因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ネットで観劇☆くちびるの会 紙おしばい『ことだまの森』

2021-03-14 | 舞台番外編
  しばらく観劇の機会のなかった劇作家・演出家の山本タカだが、昨年秋「せんだい卸町アートマルシェ2020」における『オイディプス王』『口火きる、パトス』の舞台映像を視聴し、演劇ジャーナリストの徳永京子氏による「山本タカは化け続けている」の推薦コメントを確かな手応えを以て実感した。
 さて、その山本タカ(1,2,3,4,5,6,7,8,9)が主宰をつとめるくちびるの会1,2,3,4,5 )では、こども向け演劇「紙おしばい」の創作に取り組んでいる。「紙芝居」ではなく、「紙おしばい」であるところに作り手の目論見がありそうだ。その第1弾『よふかしの国』は、吉祥寺シアターファミリープロジェクトとして上演された。それ以降は武蔵野市内の小学校で定期的に公演を行っている。今回の『ことだまの森』は紙おしばいの第2弾となる新作公演だが、政府の緊急事態宣言を受けて、1月31日に武蔵野芸能劇場で無料の試演会という形で上演された。残念ながら足を運べなかったが、無料公開中の収録映像を視聴した。

 舞台中央に台が置かれ、その上に紙芝居の枠が設置されている。そこへ3人の俳優が登場して開演である。「みんな、ことだまって、知ってる?」ことばに宿っている力、言ったことが何でもほんとうになる不思議な力、いいことを言えばいいことが起こるし、その逆も…という導入から、サッカーが大好きな小学3年生の「僕」(コロ)と、ドッヂボールのほうが好きで、気弱な水玉(薄平広樹)が、クラスにひとつしかないボールを奪い合い始めたところから、物語は一気に走り出す。

 子ども向けの舞台の難しい点は、教訓やお説教風になったり、大人の俳優が子どもを演じるときに不自然な造形になりがちなところである。しかし声や動作を変えないコロ、押されっぱなしだが、だんだん自分の意見を次第にはっきり言えるようになる水玉役の薄平ともに、自然で自由な造形である。

 30分足らずの短い物語ながら、本作のテーマは大人にも通じる深いものだ。僕と水玉が喧嘩を始めると、ケンカ鬼(堀晃太)が現れ、さらっていこうとする。ふたりは「ことだまラムネ」の魔法を存分に使いながら、しかし最後には自分たちのことばの力で歩み寄り、成長していく。

 本作の魅力は、「喧嘩は良くない。みんな仲良くしましょう」ではなく、「喧嘩をしても、たくさん話してみよう」と解決への方向を示すところにある。現実には「ことだまラムネ」は無い。あったとしてもいつかは無くなる。ならば自分の思うことを相手に話してみよう。そして相手の話もちゃんと聞いて話し合う。どうすればみんなが楽しくなれるか、試行錯誤を繰り返す。一人ひとりは違う人間だ。ものの好み、考え方も皆異なる。しかし歩み寄り、理解し合うことは不可能ではない。そして、もしかするとふたりの最大の敵であった「ケンカ鬼」は裁きや懲らしめのためではなく、人間を和解させる「やや手荒な味方」とも言えよう。

 観客がひとつの絵を見つめるのが紙芝居だが、山本タカの「紙おしばい」は、従来の紙芝居と俳優が目の前で演じる演劇の特徴や魅力を融合させた新しい表現形式で、ひとつの絵から登場人物や物語がどんどんはみ出して自由に伸び伸びと動き出し、観客を見えなかった世界へ連れていく。厳しい現実を思い知らされている大人に対しても、小さな勇気を与え、発想を転換させる力(まさに「ことだまの力」を持つ佳品である。願わくば第3弾は、小さい人たちとその付き添いの方々とともに、劇場で体験することができますように。
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