ワープする宇宙/リサ・ランドール著(NHK出版)
副題に「5次元時空の謎を解く」とある。書名にもワープの文字があるし、SFチックな感じもあるが、そうして実際に内容的にもそのような傾向を感じないではないが、しかし空想科学の世界の話なのではない。不思議だが、やはり違うようだ。次元の違う話は5次元どころか10次元11次元なんかも出てくるし、10の-33乗の極小世界のことも出てくる。相対性理論と量子力学も当然基本的に出てくるし、ひも理論・超ひも理論もてんこ盛りである。正直に言ってちゃんと読んでもちゃんと理解できた自信は無い。でもまったくちんぷんかんぷんで理解不能なのかというと、見栄を張っている訳ではなく、それなりに面白く理解できていくような感覚はある。信じられない世界が繰り広げられているし、実際に観測の叶う世界の物語ではないにもかかわらず、その理屈を様々なたとえ話を交えながら理解できていくような快感がある。教科書的な概略から踏み込んだ仮説まで様々あるが、軽快な文章で飽きさせない。ただし大部の本なので、どうしても読むには根気が必要だろうけれど。
そういう訳で最新というか物理の世界では、理論的には成り立つが、観測が極めて難しい領域の理論で物事を考えなければならない話になっている。そうでなければ説明がつかないというより、より物理世界が成り立っていることを理解するために、そう考えるより仕方がないということと、新しい理解のための飛躍があるということだ。見えている世界だけで説明がつかないことが多すぎて、しかし見えないことによってその理論が成り立つ可能性すらある。ちょっと説明に矛盾めいたことが出てしまったが、そもそも現在では観測が不可能なくらい極小であったり次元が違う世界であったりする世界の理論があるからこそ、そこにありながら何物かわっていない泡のようなエネルギーなどのものが説明不可能だし、またこれからそれらのものが分かる為の土台として、そのような理論がもっと発展して構築されていく必要がある。さらに時代が下ってそのことを観測できるような装置や方法が見つかると、恐らく後追いでそれらを証明する発見がある事であろう。近年話題になったヒックス粒子に至っても、何十年も前に理論上はあると予測されていたものが、やっと観測されるに至る環境が現代に整ったからこそ発見されたのである。
まあとにかく途中でかなり訳が分からなくなりながら読み進んだことではあったが、そのようなわけのわからない世界がちゃんと説明されるようなシュールな現実があるらしいことを知るのは、大変に楽しいとはいえるのだった。これを説明するのは大変に難儀だけれど、知らない人よりもずっとものの見方には敏感になるのではないか。人間の頭が単に空想上作り上げた作り物以上に、現実の物理世界は異常に不可解だなんて、まったく夜も寝られない思いである。