馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

子馬のR.equi感染を早期発見するためにSAAは有効か?

2024-06-21 | 学問

私たちは、1990年代に子馬のR.equi感染症の血清診断としてELISAが使えることを報告した。

その中で、30日齢から45日齢で発症する子馬が最も多く、子馬が生後1ヶ月以内に感染しているのであろうことを指摘した。

血清診断でR.equi感染を疑った子馬の多くからR.equi強毒株が採れてくることも報告した。

R.equi感染多発牧場で、30-45日齢の子馬の血液検査がR.equi感染の早期発見に役立つことを示した。

R.equi高度免疫血漿を作り、多発牧場の子馬に投与することでR.equi感染の予防に役立つことも示した。

気管洗浄液からのR.equiの分離が、R.equi肺炎の確定診断として使える可能性も示した。

            ー

それから30年。

日齢を決めた血液検査によるR.equi肺炎の早期発見は「ロドチェック」と呼ばれ、R.equi感染の抑制に役立ってきたと思っている。

急性炎症マーカーとしてSAAが使えるようになってからは、さらに検出感度が増したと思っているが、臨床のデータと突き合わせることができず、まとまった評価はしないままだ。

海外では、いくつか早期診断方法、スクリーング方法としてSAAを使った報告が行われている。

その環境とか、研究の目的とか動機とか、研究者がやるか臨床家がやるかとか、かなり異なった評価になっている・・・・・

           ー

Serum amyloid A (SAA) as an aid in the management of infectious disease in the foal: comparison with total leucocyte count, neutrophil count and fibrinogen

Equine Vet J. 2002, 34(7),693-698

権威あるEVJに載った報告で、入院した子馬のSAAを測ったら、感染症の子馬ではSAAが高かったよ。というだけの報告。

全体で25例だし、肺炎は6頭。

早期発見に使えるか、という話ではない。

ロド肺炎でSAAがよく動き、鋭敏な炎症マーカーのは今は生産地の獣医さんはよく知っている。

           ー

Rhodococcus equi pneumonia in foals: an assessment of the early diagnostic value of serum amyloid A and plasma fibrinogen concentrations in equine clinical practice

Vet J. 2015 203(2), 211-208

こちらは2015年になってのイタリアからの報告。

馬の臨床実践における、子馬のロドコッカス肺炎についての、SAAと血漿フィブリノーゲン濃度の早期診断法としての評価

毎週検査してもSAAはR.equi肺炎の早期診断のためのマーカーにならなかった。

しかし、R.equi肺炎の臨床徴候があったときには、SAAにより感染の進行と治療効果のリアルタイムの指標を臨床家は得ることができる。

併行して行ったのは胸部超音波検査。

静かに、(SAAが上昇するような)炎症も起こさずに肺膿瘍を作っている子馬がいる、ということだろうか。

1週齢から毎週SAAを測定しても肺膿瘍形成を検出できない、ということか・・・

            ー

Evaluation of serum concentration of acute-phase proteins (haptoglobin and serum amyloid A) in the affected Arabian foals with rhodococcosis

Vet Med Sci. 2023, 9(1) 144-149

ロドコッカス症のアラビア子馬の急性相タンパク(ハプトグロブリンとSAA)の血清中濃度の評価

これは2023年のイランからの報告。

感染子馬のSAAは2715。これは良いとして、健康な子馬のSAAは1640。

気管洗浄もしていて、菌の検出はPCRも使っている。SAAの測定はELISA。

”健康”とされている子馬の状態が心配になる;笑

             ー

SAAは感染している子馬を”早期”に発見するためには役立たない、ということか・・・

”早期” early の定義が重要。

周囲に気管支肺炎がない小さい肺膿瘍、あるいは肉芽腫、それも生後3-4週目あたりで見つけられれば良いのだが。

長くなるので、続く、たぶん。

           /////////////

地元の住宅地の周りに出没していたクマは捕獲された。

箱ワナにかかったのかな。

”殺”処分されたのだろう。

去年生まれて親離れしたクマではないだろうか。

縄張りも持たず、自分より大きなクマに追われ、餌もない里に迷い込んだのだろう。

痩せていた、そうだ。

            ー

変わり葉ヤマボウシの”花”は大きく白くなった。

ホントは花じゃないんで、咲いてからも成長し色が変わるんだな。

 

 

 



2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (はとぽっけ)
2024-06-21 07:23:50
>環境とか、研究の目的とか動機とか、研究者がやるか臨床家がやるかとか、かなり異なった評価

 そうなんですよ。ターゲットの見つけ方や実用化の方向性も様々で多角的であることが可能なはず。期待してます。
 遺伝子レベル、タンパク質、サイトカイン、既知の免疫関連など、さらにそれぞれが相互に制御に関わる、など、どういったものが世に出てくるか想像し、待ち遠しいです。できればわかりやすくピンポイントで攻めたものだと理解しやすいけど、最近はピンポイント攻めても全容は多方向性でダイナミックだったりすることが多いですね

 白花好きなので、うれしい変化。
返信する
>はとぽっけさん (hig)
2024-06-22 05:18:38
確定的でなくても補助的でもよいから「危ないよ」とお知らせしてくれれば助かります。
ひどく手遅れになるのを防いでくれれば、発症する前に教えてくれなくても役に立つはずです。
しかし、厳密な研究計画では、もっと早期に発見できないか期待しているようです。

ヒトの胸部X線(間接)撮影も意味があるのかとか、被爆の害をどう考えるのかとか議論がありましたね。
返信する

コメントを投稿