梶哲日記

鉄鋼流通業会長の日々

企業統合とM&A(その8)

2024年03月02日 06時15分37秒 | Weblog
⑶ 人材確保
 S社が手形不渡り事故を起こし、事実上倒産。一週間後に事業を継承することを決めたわが社ですが、その社員をどう雇用するのかも最大の懸案でした。従来のわが社とS社は、給料体系も勤務体制も違いました。給料の制定によっては、共倒れの危険すらありました。事業を継承して再スターとするまでの一週間、S社の社員と給料や処遇について何回か話し合いの場を設けました。いずれしっかり人事評価をして、将来わが社の給料体系に一本化することを約束して、当面は減額になる案で協力を得ました。
 S社の社員は23~24名、ほぼ全員再雇用することとなります。21年前当時の梶哲商店の社員は約15名前後でした。元S社の社員、従来の梶哲商店の社員、その後入社した社員、との言い方も今日では違和感があります。合併した当時の社員がベースとなったことは確かで、次世代に向けて若返りを図ってきたわが社です。懸案であった賃金体系の一本化は10年を費やしました。賃金問題に限らず、互いの風土・社風の相違もありました。S社は社員に経営状態を知らせていませんでした。わが社においては、従前からの年一回の経営計画発表や毎月の営業実績の開示などを実行し、全社員に浸透するのには更なる年月が必要でした。

~M&A上の解釈~
 M&Aを行う大きな目的の一つは人材確保です。しかし前回の簿外債務と同様、スタート時点で顕在化していない人材要因は、合併後離反・流出の恐れがあり、経営危機を招きかねません。S社社員は自分たちの会社(職場)が無くなってしまう危機感や絶望感もあり、わが社の申し入れを承諾してくれ、給料処遇面では協力的でした。また風土・社風の違いも大きな障害で、それこそ長年の共通言語も無いスタートでした。
 いきなり会社の都合で、千葉工場を閉鎖して強行的に浦安に集約したら、当地に通っている社員にとっては行き場が無くなります。もっともその緊急性も必要性もなく、当面は現状維持のまま試行錯誤しながら、当地で事業継続を模索しました。懇親会も浦安の社員が出向き、千場工場の近くで開催し全社員の融合も図りました。最後は浦安集結の決断となりますが、残念だったのは浦安まで通勤出来ない社員が何人か出てしまい、地元の同業者にお願いして再就職先として受け入れてもらったことです。集結したシナジー効果は明らかとなりましたが、合併した社員同士の融合は時間を掛けなくてはならない大切さを、振り返ってみて実感しています。

⑷ 技術取得
 鋼板販売事業と違い溶断加工事業の方は、技術力は不可欠であり、現場職員が一人前の仕事が出来るまで何年も要します。ガス溶断の技術とは、板厚によっての火の作り方やトーチの高さ調整や走行スピードの的確さなどが挙げられます。過去のデータでセッティングの再現は可能ですが、同じ板厚でもメーカーが違うと、条件出しを微妙に変える勘のようなものも欠かせません。素材を熟知し、加工経験に伴い、技術が磨かれます。
 同業者では溶断の新鋭の機械化が進み、汎用化されたNCガス溶断機から、ファイバーレーザーやプラズマ切断機の導入が主流となりました。しかしながら、ガス溶断技術が鋼板切断の基本です。新鋭の機械は、熟練工の腕に頼らず自動化や夜間無人操業などは果たせましたが、現在板厚40ミリ以上はガス溶断に頼らざるを得ません。プロ技術を習得した社員を抱えて、退路を断たれた状況の中で、溶断加工事業が梶哲商店に開花しました。このような技術をわが社は取得したことになります。
  
~M&A上の解釈~ 
 M&Aでは、横軸の統合と縦軸の統合との表現を使います。横軸とは同業企業を指し、縦軸とはサプライチェーンの中で川上か川下かの企業を意味します。言葉を変えれば、縦軸の統合とは仕入先か販売先かを買収することになります。わが社の場合はこの縦軸で、一つ先の川下の販売先を統合したことで、そこに溶断の技術者が存在したことになります。
 一般的な人材確保の面であれば、横軸統合の方が即効性はあります。買い手側の企業に生産能力や販売力があり、人手不足であれば、同業他社の要員は即戦力になります。買い手側の企業で欲しい、売り手側の企業に必要とする資格取得者等がいれば、尚更相乗効果が期待できます。一方の縦軸統合の魅力は、全く異なった技術を持った社員(主に川下統合)が確保できることです。仕入れ先や販売先を買収する場合、既に取引があれば、その先を理解しているので、横軸での未知の同業他社よりもリスクは軽減されます。
 わが社の場合、色々障壁はありましたが、販売先を統合したことは、次回説明しますが新たなマーケットを開拓したことに繋がりました。結果論になりますが、わが社が川下の溶断会社と統合したことは、加工会社の経営が内側から見られ、鋼板販売先の与信管理の面でも溶断業の実態をより理解するメリットが生まれました。   ~次回に続く~
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