因幡屋ぶろぐ

劇評かわら版「因幡屋通信」主宰
宮本起代子による幸せの観劇記録。
舞台の印象をより的確により豊かに記せますよう・・・

学生版『日本の問題』Aチーム

2011-12-21 | 舞台

 小劇場版(1,2)に続いて今度は学生劇団6つが腕を競い合う。公式サイトはこちら 渋谷ルデコ 25日まで 途中休憩なしの80分。
*Aチーム 上演順に、
1,慶應義塾大学/ミームの心臓(1) 酒井一途作・演出 『vital signs』
 ある施設から脱走してきた青年が駆け込んだ避難区域にある家。そこに幼なじみがいた。
2,日本大学芸術学部/四次元ボックス 菊地史恩作・演出『あんのーん』
 勤め先から解雇され、絶望した青年のところにいろいろなものがやってくる。
3,明治大学/演劇集団声を出すと気持ちいいの会(1,2,3) 山本タカ脚本・演出『役者乞食』
 実家では祖父が農業をいとなみ、孫の自分は東京の大学で芝居を作っている。山本タカ初のオリジナル作品にして、ドキュメンタリー演劇。

 本日初日をむかえた公演のため詳細は書けない。
 すでに観劇予定が入っている方の興味を削がず、なおかつ「どうしようかな」と考え中の方の興味を掻き立て、みない方まで「ならば行ってみよう」というアクションを引き出すにはどうすればよいのか。そもそもそんなことができるのか。
 非常に迷い、悩みながら先を書き進めるものとする。

 ミームの心臓 酒井一途作・演出 『vital signs』 
 原発事故の避難区域にある家という設定が現在の社会状況を反映しているが、描かれているのは「なぜ生きるのか」という激しい問いかけと、それに対して誠実で有効な答を出そうと苦しむ人の姿である。作り手の真剣そのものの姿勢が一瞬の緩みもなく登場人物の台詞になって発せられる。観客に受けよう、笑わせようという作為やおもねりが微塵もないのはほんとうに立派だ。そういう舞台に対してこんな感想をもつのは野暮かもしれないのだが、もう少し肩の力を抜いてみたら・・・と思う。

 四次元ボックス 菊地史恩作・演出『あんのーん』
 演劇的仕掛けの奇抜なおもしろさでは、この舞台がだんとつだ。
 絶望した人に対して、「あなたの命はあなただけのものではないのですよ」と言って思いとどまらせようとして、「じゃあ誰のものなのか」と問い返されたときに、「親御さんやきょうだいや、あなたのことを心配している友だちや恋人が」と答えるであろう。ごもっとも、そのとおりである。
 しかし心から納得できるのだろうか。
 本作は「命は誰のものか」をまさかの仕掛けでみせる。作者の発想が着実に具現化、顕在化している舞台で、俳優陣の台詞やダンスも切れがよく、客席を沸かせる。
 新約聖書の「コリントの信徒への手紙1」の「体(からだ)は一つでも、多くの部分から成り、体のすべての部分の数は多くても、体は一つであるように」以降の一文を思い出した。「体に分裂が起こらず、各部分が互いに配慮し合っています」、「一つの部分が苦しめば、すべての部分が共に苦しみ、一つの部分が尊ばれれば、すべての部分が共に喜ぶのです」等々のことばを読むと、今夜の舞台が思い浮かんで「そうなのか」と納得する。違うのかもしれないが。

 声を出すと気持ちいいの会 山本タカ脚本・演出『役者乞食』
 こちらの劇団についてはつい贔屓めになってしまうところがあり、それはより高く、より深い作品をみたいと願うためである。
 既にある小説や戯曲や楽曲をベースにした山本タカ脚本・演出で着実な歩みをみせてきたコエキモがオリジナル作品に挑んだ。それも自分じしんを舞台の題材として取り上げるドキュメンタリー演劇である。

 作者のやろうとしていることは自分なりに理解し、把握したつもりである。
 舞台に描かれていることの、どこからどこまでが現実かということは、もはや問題ではないだろう。当日リーフレットに作者が書いているように、本作には山本タカの虚構も少なからず含まれており、芝居と嘘の関係や、そこに潜む作り手の悪意も意識しながら、人はいっときの舞台をみるのである。
 人間の生を根本から支える「食」を担う祖父を愛しながら、家族をあとまわしにして芝居を続ける罪悪感や、食べなければ生きてゆけないことの悲しみ。「ドキュメンタリー演劇」と言いながら、実は観客も巧妙にだましてゆく、劇作家の業。
 このあたりをもっと丁寧に掬いあげて練り上げれば劇作家としての軸足が定まり、戯曲の核心がはっきりして、作者の意図をもっとあざやかに示せたのではないだろうか。
 「劇作家山本タカ」の可能性に期待している。
 

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