以前、馬臨床医のメイリングリストで、馬が外傷で屈腱を切ってしまったがどうすれば良いか。議論されていた。
意見の大半は、腱の縫合はほとんど無駄。傷をきれいに洗浄して、あとはキャストやバンデージで管理するしかない。複数の腱が切れてしまっているのでなければ、あきらめたものではない。というところだった。
少し古いが文献も紹介されていた。
Digital flexor tendon lacerations in horses: 50 cases (1975-1990)
馬の屈腱裂創:50症例(1975-1990)
D.Scott Taylor, John R. Pascoe, Dennis M. Meagher, Clifford M. Honnas
JAVMA, 206, 3, 1995
要約
浅屈筋あるいは深屈筋の腱の裂創により診断を受けた50頭の馬の診療記録を検討し、なんらかの損傷あるいは治療についての因子が予後に関係しているかを判定した。
治療を受けた馬の年齢の中央値は4.5歳(範囲1.5-15歳)、追跡期間の中央値は受傷後5年(範囲は1.5-16年)であった。
馬は、受傷後1年以上生きていたら、救命されたと考えた。
1本あるいは他の腱も切ってしまった16頭の馬のうち12頭は生存した。
両方の腱を切ってしまった16頭の馬のうち13頭は生存した。
1本あるいは両方の腱を部分切断した18頭の馬のうち14頭は生存した。
39頭の生存した馬のうち、27頭は元の飼養目的に戻った。32頭は騎乗される点で問題がなかった。
1本あるいは両方の腱を切断した9頭の馬は運動目的で飼養された。
裂けた腱は16頭で縫合され、15頭が生存した。
34頭では腱縫合せず、24頭が生存した。
私たちは、予後と腱鞘が含まれていたかどうかの関係や、予後と損傷を受けた肢の関係(前肢か後肢か)についていかなる関係も探りだすことはできなかった。
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しかし文献の最後に書かれている。
「私たちは、初期治療としての切れた腱の縫合、あるいは時間をおいてからの腱縫合を推奨する。
その後、4週間から6週間、肢を動かなくし(キャストを用いて)、さらに4週間から6週間保護治療を継続することを推奨する。」
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サラブレッド競走馬に起こる浅屈腱炎は、腱の変性と部分断裂であることが知られている。
しかも、重症になると復帰するのはなかなか難しいので、その点では外傷で屈腱を完全に切ってしまったら競走馬になることは厳しいかもしれない。
浅屈腱が完全に切れると球節が沈下するし、深屈腱が完全に切れると蹄尖が浮くようになってしまう。
(これは、正常な馬の話で、
ひどい突球の馬では浅屈腱を切断しても繫の角度はそれほど寝ないし、
ひどいクラブフットの馬では深屈腱を切っても蹄尖は浮かない。)
球節が沈下したり、蹄角度がおかしくなってしまうのは、乗馬でも、繁殖雌馬でもかなり問題になることなのだが、文献に示された結果では、ほとんどの馬は生きていけるし、多くの馬は元の飼養目的に戻れるようだ。
私は、文献の最後に書かれているように、傷がひどく汚れていたり、腱が縮んで寄らないなどということがなければ、腱を癒合させることを目的に腱縫合し、さらにキャスト固定やバンデージによる保護、そして特殊な装蹄をして、できるかぎり元の状態に戻るように治療すべきだと考えている。
海外の多くの馬臨床医の経験による結果とは異なるが、今まで行われてきたより良い治療と管理をすれば、
今まで経験してきた結果より、より良い結果を得られる症例もあると考えている。
Never Give Up !!
Rooney先生の本の表紙は馬の下肢の骨と腱・靭帯の図だ。
馬特有の下肢の構造についての知識は馬医者に不可欠だ。
腱が切れてしまったときどうすべきかは意見が分かれるが・・・・
結果として何も抽出できなくても、価値を認めて掲載するJAVMAはすばらしい雑誌ですね。
積み重ねた期間を考えればまだまだ古くなったとはいえないのではないでしょうか。
十分に長い期間患部を不動化できる技術が不可欠だということでしょうか。
救命できなかった条件、というのは存在したりするのかと考えるのは天邪鬼でしょうか。
症例数が膨大で、カルテがきちんと残っているので、「これをテーマに回顧的調査をしよう」ということになると論文になるような調査ができるのでしょう。
臨床家にはたいへん参考になる成績です。
たしかに長期にわたって、肢を不動化するのには正しい技術が不可欠です。
腱が切れてしまう外傷はたいていは酷い外傷で、削れて擦れて汚れていますから、その酷さが予後を決めるのではないかと思います。