因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

くちびるの会第二弾公演 『盗賊と花嫁』

2015-05-20 | 舞台

*山本タカ作・演出 公式サイトはこちら スペース雑遊(1
 2014年12月をもって「声を出すと気持ちいいの会」(コエキモ1,2,3,4,5,6,7,8,9))は無期限活動休止となり、山本タカは自身の単独ユニット「くちびるの会」を結成した。その第二弾公演である。坂口安吾の『桜の森の満開の下』がベースになっているとのこと。Taraの切り絵によるフライヤーも斬新なデザインで目を引く。四次元ボックスや机上風景、劇団民藝からも俳優が客演し、より幅広い活動を行っていることがわかる。

 四半世紀以上も前、東京演劇アンサンブルによる桜の森の満開の下『』を観劇したことがある。山賊はあくまで武骨に男、彼を翻弄する女は逆立った銀髪に素顔がわからないようなサイケなメイクを施され、衣裳も奇抜で、明らかに人間とはちがう妖怪じみた存在に造形されていた。女を背負う山賊役の俳優の負担軽減もあろうが、時おり背中にワイヤーをつけて浮遊したりもする。狂おしいまでに咲き誇る桜を背景に、一夜の夢のような舞台であった。

 『盗賊と花嫁』は、坂口安吾作品はあくまでベース、モチーフであり、そこから湧き出る劇作家のイメージ、妄想、確信、希求など、さまざまなものによって構築される。文学作品の舞台化ではない、山本タカのオリジナル作品である。
 演技スペースを対面式の客席が二方向から見つめるつくり。舞台装置や小道具の類はまったくない。俳優の服装は普段着である。9人の俳優のほとんどがメインの役に加え、京の町の民など、複数の役を受け持つ。時空感が限定されず、山深い里や京の町が行き来する物語である。また俳優たちはときに激しく動く。ダンスや舞踊というより、ムーブメントというのだろうか。観客が二方向から見下ろす形式になっているので俳優に逃げ場はなく、ほんの少しの動きのずれやミスをしたとしたら、あっというまに劇空間にほころびを作ってしまうだろう。このあたりも入念に稽古がされており、緩みのない展開をみせる。

 多嚢丸を演じた佐藤修作(四次元ボックス)の動きに目が奪われる。下半身がしっかり安定しており、体幹の強い肉体なのであろう(太っているという意味では絶対にありません!)。立ち回り的なアクションも単に身軽で動きが素早いだけではなく、切れのいい動きをみせるのだ。その彼を翻弄する女を演じる外村道子はすらりとしたからだつきで、羽のように軽やかに多嚢丸の背に乗る。もともとのからだつき、スタイルがよいだけでは舞台でいい動きはできない。からだを鍛え、動きを研究することで、役にふさわしい立ち方ができるのだろう。

 坂口安吾の原作に、山本は「狐」をひとつのモチーフとし、さらに京の町に謎の伝染病が蔓延する話を絡ませている。これが功を奏し、効果を上げたどうかは自分には判断ができない。『桜の森の満開の下』が映像にしたい、舞台で表現したいとと多くの創造者の意欲を掻き立てるのは、ときにホラーといってもよい猟奇性をもち、サスペンス性もあり、さらに愛した女が桜の花びらとなって消えてしまったとき、声をあげて泣いた山賊のまた、桜の花びらに埋もれて消えていくという幻想性、胸が締めつけられるような抒情性に富んでいるからである。

 つまり完璧としってもよいほど堅固に構築された世界であり、そこに何かを付け加えたり減らしたりする余地があるのかどうか。
 山本タカは、すでにある小説や戯曲をベースにみずからの劇世界を構築する劇作家である。それは「もしハムレットが決闘で殺されなかったら」という仮想世界であったり、題材が小説だけでなく、詩が加わっていたりする。原作が物足りないから、あるいは何かが余計だからといった単純な足し算引き算ではなく、溢れでるような創造者の演劇的欲求、演劇的必然によるものであろう。それを観客も共有できたとき、小説を読んだだけではわからない、劇場でしか体験できない新しい物語を知ることができるのだ。

 今回の『盗賊と花嫁』、意欲作である。ただ劇作家の思いに自分の心があと一歩響かなかったためか劇の空気、リズムに乗り切れなかったところがあり、、集中を欠く観劇となったのは残念であった。 
 既成の学内サークルとしての劇団に所属するのではなく、みずから仲間を募って劇団を結成し、活動を継続すること、それも卒業後も演劇活動を行うのはたやすいことではなかろう。何をもってプロの劇団であり、劇作家、演出家であると規定するのかはむずかしいが、山本タカは明らかにプロの道をゆく人であり、今後の活動を見のがせないひとりである。

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