでおくことが大切なのではなかろうか。