馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

文献「子牛2頭での角度固定インターロッキングネイルを用いた脛骨骨折の修復」

2022-12-28 | 学問

牛の骨折治療の文献は少ない。

少数例の成功報告はあるが、まとまった症例集はほとんどなく、そして成績(成功率)はよろしくない。

最近の文献を検索していて、ひとつhitした。

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Tibial fracture repair with angle-stable interlocking nailing in 2 calves

Veterinary Surgery 2019,48:597-606

Michigan州立大学からの報告だ。

理由はわからないが、著者は3名ともミシガン州立大学の小動物臨床研究室所属。

普通は小動物の獣医外科医は牛の手術はしない。

food animal の先生たちが居るし、骨折内固定でも馬外科医も居るからLarge animal 講座が対応するからだ。

なんだか、裏事情がありそうだ。

怪しい;笑

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子牛の脛骨骨折をインターロッキングネイルで治療した2例報告なのだが、書き方も内容もかなりかわっている。

著者が小動物外科医だからだろう。

intro にはこんな記載がある。

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4つの理由で生産動物の外科治療には制限がある。

最初に、経済的負担が商品価値をしばしば超えてしまう。

二つ目に、成長板損傷を伴う骨幹端部を含めた骨折は長期的には肢の短縮や肢軸異常につながり、歩行を妨げることになりうる。

三つ目に、近年使用出来るようになった長骨内固定の医療器材は、体重が重い動物や倍量体種ではインプラントの破損が起こりうるので外科的修復を行わない、となりうる。

四つ目に、未熟な骨は、種を問わず、本質的に機械的に弱い。それゆえに幼若な動物ではスクリューが引き抜かれてしまうことによるプレート固定の崩壊は重大な挑戦であると推察されるかもしれない。

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以下、私の反論。

一つ目。

経済的制限はたしかにある。それは、その地域での牛の価格にもよる。

しかし、治るなら充分に元は獲れる。

二つ目。

骨端板(成長板)を含めた骨端部の骨折が、肢の短縮や肢軸異常につながるかというと、子牛ではほとんど大丈夫。

ひょっとすると、イヌやネコでは問題が起こりやすいのだろうか??

三つ目。

インプラントの強度が足りないのは、300kgを越すような牛では厳しいのはそのとおり。

しかし、牛の骨折の多くは子牛で、人用に設計されたインプラントで大丈夫だ。

四つ目。

新生子牛の骨が弱いのはそのとおり。しかし、6.5mm海綿骨screwを使うなどの注意で充分に対応できる。

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この文献の症例報告は2例。

1例は、5日齢のホルスタイン。難産で産科チェーンでひっぱって折れたらしい。

私が経験した最新の新生黒毛子牛の脛骨骨折とそっくり。

近位骨幹端が、中程度に変位していて、ひどく粉砕していて、近位皮質には盤状骨折がある。

CTも撮っていて、そこはさすがにUSAの大学病院。

(でも、CT撮ると経済的負担になるんじゃないの?;笑)

CTを撮ることでさらに骨折の性状が把握でき、内側皮質の盤状骨折がわかる。

加えて、必要なインターロッキングボルトの長さを断面で測定することができる。

とあるが、まあ、必須だったとは思わない。

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この症例報告は興味深いのだが、プレート固定を推進し、実践してきた私としては納得がいかない部分が多々ある。

長くなるので、何度かに分けて、反論していきたい。

年越しちゃうな;笑

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クリスマス寒波で、大雪だったり、停電が続いたり、たいへんな思いをしておられる方もいる。

お見舞い申し上げます。

これから始まる1日のグラデーション。

 

 



4 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2022-12-28 06:38:06
 お年越行事は数々ありますが、査読もいいですね。楽しみです。
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>はとぽっけさん (hig)
2022-12-28 07:38:31
頼まれてもいない査読ですが、批判的熟読も重要ですのでやっていきたいと思います。
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Unknown (zebra)
2022-12-28 07:58:26
症例はプレートが入れられると判断されず、馬医者さんにはロッキングネイルなどという温存的な治療法がそもそも選択肢としてなく、小動物に回されたという感じではないでしょうか。
ネイル応用が必要なくらいの骨端粉砕を明確にするためのCTかも知れませんが、興味本位かも知れませんね。
閉鎖は牛で問題になったことは無いかも知れません。
折れたり抜けたりは小動物でも茶飯事ですからガタイの問題にされたくはないでしょう笑

牛代が高くて獣医代が安い日本だから成立しているのかも知れませんが、エンドポイント何処に打つかが違うと議論がすれ違うでしょう。
これはクライアントのクレームとして一番に初診時に把握しておかなければならない事でもあるでしょう。
販売を目的として生産されていて、それを達成するならやはり難しい判断になるでしょう。
元々が一貫で、農場ポリシーがSDGs的で淘汰できないなら救済するコストも必要予備費として計上されているべきでしょう。
SDGs的でなくても搾乳なら十分に元がとれるはずですが、どんどん生まれてくる仔牛に対応する中で足手纏いの存在になるのかも知れません。
肥育素牛の繁殖屋に売れない仔牛を作って、自分で肥育したら良いんですよとしてしまうのはエンドポイント先送りにしているだけなので経済的検証を検討する症例にはならないでしょう。

家畜市場には瑕疵牛を安く買い集める方法で利益を上げる購買者も当然買參しています。
蛇の道行くのも獣医ですが、この筋の利益供与者と見做されたくないな、とも思います。
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>zebraさん (hig)
2022-12-29 07:34:46
プレート固定不適応という判断はまちがっていたと思いますし、ロッキングネイルはLCPを使うより高価でしょうし、大動物外科医たちが小動物外科医にこの症例を頼む、という状況は理解できません。

あとで紹介しますが、この症例報告は1日増体量にまで言及しています。キャスト固定やTPCより内固定がその点でも優れているのは間違いありません。
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