繁殖牝馬が数日前から発熱し、治療をしていたが腹水が増量している、とのことで来院。
腹水の白血球は14,000 /μl で、腹膜炎としてはひどくない。
しかし、腹膜炎は腹膜炎。
原因を特定し、有効な治療ができないと致命的だ。
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開腹手術して腹膜炎の原因を探り、腹腔洗浄して腹腔の汚染を除去し、腹膜炎のコントロールをすることにした。
助けられるかどうかわからないが、開腹手術せずに死亡したら「開腹手術していれば助かったかも」という思いが残るだろうから。
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腹水はひどく増量していた。
膀胱破裂ではないことは、内視鏡検査で確認済み。
腹底近くの回腸が発赤、フィブリンの付着が一番ひどかった。
回腸から空腸を最上位へ辿ったが穿孔などはなかった。
胃も触る範囲で異常なし。
盲腸、大結腸、小結腸にも腹膜炎の原因になったような損傷はなかった。
子宮、直腸を骨盤腔で探るが、腹膜炎の原因になったような痕はなかった。
腹腔内を生理食塩液19㍑で洗浄し、ドレインを装着して手術終了。
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腹水の細菌検査は陰性だった。
入院せず、翌日から牧場で治療を続けてもらったが、手術から10日あまりで死亡してしまった。
手術後は1度も発熱しなかった。
剖検では、腸管の漿膜にひどいチアノーゼがあり、あちこちの腸管の癒着が見られたが、腹膜炎の原発となった部位は不明。
原因不明の腹膜炎、としか言いようがない。
こういうことが起こりうる、ということだけ記憶にとどめておきたい。
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馬の腹膜炎が必ず予後不良かというとそうではない。
われわれは分娩事故としての子宮穿孔による腹膜炎は、開腹手術による子宮損傷部の修復と、腹腔洗浄、そしてドレナージの反復で治療成果を挙げている。
多くの腸管手術、特に結腸捻転整復などの腹腔内を多少なりとも汚染させる手術は、多かれ少なかれ腹膜炎を起こしているのだろう。
しかし、癒着などの問題が起こることの方が少ない。
開腹手術後の術創感染から腹膜炎を起こした症例があった。原因菌はStaphylococcus aureus 。
厳しいだろうし、生存しても癒着が起こるだろう、と思っていたが、治癒し、その後も疝痛を起こさなかった。
空腸上部に小さい穿孔があって腹膜炎を起こしていた繁殖牝馬が居たが、その症例も生存した。
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どういうわけか最近人気があるらしい。
滅び行くものへの郷愁か。
保存しようという動きもあるようだが・・・・
無理だろうし、崩れるにまかせた方が良いと思うな。