豆作先生のブログで、子牛の骨折について盛り上がっているので、文献を一つ紹介しておく。
Retrospecitve study of 99 cases of bone fractures in cattle treated by external coaptation or confinement.
外固定あるいは安静により治療した牛の骨折99症例についての回顧的調査
Vet Rec. 2006, 158(8) 264-268
要約
2000年から2003年の間に、四肢の骨折で99頭の牛が治療を受けた。
50%以上が脛骨骨折で、次いで大腿骨、踵骨がよく損傷を受けた部位であった。
8頭は予後不良で淘汰された。
10頭は牛房に閉じ込めて治療された。
76頭はトマススプリントとキャストを組み合わせた外固定で治療された。
3頭は単純なハーフリムキャストか補強されたハーフリムキャストで治療された。
1頭は内固定で治療された。もう1頭は切断された。
追跡情報は電話で得た。
治療は、完全な成功(以前の生産レベルへの復帰)、部分的成功(より低いレベルへの復帰)、あるいは失敗に分類した。
トマススプリント・キャスト併用で治療した牛の40頭(52.6%)は完全な成功とされ、14頭(18.4%)は部分的成功に分類された。
19頭は治療が失敗に終わり、3頭は追跡できなかった。
患畜の体重、年齢、性別、骨折が開放か閉鎖か、は結果に明らかな影響はなかった。
安静で治療された近位部の骨折の10頭のうち、5頭は生存し、4頭は生存せず、1頭は追跡できなかった。
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さて、どのような印象をお持ちだろうか?
外固定と安静だけで対応していても99頭のうち40頭はうまく治るんだし、それでいいじゃない、仕方ないじゃない。が、現状だろう。
うちの書庫にはVeterinary Recordは蔵書してあるのだが、この文献を含んだ数巻は抜けてしまっていて、原文は手元にない。
それで、この調査の対象になっている牛達の年齢分布がどれくらいだったのかわからない。
骨折の部位も、脛骨が半分で、あとは飛節と大腿骨が多かった。というのはわかるが、それ以外はわからない。
中手骨、中足骨が少ないのはなぜだ?おそらく中手骨、中足骨は地元で処置されていて、手に負えないのが持ち込まれる病院での回顧的調査なのだろう。だから、このデータには選択がかかっていて、牛の骨折の全体をとらえたものではないのではないのだろう。
年齢、性別、体重、開放か閉鎖か、が予後に影響しなかったというのも理解しがたい。一番は経費の問題と、畜主に治す気があったかどうか、だったのだろうか??
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・家畜共済制度がなく、獣医師の治療費が高い英国では、牛の骨折治療は日本よりもっと厳しい現状にあるのだろうと思う。
・どういうわけか後肢、とくに脛骨骨折が多い。
・外固定や安静だけでは、トマススプリントを使っても、まともに治るのは4割ほど。
以上、3点を私はこの文献から記憶にとどめたい。
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とうちゃん、オラの専用ドッグランの草刈りしてくれ
ボール、どこいったかわかんね~
「おまえ犬だろ、鼻で探せ!」
成長のない大人でさえこれですので、成長期の子牛となると、骨折部が成長に伴い不安定になるのが早く、固定するのが難しいことが想像できます。成長期である分治りは早いかもしれませんが。やはりできることなら内固定したいものですね。
あとは脛骨ですと内側で開放する症例もあり、手術の値段と予後を考えると、諦めるひとも多いのでしょうね。
悩ましい事故ではありますね。
接骨院みたいなものでそれくらいはキャストテープ自分で買って治すのが向こうの生産事情かも知れません。
本題の治癒率も結構治るんだなと思います。
脛骨キャストなんて放置に毛の生えたものでしょう?
向こうの獣医師はうまいのかもしれません。
この治癒率に差をつけるのであれば80%もなおれば内固定する価値あるのでないの?という話になるのかもしれませんが、現実はそう容易ではない。
95%は治らなければ次のステップの価値はないでしょう。
「切れば治る」の診断水準とインフォームドコンセントでは厳しいでしょうね。
私、脛骨骨折内固定の成績は100%です;笑
このような文献を導き出していただいて感謝です。
コメントにリンクを貼らせてくださいね。
2000年から2003年までの
4年間で99例も骨折の治療をしているのは
二次診療施設であることは間違いないですね。
しかも
その50パーセント以上が脛骨骨折とは。
十勝全体、いや北海道全体の
牛の脛骨骨折の治療をしても
これほどの頻度はないように思え、驚きです。
「Bovine Surgery andLaminitis 牛の外科マニュアル」とも
40%の開きがありますね。
私は脛骨骨折の症例が少ないから
データーが不完全なのだと思っていましたが
そうではないようであり
謎が深まってしまいました。
酪農家のホルではなく、肉用種だというのも要因かもしれません。親から離され、密飼いされているのかも。
先日お話したInterlocking nailで整復した大腿骨骨折ですが、うちの病院ではその子牛がここ十数年で初めてのLong bone fractureの内固定適用だったみたいです。牛の価格を正確に把握はしていませんが、やはり値段に見合わないとして内固定は選択肢に入らないようです。
牛は手術としての完成度というか厳密性を落としても骨癒合する印象を持っています。馬の手術費と同じでなく、安価にできる可能性があると思います。馬ならダブルプレートが必要な骨折でもシングルで。LCPでなくてもDCPで。それも短いプレートで。入院しなくても日帰りで。吸入麻酔でなくて、静脈麻酔と局所麻酔で。それでキャストも必要なく、プレートも抜く必要がなければ、経済的にも合うんじゃないかと思うのですが。
治るかどうかわからない方法にお金をかけるより、可能性が高く治る方法をできるだけ安価に提案できるようにする必要がありますね。牛なら確かに可能かもしれません。今後に生かしたいと思います。
人や小動物の画像を見ても「これで良いんだ?!」と驚くことがあります。牛もそれくらいで行けるのかもしれません。