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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

症例報告のintro, M&M, Results, Discussion をどう書くか

2021-01-13 | How to 馬医者修行

研究論文は、緒言introduction、材料および方法Materials&Methods、結果Results、考察Discussion に分けて書く。

ところが、症例報告はこのような書き方はそぐわない。

雑誌によっては症例報告はこのような構成で書かなくても良いことになっていたりするが、権威ある学術誌ほど規定に沿って書かなければいけないことが多い。

やった外科手術の内容はどこに書く?M&Mか?あるいはResultsか?

                  -

どう書かれているか、いくつか見てみると・・・・

Use of locking compression plates in ulnar fractures of 18 horses

Jacobs C.C., Levine D.G., Richardson D.W.

Vet Surg 2017; 46:242-248

18頭の馬の尺骨骨折でのLCPの使用

雑誌はAmerican College of Veterinary Surgeons の機関誌。獣医外科学雑誌の最高峰。著者はかのRichardson教授のグループ。

MMには、調査方法、麻酔方法と手術方法が簡単に書かれているだけ。

Resultsには、患馬の年齢、種類や、骨折の性状、症状、詳しい手術手技、そして一覧表とX線画像(Fig.1)が載せられている。

DiscussionにFig.2

これは完璧な書き方なのかな・・・

どのレフリーもペンシルヴァニア大学の教授の論文に、「手技や使ったプレートはMMに書け」、なんて指摘しないんだろうな;笑

                 -

Slab fractures of the third tarsal bone: Minimally invasive repair using a single 3.5 mm cortex screw placed in lag fashion in 17 Thoroughbred racehorses

Barker W.H. and Wright I.M.

Equine Veterinary Journal 49 (2017) 216-220

第三足根骨盤状骨折:17頭のサラブレッド競走馬のラグ法による3.5mm皮質骨スクリュー1本を用いた最小侵襲固定

雑誌は馬獣医学の学術誌の最高峰Equine Veterinary Journal。著者はかのWright先生と部下。

MMには、研究手法、診断と手技、外科手技、術後管理、が書かれている。手技を説明するX線画像Fig.1あり。

Resultsは短くて、患馬の詳細、骨折の性状、そして予後、が書かれている。固定後のX線画像Fig.2.あり。

う~ん、どのレフリーもWright先生に、「患者の説明はMMに書け」、とは指摘しないんだろうな;笑

                 -

Synoviocoeles associated with the tarsal sheath: Description of the lesion and treatment in 15 horses

Minshall G.J. and Wright I.M.

Equine Veterinary Journal 44 (2012) 71-75

足根腱鞘に関係した滑膜腔:15頭の馬での病変と治療の記述

これもEVJ。馬臨床家、馬研究者の憧れの雑誌。著者は先の報告と同じWright先生とその部下。

同じ雑誌、同じ著者、扱ってるのも同様に外科手技とその結果、しかし!

MMは実に短い。調査の概要、そして、診断方法、だけ。

ほとんどやったことはResultsに書かれていて、症例の外貌、超音波所見、腱鞘鏡所見、治療手技も。

                 -

Use of dynamic compression plates for treatment of tibial daiphyseal fractures in foals: Nine cases (1980-1987)

Young D.R., Richardson D.W., Nunamaker D.M., et.al.

JAVMA, 194,12, 1755-1760

子馬の脛骨骨幹骨折の治療におけるDCPの使用:9症例(1980-1987)

アメリカ獣医師会雑誌。投稿論文数は多いのに掲載論文数は少ないので、ひょっとするとVet SurgやEVJよりacceptされ難い雑誌かもしれない。

これは、Reports of Retrospective Studies として載せられていて、Introduction という区切りなしに記述が始まり、Criteria for selection of cases 症例の選択が書かれていて、Results が続き、Discussion。

6ページに及ぶ大論文だ。Full paper 原著論文扱いされるのだろうと思う。

                 -

つまり、書く内容によって、読みやすいように、書きやすいようにMMとResultsを書けば良いのであって、

使った器材だからMMに、とか、

患者の説明はMMに、とか、

外科手技はMMに、とか、

いうことはないようだ。

やれやれ、しかし、杓子定規に指摘してくるレフリーが日本には多いのよ。

臨床家諸兄、がんばって英語でも日本語でも症例報告を書こう!

そのことで日本の馬臨床も向上し、世界に認められ、日本の獣医学術誌もレベルアップする、はず。たぶん。。。きっと・・・

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ことしも巨大なツララができている。

シマ模様はなぜ?

今年は寒い。

雪も降ったし、寒いので融けない。

きょうは温かくなるらしいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


大晦日2020 COVID19の年に

2020-12-31 | How to 馬医者修行

今年は歴史に残る年になってしまった。

COVID19により何がもたらされ、何が失われたのか・・・

せめて悔いのないような行動をしていきたい。

学会もなく、講習会もなく、会議もオンラインで、忘年会も慰労会も懇親会もない。

長くなると人との接触の少なさによる弊害が出てくるだろう。

メールでしかやり取りしたことがない人を信頼できるか?

せめてテレビ電話でも使うようになれば良いのだろうか?

                -

今の大学生も可哀想だ。

オンライン授業で課題が山ほど出されるし、友達もできない。

臨床実習で外部へ出ることもできない。

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COVID19がこれほど蔓延した背景には増えすぎた地球の人口や、

人が自然環境を破壊して生活域を広げたことや、

激しく地球上を移動することがある。

都会、人口密集地、で感染は広がり、それが地方へもたらされる。

                -

私の地域も、馬のセリで人が集まるし、札幌との行き来も多いのだが、北海道の中でも指折り感染者が少ない地域のようだ。

”市”がない数少ない地域なのが幸いしているのかもしれない。

(北海道の中で、”市”がないのは、日高と檜山だけ、たぶん)

                -

このvideoは、なかなかよろしい。

https://www.nosaido.or.jp/promotion-video/

田舎で、小さいコミュニティーの中で、動物相手の仕事をするのは楽しいよ。

                -

来年がいくらかましな年になりますように !!

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寒波襲来のようです。

荒れる地域もあるようです。

家で家族とすごしましょう。

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第7章 研究倫理・不正について その2

2020-12-30 | How to 馬医者修行

 

の最後の章。

研究不正には

fabrication  ねつ造

falsification  改竄

plagiarism  盗用

がある。

頭文字をとってFFPと呼ばれる。

          ー

私はJournal of Equine Science のeditor をしている。

今年、海外からの症例報告投稿で、plagiarism された投稿があった。

担当をお願いしたreviewer が見つけてくれたので、盗用論文を審査したり、掲載してしまう、といったことにならないで済んだ。

日本の馬科学といった狭い、ほとんどが顔見知りだったりする世界ではなく、海外からも投稿があるようになると、十分警戒しないとならない。

今は、論文の盗用をチェックしてくれるサーヴィスがあるようで、編集員会ではそれ以降、盗用をチェックして担当編集員に送ってくれている。

          ー

日本の医科学は、STAP細胞事件や、降圧剤の治験の不正ですっかり世界的信用を無くしている。

循環器の領域では、欧米のreviewerに、理不尽なコメント付きでrejectされることさえあるとのこと。

情けない話だ。

          ー

臨床研究で、思ったような結果が出なかった場合に、

①都合の悪い結果を出さない

②有意差の出たアウトカムを過度に強調する

③問題症例を省く

④比較対照を変える

⑤あとから仮説を変える

これらは外科医の臨床研究手法として蔓延している。

明らかな不正ではないが、「不適切な行為」または「spin」とされる。

          ー

臨床研究の中でも個人情報は慎重に扱わなければならなくなっている。

私も、心臓冠動脈の血流量測定の臨床研究の検体として、自分の画像が使われることの同意書にサインしている。

今、コロナ対策でも、個人情報保護と情報公開の感染防止効果の相反が課題になっている。

地域の感染者数の発表があっても、年齢、性別、地区などが”非公表”だと、自分の警戒度を上げる参考にならない。

感染者や、感染者の家族、果ては直接コロナ感染症に対応して医療者への差別などは論外だが、

社会全体への貢献と、個人情報保護の必要性は、慎重に判断されるべきではないだろうか。

          ーーー

長く紹介してきた「外科系医師のための 手術に役立つ臨床研究」本多通孝先生、も今回で終了。

3500円。

たいへん読みやすく書かれている。

臨床研究をやっている、やってみたい、やろうとしている大動物臨床獣医師にも一読を広くお勧めしたい。

                ---

さて、通常業務終了。

1年の終わりだ。

もう掃除も片付けもする気力もない。

でも症例の整理だけはしておきたい。

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当歳馬の毛を刈った部分。

皮膚は濡れないし、風もそうそう通しそうにない。

保温性は良さそうだ。

注射部位をアルコール綿花で拭いても皮膚はきれいにならないし、たぶん濡れてもいない。

冬毛のワンコや馬に降った雪は溶けない。

熱が逃げていない証拠だ。

 

 

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第7章 研究倫理・不正について

2020-12-28 | How to 馬医者修行

 

最後の第7章は研究倫理・不正について。

その最初に、HTA;Health Technology Assessment  医療技術評価 が紹介されている。

医療技術を実践する際の医学的・社会学的・経済学的そして倫理的問題を体系的で、透明かつ公平にまとめていく学際的過程・・・

難しいが、「泣くな研修医」の研修医クンが、生活保護受給者で高齢の末期胃がんの患者さんの治療で悩んだり、

ブラックジャックによろしく」に提示されている医療現場での諸課題も、この「評価」の対象だろう。

UKでは、医療技術評価機構である NICE; National Institute for Health and Care Excellence は医療技術の評価に経済評価も含めていて注目されているのだそうだ。

さらには、Citizens Council report として、市民会議で議論し、報告書を出しているのだそうだ。

簡単に結論や合意が得られることではないのだろうが、今のままでは医療は破綻する。

何が良い医療なのか、医療に何を望むのか、社会全体で死生観も含めて議論を始めるべきときだと思う。

           ー

臨床研究もまた背景には社会情勢があり、医療上の倫理もまた社会の中のものでなければならない。

           ーーー

NOSAI獣医師は、必要最低限の治療をしなさい、と教わる。

対症療法より原因療法を優先しなさい。

治らないと思ったら治療するのを止めなさい。

高額治療は慎重に。

薬剤選択は安い薬から。

限度超過すると診療所経営も圧迫するよ。

などなど。

”経済動物”だから、ということで、獣医療はある面、ヒト医療より進んでいた部分があったのかもしれない。

しかし、家畜共済制度の運営の仕方や、畜産業の規模が大きく変化すると、その大動物診療も変らざるを得ない。

大動物臨床でも、あらためてHTAが必要だろうと思う。

             //////////////

先日の吹雪。

1時間ほどで止んだのだが。

前も見えない。

この地域では珍しい。

              -

研究とは眼をこらして先を見ることなのかもしれない。

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第6章 時間の作り方・モチベーションの保ち方

2020-12-26 | How to 馬医者修行

引き続き

から。

臨床研究が進まない要因は、モチベーション、時間、お金、の不足ではないか。

大動物臨床獣医師だとちょっとちがうかな。

そもそも臨床研究のHow to を習っていないし、その意義を教わっていない。

時間がない、というのは外科医に比べると恵まれているのではないか。

そして、「時間がない」という人の多くに不足しているのは時間ではなくやる気だ。

お金、はそもそも研究費を与えられていない。獲得する方法もほとんどない。

        ー

①覚悟を決める

最終的には研究とは自分1人の内面を掘り下げ、みつめる作業なのだ・・・

研究とは孤独なものだ。人の手を借りなければならないことも多いが、結局、主著者ひとりが苦闘することになる。

それが諸事情で、筆頭著者でなかったりするのだけれど、それではまだ筆頭著者も一人前ではない。

②平日の業務を休む

午前中に集中して行うべき

私もそう思う。

著者はご自身の地元の医科大学の例をあげておられる。

若手外科医が臨床研究をできる環境をつくることで、若手外科医が集まりだした、とのこと。

臨床研究に力を入れる病院が地域医療を活性化させ、今後の基幹病院として生き残っていくことになる。

大動物臨床分野にも生かせることかもしれない。

③データシート作成に時間をかけない

これは大動物臨床分野ではカルテの改善から始めなければならない。

④資金を獲得する、できなければ自腹を切る

「研究というのはやりたい人がやればよい。そのために自腹を切るのは苦痛でもなんでもない」

達観だね;笑

誰しも人生の持ち時間は有限。人生の何に優先度を置くか、もう一度みつめ直すよいきっかけ。

自分は「これ」をやった、振り返ってそう思えるものになれば好いね。

⑤データを売るためには業務を変えなければならない

カルテ調査の上での③以上の問題。

第一に記載忘れ。

第二に情報バイアス。

第三に”合併症隠し”

最後の要は、人としての良心と、外科医としての真面目さ、かな。

⑥メンターをみつける

に書かれているのは、大学での講義、近場でのセミナーや研究会に積極的に出かけていくこと。

そして、知らない先生でも、他大学の先生でも、遠方でも、面会を申し込んで会いに行くこと。

自分の殻は人に叩いて割ってもらわないと自分では割れないから。

          ーーー

時間とお金を確保するのも、モチベーションがそもそもの起爆剤であり原動力。

それはつまるところ何から来るのだろう?

         //////////

サンタさんは燃えている薪ストーヴの煙突からも入ってこれるのでしょうか?