馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

高度免疫血漿投与は仔馬をR.equi感染症から守るか?

2024-07-11 | 馬内科学

R.equiは新生仔馬が免疫的に弱いうちに感染し、病巣を作ってしまう。

生まれた仔馬にワクチンをうっても、免疫が作られる前に感染が成立してしまう。

母馬にワクチンをうっておいても、仔馬へ移行する液性免疫成分だけでは仔馬を守れないのかもしれない。

他の馬にR.equi抗原(死菌ワクチンだったり、生きたR.equiだったり)を接種してR.equiに対する免疫を作らせておいて、その血漿を新生仔馬に投与すれば、

R.equiに感染しない、

あるいは感染しても重症化しない、

という効果が得られるのではないか?

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Protection against naturally acquired Rhodococcus equi pneumonia in foals by administration of hyperimmune plasma

J Repro Fertil Suppl. 1991:44:571-8.

A 2-year field study was performed to determine the capability of increasing Rhodococcus equi specific antibody in foals via plasma transfusion or mare vaccination, to determine the kinetics of R. equi (ELISA) antibody decay and to assess the protective effects of these procedures in foals on a farm endemic for R. equi. Plasma donors were vaccinated with a killed R. equi bacterin and produced high levels of anti-R. equi antibodies, which were harvested by plasmapheresis. In Experiment 1, 68 foals were given 1 litre of hyperimmune plasma intravenously (i.v.) between 1-60 days of age. Foal plasma R. equi antibody was significantly increased and high levels of R. equi antibody (ELISA) were maintained for 60 days. No R. equi pneumonia developed in any foals receiving plasma. In Experiment 2, 99 pregnant mares were vaccinated with R. equi bacterin at 30, 60 and 90 days before foaling. Group 1 foals (101:85 from R. equi immunized mares) also received plasma transfusions and Group 2 foals (14), from R. equi immunized mares, did not receive plasma transfusions. Pregnant mare immunization increased colostrum R. equi antibody significantly. Eight foals showed failure of transfer of specific R. equi antibody. The incidence of R. equi pneumonia was 2.9% in Group 1 foals and 43% in Group 2 foals. Vaccination of pregnant mares did not provide protection against R. equi pneumonia; however, plasma transfusion with hyperimmune plasma administered prior to R. equi exposure was significantly protective in foals.

血漿輸血または牝馬ワクチン接種によって子馬のRhodococcus equi特異的抗体の増加させられるかどうか、R. equi(ELISA)抗体の消失動態を調査し、R. equi発生牧場の子馬におけるこれらの手法の防御効果を評価するために、2年間のフィールド調査が行われた。血漿ドナーは、死滅したR.equiバクテリンを接種され、高レベルの抗R.equi抗体を産生し、血漿交換によって回収した。実験1では、68頭の子馬に1リットルの高度免疫血漿を1〜60日齢の間に静脈内(i.v.)投与した。仔馬血漿R.equi抗体は有意に増加し、高レベルのR.equi抗体(ELISA)は60日間維持された。血漿を投与された子馬ではR.equi肺炎は発生しなかった。実験2では、99頭の妊娠牝馬に、仔馬の30日前、60日前、90日前にR.equi bacterinを接種した。グループ1の子馬(101:85 R. equiの免疫牝馬)も血漿輸血を受け、R. equiの免疫牝馬のグループ2の子馬(14頭)は血漿輸血を受けなかった。妊娠中の牝馬の免疫は、初乳R.equi抗体を有意に増加させた。8頭の仔馬は、特異的R.equi抗体の移行に失敗した。R. equi肺炎の発生率は、グループ1の子馬で2.9%、グループ2の子馬で43%であった。妊娠中の牝馬へのワクチン接種は、R. equi肺炎に対する防御を与えなかった。しかし、R. equi曝露前に投与された高免疫血漿による血漿輸血は、子馬で有意に防御した。

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数年前に来日もされたMadigan先生の偉大な研究。

もう30年以上前の研究で、緻密さには欠けるのかもしれない。

Madigan先生が深く関与され、USAではR.equi高度免疫血漿が市販されている。

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妊娠末期の母馬に死菌ワクチンを接種しても、母馬からの移行抗体は仔馬をR.equi肺炎から守れなかった。

しかし、高度免疫血漿を仔馬に投与すると、R.equi肺炎の発生率はあきらかに減った。

これは、高度免疫血漿に含まれているのは、初乳で移行する免疫成分(主にIgG)だけでなく、炎症性サイトカインやフィブリノーゲンやその他もろもろの、

R.equiに刺激された成馬が体を守るために産生し、反応する血漿成分が、仔馬に役立つからだろう。

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ひょっとすると、凍結血漿ではなく、生で仔馬に投与すれば細胞成分も免疫情報を仔馬の免疫細胞に与えるなどするのではないか、

凍結血漿投与と生投与では差があるのではないか?と考えたりするが、実験で有意差を出すのは難しいかも知れない。

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この研究では高度免疫血漿の作成に死菌ワクチンが使われているが、生きたR.equi強毒株を接種すれば、もっと強い反応が起き、高度免疫血漿の抗R.equi免疫成分も高濃度になるかもしれない。

なにせ、以前研究論文を紹介したように、R.equi強毒株は食細胞に貪食されながらも殺されないことで病原性を発揮する

死菌ワクチンと生きたR.equi強毒株接種では、作られる高度免疫(血漿)に差ができるかもしれない。

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残念ながら、日本ではR.equi高度免疫血漿は市販されていない。

生物学的製剤なので輸入するのはとても難しいだろう。

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R.equiは世界の馬生産地に、

今、そこにある危機!

体長2.2m 体重400kg 7歳 牡 だそうだ。