馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子馬のR.equi感染実験における日齢による感受性 

2024-06-17 | 学問

子馬は生まれて1ヶ月以内、それもおそらく生後第1週や第2週にR.equi強毒株に曝露され感染している。

30-45日齢に発症する子馬が最も多いことを、かつて私たちが報告した。

感染実験では10-13日間の潜伏期間があることも確認した。

感染実験では、challenge した実験子馬の多くが感染する菌量を投与しないと試験にならない。

そういう菌量を気管内投与しても、発症まで10-13日間の潜伏期間がある。

野外感染が成立するときに、子馬が暴露されているであろう菌量は、感染実験で使われている菌量より少ないと推察され、潜伏期間はもっと長いことも想像される。

そして、野外症例の初期症状は、感染実験での初発症状よりマイルドなのだろう。

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そして、感染実験に使う子馬の日齢も、実験感染が成立するかどうかの大きな要因であることを確かめた報告。

The effect of bacterial dose and foal age at challenge on Rhodococcus equi infection

R.equi感染実験での菌量と子馬の日齢の影響

      Vet Microbiol. 2013, 167(3-4):623-31.

Abstract

While Rhodococcus equi remains the most common cause of subacute or chronic granulomatous bronchopneumonia in foals, development of a relevant model to study R. equi infection has proven difficult. The objective of this study was to identify a challenge dose of R. equi that resulted in slow progressive disease, spontaneous regression of lung lesions and age-dependent susceptibility. Foals less than one-week of age were challenged intratracheally using either 10(6), 10(5), 10(4), 10(3) or 10(2) cfu of R. equi. Two doses (10(3) cfu and 10(5) cfu) were used to challenge 2 and 3-week-old, and 3 and 6-week-old foals, respectively. Physical examination, thoracic ultrasound and blood work were performed. Foals were euthanized at the end of the study or when clinical signs of pneumonia developed. All foals were necropsied and their lung lesions scored. Foals challenged with low concentrations of R. equi developed slow progressive pneumonia and approximately 50% of the foals recovered spontaneously. Likewise, macroscopic (>1cm diameter) pyogranulomatous lesions were only observed when low doses of R. equi were used. Clinical pneumonia was not seen after low dose challenge in the 3-week-old foals or in the 6-week-old foals. This study demonstrates that the use of low doses of R. equi to challenge neonatal foals provides an improved model for studying this disease. Furthermore, susceptibility to R. equi infection was shown to diminish early in the foal's life, as has been reported in the field.

 

Rhodococcus equiは、子馬の亜急性または慢性肉芽腫性気管支肺炎の最も一般的な原因であり続けているが、R. equi感染を研究するための関連モデルの開発は困難であることが証明されている。この研究の目的は、ゆっくりとした進行性疾患、肺病変の自然退縮、および年齢依存性感受性をもたらす R. equi の接種量を特定することであった。生後1週間未満の子馬は、R.equiの10(6)、10(5)、10(4)、10(3)、または10(2)cfuのいずれかを使用して気管内に接種した。2回投与(10(3)cfuと10(5)cfu)を使用して、それぞれ2週齢と3週齢の子馬、3週齢と6週齢の子馬に接種した。身体検査、胸部超音波検査、血液検査が行われた。子馬は、研究の終了時または肺炎の臨床徴候が現れたときに安楽死させられた。すべての子馬は剖検され、肺病変が記録された。低濃度のR. equiに暴露した子馬は、進行性の肺炎が緩慢に進行し、約50%の子馬が自然に回復した。同様に、肉眼的(直径>1cm)の化膿肉芽腫性病変は、低用量のR.equiが使用された場合にのみ観察された。臨床的肺炎は、3週齢の子馬または6週齢の子馬の低用量接種後には見られなかった。この研究は、新生子馬に接種するのに低用量のR.equiを使用することが、この病気を研究するための改善されたモデルを提供することを示している。さらに、R. equi 感染に対する感受性は、野外で報告されているように、子馬の生涯の早い段階で消失することが示された。

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生まれて6週間の中でも、1週齢未満と3週齢と6週齢では子馬のR.equi感染の感受性に差があった、とする結論。

これはサラブレッド生産牧場にとって希望ではないだろうか。

重点的に守ってやるのは、生後早い時期の子馬に集中して良い。

分娩馬房、新生子馬を放す小パドック、そして厩舎内の衛生に神経を注げば良い。

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発症するのはそれより数週間あとになるので、30日齢以降の子馬は健康状態のチェックには十分注意しなければならない。

野外症例の初発症状は、遅く、軽度なのだろう。

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R.equiのように化膿巣を作る細菌なのに、潜伏期間が10-13日間もあるというのはとても興味深い。

傷をして、そこが腫れて、熱を持ち、膿が出てくるのはもっと速いでしょう?

R.equi は一旦貪食細胞に食べられて取り込まれ、しかしR.equi強毒株は貪食細胞の酸化的殺菌に抵抗して生き残るらしい。

そして、殺されないものだからその場所で小さい膿の塊を作り、それが集まると膿瘍になり、発熱する。

それに2週間近くかかる。野外例ならもっと長く。

その間に、貪食細胞に食べられたままリンパ節に運ばれ、リンパ節を化膿させる。

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ただ、一旦感染して病巣を作られてしまうと、週齢ごとに抵抗性を発達させていく子馬も、なかなか全頭が自然治癒するとはいかない。

数ヶ月経って、大きな膿瘍を作って予後不良になる子馬が居るのはご存じのとおり。

治療しているにも関わらず、だ。

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ゴジュウカラ

脳震盪から回復中。

あまり人が構っているとカラスに気づかれて襲われるかも。

ちょっとまだ目がいっちゃってる。

 

 



4 コメント

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Unknown (はとぽっけ)
2024-06-18 06:25:03
 2013年発表ならわざわざ感染させなくてもいっぱいいるんでしょ?って思っちゃう。倫理委員会を通しているのでしょうけど。研究はもうそこまで必要な段階だったと思おうとしても、なんだか。
 基礎研究、臨床研究、データ共有、教育、様変わりしてきたように感じるこの頃です。

 あ、ラッキーバードが。
 嘴の付け根が膨らんじゃってるのは膨羽?
 その後回復して飛び立ちましたか?
 イグノーベル賞にキツツキの研究がありましたがゴジュウカラは頭が小さくてそうはなっていない感じですね。
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>はとぽっけさん (hig)
2024-06-19 05:38:49
感染実験は野外例の調査ではわからないことを教えてくれます。巨額の費用がかかりますし、動物愛護の観点から馬を使った感染実験はなかなか行えません。
この感染実験も、3週間齢の子馬でさえ、1週齢未満の子馬よりも抵抗性を発達させていることを証明してくれました。そして、野外での感染が比較的少量のR.equiに曝露されることで起きていることを推察させてくれます。マウスの実験ではわからないことです。

このゴジュウカラはその後回復して飛んでいきました。ゴジュウカラはそそっかしいようです;笑
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Unknown (眠狂四郎)
2024-06-19 16:46:46
人のM. tuberculosisと似たような感染経路ですね。結核もマクロファージ内で増殖しリンパ管に移動して半年後あたりに悪さを働いたりとロドッコカス感染症と似ていますね。
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>眠狂四郎 (hig)
2024-06-20 04:34:53
そうなんです。結核とはとても共通点が多いです。結核も、感染者の特定、隔離、抗菌剤治療、検診システム、BCG・ツベルクリン、社会全体の清浄化、で制圧しましたね。しかし、いまだに最も多く人を殺している感染症なのだそうです。
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