カワセミ側溝から(旧続・中岳龍頭望)

好きな言葉は「のこのこ」。好きなラジオ中継「相撲」。ちょっと苦手「煮た南瓜」。影響受けやすいけど、すぐ忘れます。

ひとり日和

2008-07-19 | 読書
ひとり日和/青山七恵著(河出書房新社)

 なんだか私小説のような話だなあと思いながら読んだ。著者は大学を出ているようだからこの主人公とは様子が違うが、限りなく私小説的な感じのする小説だ。恋愛を描いているけれど、恋愛小説とはちょっと違うような気がする。淡々としているけれど、激しい感情も女というエゴも正直に書いている。行きがかり上というか、半分は自分から望んで一緒に暮らしている老女とのかかわりもいい。気を使っているようで、お互い妙な距離感があって、べたつかない。しかし信頼関係はありそうだ。母親との距離も、男とはだいぶ違う感じだ。女親と女の子供の関係というのはこうなのかと変に感心した。これは男にはほとんど見られない関係のようにも思える。まあそれが悪いというのではなく、親子というより大人のつきあいのような感じもあり、そして妙な同類としての共感がある。そういうところも正直というか、あっさり書いているようでなかなか深いものだなあと思うのだった。
 帯を見ると(読み終わって見た)石原慎太郎と村上龍が褒めている。芥川賞受賞作らしい。彼らが感心する作品なんだなあと思う。僕は雑誌の中央公論で小谷野敦が褒めていたので買った気がする。同じく小谷野が褒めていて昨日読んだ「どうで死ぬ身のひと踊り」がかなり良かったので期待して読んだのだろうと思う(今となってははっきり思い出せないが間違いなかろう)。まあ、よくできた話だなあと思うには思ったが、みんな感心したんだなあということの思いの方が不思議かもしれない。僕はほとんど小説というものは知らないので、こういう話が芥川賞なのかということもよく分からない。そして不思議な人たちが褒めているんだなあという感想を持つのだった。
 もちろん話はかなり良く出来ていて、仕掛けになる手癖の悪さだとか、スジの運びも上手いと思う。これでよいのかどうかよく分からないにしろ、半分少女のような女のふっきれていく成長物語としてさわやかな読後感がある。盛り上がらないということはあるにせよ、嘘っぽく盛り上げても何にも意味がないわけで、真実っぽい人間ドラマが好感をよんだのかもしれない。普通ならどうでもいい個人の日常であるような日々の記録が、実は文学として洗練されているということに、おそらく選考委員を唸らせるものがあったのだろうと想像する。
 僕はすでに若くなくなったので、若いころの悩みというものを既にだいぶ忘れてしまったのだろうと思う。しかし二度と戻りたくない青春。まあそんなものが女の人にもあるらしいのだなということ知った。いや、彼女がそう思っているかは実はよく分からないのだが、脱皮して違う人生を歩む決意は感じる。それはさりげなく力強いもので、真実として感染するような勇気のようなものをわかせる力があるのだろうと思う。今になってそんなことに気づいて、悪くないものを読んだという気分になってきた。また小谷野の勧める小説をいくつか手に取ろうかと思った。
コメント
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