風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

歳月

2012-07-23 | 読書
「歳月・・・
 それは何て奇妙な、容赦のないものだろう。
 茉莉は、二階で寝ている新を思った。
 死んでしまった惣一郎を思い、喜代を思い、始を思った。
 倒れたという九を思い、
 東京にいるさきとアミを思った。
 そこに、自分にできることは何もなかった。
 流されていくだけなのだ。
 彼らも、茉莉自身も。」

「死んでしまった新を思うたびに、
 茉莉にはそのことがしみじみ不思議に感じられる。
 残念だというのではなく、不思議なのだ。
 その本に書かれるはずだった事や物や思想は、
 どこに行ってしまうのだろう。
 ママだってそうだ。
 (中略)
 季節ごとにちがうあの庭の匂いも、仕事用の喜代の服装も、
 恐ろしく長かったホースの色も形も、
 ありありと思い出すことができる。
 できるけれどあの庭は・・・
 そしてあのときたしかに『今』だったあの時間は・・・
 もうどこにも存在しないのだ。」

              (江國香織「左岸」より)



今この感慨を持ったままで
10代や20代のころに戻れたら、
もっとうまく生きられるのだろうか。
歳月が学ばせてくれることだから、
そんなことは有り得ないのだろうけれど。
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