風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「左岸」

2012-07-21 | 読書
ひとりの女性の物語。
「右岸」の主人公祖父江九と同じく
寺内茉莉もまた普通には無いような
ジェットコースターのような人生を送る。
でもそれは表面的なこと。
その時その時の心情や感情は
主人公と同い歳の自分も思い当たるしよくわかる。
そういう意味でこちらもまた、
やはり様々な出来事はある意味メタファーなのだろう。

それにしても
「右岸」と「左岸」は対になった物語ながら
それぞれ全く違う人生を送る主人公達。
わざわざ対にしなくても良いようにも見えるが、
お互いに振り返れば「相手」という場所があるからこそ
厚いストーリーになっているのだと思う。
特に九にとって茉莉は切ない思いとともに
常に心にある存在。
(茉莉にとっての九はちょっと違うかな)
男と女の考え方、感じ方の違いも面白い。

一番感じたのは
「右岸と左岸は似ていて近いけれども
 実はそれらは全く違う場所である」
ということ。
すぐそばに見えるけれど
それぞれの環境も、景色も、空気さえも違う。
川を挟み、並んで歩いているみたいだが
基本的に違う場所を歩いているのだな。
そう思うと、人間ってなんて孤独で寂しいんだろう。

「男の人たちは・・・
 みんなちがう匂いがするし、ちがうかたちをしている。
 ちがう腕であたしを抱くし、
 ちがうやり方で好意を示そうとする。」

「茉莉は東京の冬が好きだ。
 最近ようやくわかったのだが、
 心から信頼できる友人たちのいる人間にだけ、
 この街は親切で美しいのだ」

「何もかもが、茉莉をいたたまれない気持ちにした。
 変わらない川の流れや、変わらない空の色や、
 変わらない街並みや看板や
 墓地や店や神社や。
 人は変わってしまったのに。」


「左岸(上・下)」江國香織:著 集英社文庫
コメント
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