馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

R.equiの抗菌剤耐性が進んでいる 

2024-07-08 | 感染症

恐ろしいことなのだが、R.equiの抗菌剤耐性が進みつつある。

これだけ毎年、多数のR.equi感染仔馬が発生し、長期間に大量の抗菌剤が投与されているので・・・・

当然と言えば当然。当たり前と言えば当たり前なのだが。

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Emergence of Resistance to Macrolides and Rifampin in Clinical Isolates of Rhodococcus equi from Foals in Central Kentucky, 1995 to 2017

Antimicrob Agents Chimother 2018 Dec 21;63(1):e01714-18

この研究の目的は、ケンタッキー中央部の診断研究所に提出された子馬の臨床検体におけるマクロライドとリファンピンに耐性のあるR.equi株の率を調べることであった。1995年1月から2017年12月の間にケンタッキー州の獣医診断研究所に提出された仔馬のすべての臨床検体の回顧的観察研究を実施した。R. equi を培養し、エリスロマイシンまたはリファンピンに対する in vitro 感受性について試験し検体とした。エリスロマイシンに対するin vitro感受性試験は、R. equiの分離株2,169株が利用可能であり、エリスロマイシンとリファンピンの両方に対する感受性試験が1,681株で利用可能であった。リファンピン耐性は2000年に初めて検出され、エリスロマイシン耐性は2004年に初めて検出された。1995年から2006年の間に、R. equiの耐性分離株の割合は、エリスロマイシンで0.7%、リファンピンで2.3%であった。2007年から2017年の間に耐性R.equiの割合が有意に増加し(P < 0.001)、分離株の13.6%がエリスロマイシンに耐性があり、16.1%がリファンピンに耐性があった。2007年から2017年の間に、エリスロマイシンまたはリファンピンに耐性のあるR.equi分離株は、気道、他の軟部組織、または筋骨格系感染症よりも糞便から分離される可能性が有意に低かった。2007年以降、マクロライドとリファンピンに耐性のあるR.equiの分離株の有病率が大幅に増加していることは、人間と動物の両方の健康にとって懸念事項である。

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今でさえR.equi感染症の治療には手こずっている。

抗菌剤誘発性腸炎のリスクはあるが、リファンピンは切り札として使われてきた。

リファンピン単独投与ではなく、マクロライド系抗菌剤と組み合わせて使われることが多い。

(日本の馬はエリスロマイシンに弱く、腸炎を起こしやすいのでエリスロマイシンではなく他のマクロライド系抗菌剤が使われてきた)

しかし、ケンタッキーではすでにリファンピンにも、エリスロマイシンにも、耐性のR.equiがそれぞれ14%、16%分離されている。

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「うちのロドは治らないんですよね」

という牧場もある。

これはその牧場で抗菌剤耐性が進んでいる可能性がある。

それだけではなく、発見が遅れがちで、重症化してから治療する傾向にあるとか、他の要因も考えられる。

しかし、長期に抗菌剤で治療していれば、抗菌剤耐性のR.equiを選択的に残すことになる。

治療の切り札の効果がなくなったら・・・・・・

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そして、リファンピンは今でもヒト結核の治療に使われる重要な抗菌剤だ。

ヒト結核でも抗菌剤耐性の蔓延は大きな問題になっている。

また、Rhodococcus equi強毒株は、免疫が衰えるヒトにも感染することがあるのが知られている。

おそろしいことだ。

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R.equi感染仔馬をリファンピン単剤投与で治療するのは好ましくない。

そして、重症化して予後が厳しい仔馬に長期に抗菌剤投与することも好ましくない。

ルールを守らない馬獣医業界などに、「重要な抗菌剤を使わせないようにしよう」となる前に、

馬医者の自律が求められている、と思う。

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東京で会議の前に時間があったので、近くの湯島天神を訪ねた。

街中でビルに囲まれているが、落ちついた好い空間だった。

都心、じゃなくて下町、なのかな。

途中、こじんまりした建物があった。

緬羊会館。

へえ~

こんな集積さえ東京にあって、東京という巨大都市は成り立っているんだな。