因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

ネットで観劇☆Oroche Presents 001 能-BOX ギリシャ悲劇シリーズ『オイディプス王』

2020-10-18 | 舞台番外編
☆ソポクレス作 井上優翻訳 山本タカ(くちびるの会 1,2,3,4,5 )演出 熊谷太輔音楽監督 公式サイトはこちら せんだい演劇工房能-BOX 上演は11日終了 オンラインは18日まで
 今年で4回めを迎えたおろシェは、「ここから生まれる物語」をコンセプトに、市民参加型、滞在創作の舞台として能舞台でのギリシャ悲劇の上演を試みた。
 くちびるの会以前の山本の演出作品(1,2,3,4,5,6,7,8,9)は、古今東西の戯曲や小説などをベースに、独自の視点と切り口による新しい劇世界を構築した舞台が主たるものであった。その後山本は外部への脚本執筆や演出、青少年を対象としたワークショップなど、活動の幅を次々に広げていき、昨年は愛知県豊橋市の「穂の国とよはし芸術劇場PLAT」において、平田オリザの『転校生』を演出、地元の高校生とともに舞台創作を行っている。

 今回の企画は昨年12月の打ち合わせに始まり、翌年7月のオーディションにおいて、高校生から60代までの市民と地域の俳優による8名のキャストが決定。能、ギリシャ悲劇それぞれにワークショップを行い、稽古を重ね、10月の本番を迎えた。地元に密着し、さまざまなジャンルのプロとアマチュアが交わって作り上げた舞台である。

 客席がL字型に囲む能舞台の上手にドラムセットが置かれている。音楽監督の熊谷太輔がきらびやかな衣装を纏い、腰を落とした姿勢で静かに登場し、持ち場につく。劇世界の伴走者のごとき緊張を全身にみなぎらせた熊谷が奏でる音が舞台にさらなる緊張と独特のリズムを生み、『オイディプス王』の人々を迎える。

 ギリシャ悲劇と日本の能舞台が掛け合わされ、どのような化学反応を起こすのかが今回の上演の見どころと視聴に臨んだが、朗々とした台詞、前衛的な音楽、オリエンタル風の衣裳は、能舞台の厳かな雰囲気に対して不思議なくらい違和感がなく、むしろ無国籍風の普遍性を獲得したかに見える。

 堅固に構築された物語には、笑えるところはもちろん、ほんの少し息をつけるところすらない。古典作品の脚色を得意とする山本であるが、今回の演出は、奇を衒ったり、手法や絵面に拘ったところがなく、愚直なまでに気持ちのよい正攻法だ。これが転機となって、新しい創作への道が見えてきそうである。

 オイディプス王は、過去の事実(それもあまりに不幸で不運)に向かって走りはじめた。もう止まることはできない。人間の存在そのものが持つ罪を突きつけられる終幕に、救いや希望はあるのだろうか。

 レバノンの劇作家ワジディ・ムワワド の『炎 アンサンディ』を思い起こす。2500年前のギリシャ悲劇の人々はアポロンの神託に、現代の人々は泥沼の紛争が生んだ悲劇に翻弄される。生きていること、生まれてきたそのことが既に罪であり、人間の手では修復しようがないほどに呪われていることの恐ろしさ。自分は生きていてよいのか、生まれてきて良かったのか。自己の存在の根本が揺らぐ苦しみが変わらないことに慄然とする。

 「誰ひとり諦めず、『今』と『自分』と『仲間』と『作品』に真摯に向き合う日々の一瞬一瞬が、一生の財産であると感じています」。公演パンフレットの最初のページに記載のおろシェ実行委員会のメッセージである。遥か遠い昔、かの国で作られた物語が、未曽有のパンデミックに襲われた2020年の日本の能舞台で新たに生まれ変わった。激変し、不安定な状況に負けず、最高峰の戯曲に臆することなく公演を実現したことに対し、液晶画面を通して祝福を贈りたい。
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