梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

ナチハンター(その7)

2024年07月13日 07時08分00秒 | Weblog
第二次世界大戦に大敗、ホロコーストの大罪が露呈し、ニュルンベルク裁判で戦勝国に裁かれたドイツです。その後自国の手でアウシュビッツ裁判を行い、ホロコーストに加担した犯罪者を訴追する流れが始まり、それがきっかけとなりナチハンターが今日まで続いています。その歴史の教訓を、ドイツは国策としてどのように生かしてきたのでしょうか。

それを具現化しているのが、ドイツの移民・難民対策だといわれています。様々な困難を抱えながらも難民を積極的に受け入れてきました。EUの中にあって、加速していくグローバル化や人口減少などの課題の解決のため、そしてなにより人道支援のために、移民や難民の受け入れの先進国であるのが、今日のドイツの姿です。

日本と違い、ヨーロッパは大陸の中に数多くの人種・民族がひしめき合っていて、歴史の中でも流動を繰り返しています。この大陸で歴史上数多くの戦争や紛争が起こり、犠牲が生まれました。現在のEUというのは、そういった悲惨な歴史と無数の人達の犠牲の中で、過去から学んで、必死に知恵を積み重ねてきたといえます。

2012年にEUは、60年以上に亘る欧州の平和と調和・民主主義と人権の向上に貢献したとしてノーベル平和賞を受賞します。しかしながら、現在ヨーロッパ各国で人種差別主義的な極右政党が台頭している点は憂慮されていて、各国の動きも注目されていますが、特にEUで中心的な役割を果たす、中道を模索するドイツの動向は重要であるといわれています。

ドイツは第二次世界大戦を経て南欧やトルコからの移民を労働者として積極的に受け入れてきました。結果、現在ドイツ国内には1640万人(ドイツ全人口8380万人)の移民をルーツとする人々が暮らしています。特に2015年の中東での紛争の影響により、多くが難民となってヨーロッパに押し寄せ、ドイツに到着した難民の数は約89万人。最も多いのはシリアからで、その他アフガニスタン、イラク、パキスタンからの難民でした。

難民受け入れ政策を推し進めたのは当時の首相メルケル氏です。では何故メルケル氏は混乱を予想しながらも、大量の難民の受け入れに踏み切ったのか。自らの体験や人道的な理由が大きいといわれています。2015年から2016年の中東紛争の際、当時ドイツに向かう多くの難民たちがハンガリーの鉄道の駅で動けなくなっていました。過去ドイツは1990年まで東西に分かれていましが、民主化を求めた旧東ドイツの住民は西ドイツに亡命するためにハンガリーに一旦出国し、そこから電車で西ドイツに向かいました。東ドイツの国民にとっては忘れられない光景でした。東ドイツ出身のメルケル氏にとって、ハンガリーで止められた難民の姿に心を動かされた。難民専門家はそうみます。

そうした特別な感情を別にしても、難民の受け入れは、人道主義的な動きとの認識がありました。2年後に控えたEU連邦議会選挙で、左派勢力からの支持を失う事を防ぐという政治的な計算もあったとの見方もあります。ドイツ国内でも難民支援の機運が共有されてきており、当時EU連邦議会に議席があったすべての政党が、メルケル氏の政策を支持していました。

あらためて重要なのは、このドイツの政策は、ナチス時代の深い反省であるとの見解です。ナチに迫害されたユダヤ人や反体制派が生き延びることができたのは、米国やパレスチナ等計80カ国以上の国々がドイツからの亡命申請者を受け入れたからです。ナチス時代の経験を教訓とし、戦争や政治的迫害などの苦境にある民に手を差し伸べることが、ドイツの国として、目指す理念であったことは間違いありません。

現在、労働力の補充のための外国人労働者の受け入れが、ドイツが移民国家へ向かう大きな要因となっていることも事実です。元々政府は、外国人労働者がある程度の期間で帰国するだろうとの算段だったのが、想像以上に住み着く人が多かったという現実がありました。当初は、色々と帰還させるための施策を練っていた経緯も否定できません。

しかし同時に、その人達に基本的な権利保障を、しっかりと与えるような法制度も都度柔軟に整えてきました。もちろん同時に、流入する民に義務も課せる。一度受け入れたのであれば、外国人労働者であれ難民であれ、基本的な人権や生活を社会的統合に応じて保障していくという姿勢を、一貫したドイツです。それがナチ以前の本来の合理から生まれた国民性なのでしょう。シリーズを追ってドイツをみてきて、確信したことです。今回を以って、このテーマを終わりとします。

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