風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

「右岸」

2012-07-11 | 読書
読み進めながら
最初は「現代版青春の門」だと思った。
奇しくも舞台は九州の福岡でもあるし、
主人公は自分と同い歳だし。
だんだん「オカルトかスピリチュアルな物語」と思った。
「だったらもういいや」と
一時は途中で読むのを止めようかとも思った。
主人公が旅に出た辺りから
「フォレストガンプみたいだな」と思った。
運命に翻弄されて、まるでジェットコースタードラマ。

そんな感想をその時々に感じながら
だんだん物語そのものにに惹き込まれていった。
特に下巻に入ってからは主人公に自分を重ねあわせながら。
この物語における超能力はメタファーだ。
いや、ジェットコースターのような主人公の人生そのものが
もしかしたらメタファーなのかもしれない。
でなければもうひとつの物語である「左岸」が生きない。

幼なじみ同士である祖父江九を主人公にしたのが本書「右岸」。
もう片方の寺内茉莉を描いたのが江國香織さんの「左岸」。
「右岸」を読み終え、静かな心持ちになったところで
これから「左岸」を読み始める。
九の人生をもう一度たどり直して反芻しながら。

「でも、最後の最後でお前は、
 ほんとうにささやかなものだが、幸福を手に入れる。
 それはお前が見過ごしそうなほどに小さな幸福だ。
 それが幸福だとは気がつかないほどのものさ。
 でも、その最後の最後で、お前は悟る。
 長い人生の歴史の意味を理解する。
 そのようにして、人生を終われることを、
 幸せと呼んでもいいのじゃなかろうか、とね」

 人生と人生の間には川がある。
 ぼくがつねにこっち側で生きているように、
 そして茉莉ちゃんがそっち側で生きているように、
 ぼくたちはお互いの人生を見ることができないよね。
 はじまりは同じ場所だったというのに、
 川は時とともに、下流に向かうにつれて
 ものすごく大きくなって、ぼくたちを遠ざけてしまう。
 それこそが人生なんだ。
 ぼくは右岸で生きている。
 そしてあなたは左岸で生きている。

 いったい今までにどれほどの人が
 この世界で亡くなったというのだろう。
 この世に生まれてきた人の数だけ
 死者の数が存在しているはずだった。
 いつか自分もその仲間入りをする。

 私に言わせれば、あなたが生きていることこそ奇跡・・・。
 この暗黒の大宇宙の中に
 酸素をこれほどふんだんに持った星が誕生する確率を
 想像してみて下さい。
 その上、そこに生命が誕生できる確率など
 目が眩むほどではありませんか。
 この星の上にあなたが生まれる確率は
 さらに想像を絶するものです。
 これを奇跡といわず、何を奇跡と呼ぶのでしょう。

「右岸(上・下)」辻仁成:著 集英社文庫
コメント
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