風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「花森安治の青春」

2016-05-11 | 読書


今放送中の朝ドラ「とと姉ちゃん」のモデルとなった
大橋鎮子さんとともに雑誌「暮しの手帖」を作った
稀代の編集者 花森安治さんが
戦時中は大政翼賛会の広報部において
あの有名な「欲しがりません勝つまでは」や
「足らぬ足らぬは工夫が足らぬ」などの標語ポスターを作った
当時の先進的クリエイティブディレクターだったことを
本書を読んで初めて知り、かなり驚いた。
時局柄とはいえ悪名高い標語ではあるものの
表現技術としてはなかなか秀逸と感じていたので
今更ながら「なるほど」と納得ではある。

従軍中や、その後のそんな経歴を踏まえ、反省の元に
あの「暮しの手帖」は生まれたとのこと。
昭和20年8月15日の終戦の日、
彼は焼け野原の銀座や上野をあてもなくさまよい、
灯火管制が解けて街に灯りがついたところを見た。

「これだ、この明かりだ。
 天皇御一人とか、神国、大和民族、大東亜という言葉の前に、
 絶対に守らなければならないのは、
 一人ひとりのこの明かりのある暮らしだ。
 それなのに男たちは、いや自分は、
 暮らしなんてなんだと思ってきた。
 藍生というかわいい娘がいるのに、
 風呂に入れること、童話を聞かせてやることは、
 恥ずかしいことだと過ごしてきた。
 少なくとも男には、
 もっとほかに守らなければならないものがあると信じて生きてきた。
 だが暮らしを犠牲にしてまで戦い守るものなど、
 なにもなかったのだ。
 なんという馬鹿だ。しかも独りだけならまだいい。
 それを自分は宣伝技術家として
 人々に唱え、説き、煽り、強いてきたのだ。
 恥ずかしかった。
 安治はつくづく自分が嫌になった。
 そして恥ながら固く思った。
 この明かりを邪魔するものには、もう絶対負けない」

それが「暮しの手帖」。
日々の暮らしを守ろうと強く願うのは母親をはじめとした女性たち。
だからこそ彼はまず女性たちに暮らしを説いてきた。
原体験は平塚らいてうの「原始女性は太陽であった」だったという。
そして彼は雑誌の中で呼びかける。

「ぼくは、人間を信じている。
 ぼくは、人間に絶望しない。
 人間は、こんなバカげたことを、
 核爆弾をもってしまった今でさえ、まだつづけるほど、
 おろかではない。
 全世界百三十六の国に、その百三十六の国の国民ひとりひとりに、
 声のかぎり訴える。
 武器を捨てよう。
 武器を捨てよう。
 武器を捨てよう」

それにしても花森さんの編集技術というか、表現技術というか、
考え方や、手法や、姿勢は改めて素晴らしい。
とても勉強になった。
ただ本書で残念だったのは著者の文章表現。
花森さんのような人を取り上げているからこそ
バラバラの時系列、主語の欠如、ステレオタイプな表現の重複など
もう少し丁寧な書き方をして欲しかった。
というか、本書の編集者は何をしていたのだろうか。
そういう部分をアドバイスするのが編集者だと思うのだが。
花森さんの人生など、内容はとても面白かったのだが
読むのにちょっと疲れたのががっかり。

「花森安治の青春」馬場マコト:著 潮文庫
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