馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

R.equiの病原性関連タンパクAは酸化的殺菌を免れることで病原性を表す

2024-06-20 | 学問

病原性プラスミドを持ったR.equi強毒株だけが子馬に病巣を作る。

その病原性プラスミドによって作られているのは病原性関連タンパクA (Virulence-associated protein A)

では、そのVapA は、どういう働きをして病原性を発揮しているのか?

それを突き止めた、という報告も出ている。

            ー

Virulence-associated protein A from Rhodococcus equi is an intercompartmental pH-neutralising virulence factor

R.equiの毒力関連タンパクAはコンパートメント間のpHを中和する病原性因子である

Cell Microbiol. 2019, 21(1): e12958

    Abstract

    Professional phagocytic cells such as macrophages are a central part of innate immune defence. They ingest microorganisms into membrane-bound compartments (phagosomes), which acidify and eventually fuse with lysosomes, exposing their contents to a microbicidal environment. Gram-positive Rhodococcus equi can cause pneumonia in young foals and in immunocompromised humans. The possession of a virulence plasmid allows them to subvert host defence mechanisms and to multiply in macrophages. Here, we show that the plasmid-encoded and secreted virulence-associated protein A (VapA) participates in exclusion of the proton-pumping vacuolar-ATPase complex from phagosomes and causes membrane permeabilisation, thus contributing to a pH-neutral phagosome lumen. Using fluorescence and electron microscopy, we show that VapA is also transferred from phagosomes to lysosomes where it permeabilises the limiting membranes for small ions such as protons. This permeabilisation process is different from that of known membrane pore formers as revealed by experiments with artificial lipid bilayers. We demonstrate that, at 24 hr of infection, virulent R. equi is contained in a vacuole, which is enriched in lysosome material, yet possesses a pH of 7.2 whereas phagosomes containing a vapA deletion mutant have a pH of 5.8 and those with virulence plasmid-less sister strains have a pH of 5.2. Experimentally neutralising the macrophage endocytic system allows avirulent R. equi to multiply. This observation is mirrored in the fact that virulent and avirulent R. equi multiply well in extracts of purified lysosomes at pH 7.2 but not at pH 5.1. Together these data indicate that the major function of VapA is to generate a pH-neutral and hence growth-promoting intracellular niche. VapA represents a new type of Gram-positive virulence factor by trafficking from one subcellular compartment to another, affecting membrane permeability, excluding proton-pumping ATPase, and consequently disarming host defences.

    マクロファージなどの専門的な食細胞は、自然免を酸性化し最終的にリソソームと融合し、その内容物を殺菌環境に曝露する。グラム陽性のRhodococcus equiは、若い子馬や免疫不全のヒトに肺炎を引き起こす。病原性プラスミドを持つことで、宿主の防御機構を破壊し、マクロファージ内で増殖できる。本研究では、プラスミドにコードされ分泌される病原性関連プロテインA(VapA)が、プロトンポンプ液胞-ATPase複合体のファゴソームからの排除に関与し、膜透過化を引き起こし、pH中性のファゴソーム内腔に寄与することを示した。蛍光顕微鏡と電子顕微鏡を用いて、VapAがファゴソームからリソソームに移行し、そこでプロトンなどの小さなイオンの限界膜を透過化することを示した。この透過化プロセスは、人工脂質二重層を用いた実験で明らかになった既知の膜細孔形成剤の透過プロセスとは異なる。感染から24時間後、毒性の強いR.equiは、リソソーム物質を豊富に含む液胞に含まれており、pHは7.2であるのに対し、vapA欠失変異体を含むファゴソームのpHは5.8、病原性プラスミドを含まない姉妹株のpHは5.2であることを実証した。マクロファージのエンドサイトーシス系を実験的に中和することで、非病原性R.equiが増殖する。この観察結果は、病原性および病原性R.equiがpH 7.2で精製されたリソソームの抽出物でよく増殖するが、pH 5.1では増殖しないという事実に反映されている。これらのデータを総合すると、VapAの主な機能は、pH中性、したがって成長を促進する細胞内ニッチを生成することであることを示している。VapAは、ある細胞内区画から別の細胞内区画に輸送し、膜透過性に影響を与え、プロトンポンプATPアーゼを除外し、その結果、宿主の防御を武装解除することによる、新しいタイプのグラム陽性病原性因子である。

                  

    ロドコッカスの病原性プラスミドが何をしているのか当初は知られていなかった。

    病原性関連プロテインAというタンパクを作るのだとわかっても、そのタンパクがどう働いて病原性を発揮するのかわかっていなかった。

    それが、食細胞の中で酸化的殺菌に耐えることで病原性につながっていることが、わかった。

    なにせ、このプラスミドとそのプラスミドによるVapAを持たないR.equiはマウスの実験でも病原性を持たず、

    野外の子馬の病巣からも採れてこない(子馬に病気を起こしていない)のだ。

                  ー

    しかし、R.equi強毒株と言えども子馬以外は病気を起こさない。※

    (※;わかりやすくシンプルにこう書いてしまうけど、R.equi高度免疫血漿を作るために成馬にR.equi強毒株を接種したことがあるが、接種部位はドロドロに化膿するし、発熱もする。やはり化膿菌であり、「日和見感染菌」とか、成馬には病原性がない、という印象ではなかった)

    先に紹介した研究も示すように、子馬も日齢によってR.equi強毒株に対しても抵抗性を発達させる。

    酸化的殺菌力が向上して、VapAを持ったR.equi強毒株が相手でもかなり殺せるようになるのだろうか。

    あるいは免疫の別な側面が向上することでR.equi強毒株にも抵抗できるようになるのかもしれないが、

    新生子馬でさえR.equi無毒株には抵抗できることを考えると、やはりR.equi強毒株に対する日齢による抵抗性はVapAの機能・作用そのものに抵抗できることによるのではないかと私は推測するのだが、どうだろう?

    そして、馬生産牧場でのR.equi感染症を制御するヒントがそこにあるのではないだろうか。

                /////////////

    朝、出勤したら、きのう夕方に疝痛で来た繁殖牝馬は結腸捻転で開腹し、入院している、とのこと。

    さらに、夜中に子馬の小腸捻転も来院し、入院している、とのこと。

    そして、結腸捻転の手術中。

                  ー

    通勤路の左右で、馬牧場で牧草作業が始まっているのを見る。

    今年は、6月中に牧草作業を終える牧場が多そうだ。

                 ーーー

    エゴノキ

    ピンクチャイムというピンクの花が咲く苗のはずだったのが、どういうわけか白花。

    なんということだ。

     

     

     



    8 コメント

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    Unknown (ふみふみ)
    2024-06-20 23:27:17
    ビブリオが産生するコレラトキシンも本体のタンパク質だけではなく、補酵素と結合することで腸内細胞への下痢原性を持ち本体タンパク質のみでは下痢をおこさない、というのを読んだことがあります。病原性が発現するには色々条件がありますね。
    エゴノキ、白しかないと思ってました。
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    Unknown (はとぽっけ)
    2024-06-20 23:54:08
     R.equiのVapAに関してドイツの大学から昨年発表になった近縁種を使った研究で、pHと熱、最初の暴露ではVapAの発現は見られないといった内容ものもありますね。
     治療や予防に関してはもっと違うアプローチもあるでしょうけど。待ち遠しいですね。

     エゴノキの花、見事に白いですね。
     ヤマガラの食性はシジュカラとそう変わらんと思っていましたが、エゴノキの実を食べられる鳥はヤマガラぐらいなのだとか。
     
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    >ふみふみさん (hig)
    2024-06-21 04:08:36
    コレラトキシンは生体側の補酵素がなければ病原性を発揮しない、ということなんですね。
    ウィルスにせよ細菌にせよ、病原性は実にさまざまですね。付着であったり、侵入であったり、抵抗であったり、etc. 犯罪組織の生存戦略のようです;笑

    ピンクの花が欲しくて植えたので、がっかりです。白い花がびっしりぶら下がるのもなかなか良いですけど。
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    >はとぽっけさん (hig)
    2024-06-21 04:16:04
    紹介した研究もたしかドイツでの研究です。
    病原性プラスミドは高めの温度で培養を続けると脱落するそうです。「熱」とはそのこと??VapAは菌体表面あるタンパクのようです。しかし、宿主内での生存による選択がかからず、自然界でR.equiとして生きていくためにはプラスミドやVapAは役に立たず邪魔なんでしょうね。馬の居ない環境では強毒株は採れてこないようです。

    治療での問題、予防への別なアプローチについての研究もひきつづき紹介したいと思います。

    ヤマガラも美しくて好きな野鳥です。エゴノキの実を食べに来てくれると良いな。
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    Unknown (zebra)
    2024-06-22 06:32:49
    最新の知見大変勉強になります。

    次ログも踏まえての印象なのですが、シスト化という抵抗力が細胞性免疫で立ち上げる前に感染のびまん化を過剰に許容してしまっているのかも知れませんね。
    マクロファージのpHを弄ってしまうような機能を持ち合わせているのであれば、もしかするとマクロライドも思ったほどは抗生物質としての効果を発揮できないかも知れません。
    この辺まで考えさせられるのではないでしょうか。

    紫陽花みたいに土壌のpHで色が変わったりしないのでしょうか。
    金脈のあるところに好んで咲く花があるですとか山師のお話もありますが、こういうのも色々な要因で色が強く出る花があるからそういう印象を受けているのかも知れません。
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    >zebra (hig)
    2024-06-23 07:50:51
    考えてやっているわけではないのでしょうけど、食べられておいて、その中で殺されずに生き残って、敵の砦(リンパ節)に運ばれて、そこで反乱(化膿)を起こす。トロイの木馬作戦ですね。
    酸化的殺菌に耐える方法はプロトンポンプの阻害だそうです。胃酸を抑える方法と同じですね。

    マクロライド耐性のR.equiも報告されているのですが、病原性プラスミドとは関係しないのだと思います。

    しっかりピンクチャイムだとラベルが付いて売られていたのですけどね。間違いなんですかね。酸性土壌だとは思いますが・・・
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    Unknown (zebra)
    2024-06-24 05:57:22
    末梢で炎症反応を起こさせない一時的免疫寛容で続けざまの暴露に対応させずどんどん許容させる感じなのでしょうかね。
    暴露時間と暴露量の違いがどの程度最終感染に影響しているか再?検討すればわかりそうな気もします。

    ただでさえ増殖条件として厳しい、本来pH低いニッチにマクロライドは好んで入り込んで効率的に作用しているはずですから、これも押さえ込んでいるとなると強毒株の天下と言いますか、もし予防的に投与したらかえって選択させることになりそうです。

    土壌の欠乏過剰が未知の決定条件になっているのかも知れませんね。
    その土壌に合うもの生やしてそれ楽しめればいいのでしょうけれどもね。
    キウイとかバカに拍車かけてどんどん育って笑
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    >zebra (hig)
    2024-06-24 08:04:26
    免疫寛容は関係ないでしょう。強い炎症を起こしたら宿主の体は一生懸命闘い始めるのです。しかし、その最初の段階で、捕らえられながら殺されない方法を持っている、ということです。

    いつ、何から、どのくらいの菌量に曝露されることで感染しているのか?これを特定できれば防疫におおいに役立つのですがね。

    R.equiの蔓延も土壌の特性と結びつけた研究もあります。しかし、酸性土壌でもアルカリ性土壌でも、馬さえ居れば強毒株が居るようです。
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