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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

手術に役立つ臨床研究 第4章 その4 reviewerとの闘い

2020-12-19 | How to 馬医者修行

これは学術報告を投稿したことがある人には、苦い思い出も、言いたいこともあるだろう;笑

せっかく苦労して時間をかけて論文にまとめたのに、

「価値がわからない」とか、

筋違いの、あるいは細かい指摘とか、が返ってくる。

あるいは、語り口が偉そうで、不親切なコメントとか、だったりもする。

読んで納得したり、対応が難しいと考え込むより、私などは腹を立ててしまうことが多い。

すぐに対応した方が投稿者である自分自身にも、投稿先やreviewerにとっても良いのはわかっているが、

頭を冷やす期間をおかないと対応する気にさえなれないこともしばしば;笑

        ー

もちろん冷却時間だっとしても、時をおくのはよろしくない。

自分自身にとっても、投稿した論文を掲載させるという点でも、reviewerにとっても。

 

この本にも書かれているように、できるだけ早く速く対応した方が良い。

reviewerはほとんどすべてボランティアなのだ。

新規の投稿論文の査読を頼まれるような先生は、自分でも臨床や研究も頑張っている先生たちで、

おまけにそれなりのキャリアがあり、然るべき立場にある先生方で、とても忙しい。

その時間を割いて、完成度が低い論文を読み、間違いを指摘し、良くする方法を考え、それを文章にしてコメントしなければならない。

そのreviewerの立場を頭におきながら、投稿者は真摯に対応しなければならない。

          ー

rejectされたら・・

凹むが、rejectの理由としてあげられた点についてしっかり考えて修正した方が良い。

そして、別な学術誌へ再チャレンジすれば良い。

指摘されたことがもっともだと思うなら修正しておかないと・・・・

狭い世界だから、再投稿先の別な学術誌が同じreviewerに査読を依頼することがある。

指摘してやったのに、また小手先の修正だけで投稿しやがって・・とrejectされかねない。

reviewerとのやりとりは、自分の論文をよりよいものに仕上げる最後の機会なのだ。

論文は永遠に残る。

掲載されること以上に、良い報告を残すことこそが本当の成果なのだから。

          ー

revision;修正が必要。とされたら・・

revisionに引っかかったら、チャンス到来です

これはしたたかな投稿者だ。

そうだ、こういう風にとらえればいいのだ。

major revision と minor revision があり、minor revision だけならかなりacceptに近い。

簡単な修正を求められているだけだったり、自分でも反省すべき間違いを指摘されているだけだったりする。

major revision はピンからキリまである。

現実には修正できるような問題ではなく、根本から考え直さなければならない指摘もある。

そのときは、reviewerと全面対決しなければならない。

修正して、回答して、それでも理解が得られなければ、editorに、reviewerを替えてくれ、と要求するのは1回は許されているようだ。

今は、多くの学術誌が電子投稿(オンライン投稿)になり、中には、誰にreviwerを頼みたいか、

誰はreviwerとして避けたいか、指名できる学術誌もある。

投稿すると、未掲載の論文を読まれることになり、研究のライバルには読まれたくない、あるいは個人的に関係が良くない同業者には見せたくない、ことがあるからだろう。

           ー

基本的にはreviewerに反論したり、説得したりしようとしない方が良いと私は自分の経験から思う;笑

「このreviewer、わかっていなくて、自信がないんだな」とでも思わない限り、相手の方が絶対強いからだ。

しかし、

reviewerがが必ずしもその道のエキスパートであるとは限らない

論文の著者ほど時間をかけて既存研究などを調べているとは思えない

その投稿論文を一番理解しているのは著者だ。

説明すべきことはきちんと説明して納得してもらえば良い。

acceptしてもらいたい一心で、reviewerに求められるままに修正したり、主張を和らげる加筆をすると、せっかくの努力の結晶の価値が下がってしまう。

         ー

reviewerは必ず複数いるし、担当editorも含めると2人以上居る。

1人のreviewerからあまりに厳しい指摘があったら、「これこれこういう理由で、修正できない(あるいは修正したくない)。もう1人のreviewerにはご指摘をいただいていないので、こういう修正に留めたい」

という対応も有効なことがある。

最終的には担当editorが、acceptの可否を判断することになる。

ただ、reviewerはeditorが選んでおり、おそらく顔見知りで、信頼しているわけだから、

reviewerの片方でもrejectと言っているのに、editorが「良いよ。私の判断でacceptする。」と言ってくれることはほとんどない;泣笑

          ーーー

査読。については、いっぱい書きたいこともあるけど;笑

まあ、長くなるので続きはまたの機会に。

          /////////

朝、暗いうちからじいちゃんと散歩する。

じいちゃんが遅れていると、気にして待とうとする。

ゴールデンだからか、レトリーヴァーだからか、あるいはパックを作るオオカミの類ゆえの習性か。

大丈夫、あんたがあっちこち嗅いでシッコ垂れてるうちにじいちゃん来るから。

 

 

 

           

 

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第4章 臨床研究を論文にする

2020-12-14 | How to 馬医者修行

 

 

さて、いよいよ論文執筆。

しかし、研究計画書の作成に最低でも3ヶ月、前向きの研究であれば6ヶ月くらいの時間をかけるのが標準---

なのだそうで、それくらい時間をかけて研究計画書を作っておけば、研究論文の導入部”introduction”は完成しているはず----

データを先に集めて、どうにかすれば有意差がでないかと試行錯誤を繰り返すのを”P値(ピーチ)姫を探す冒険”というのだそうだ。

         ー

論文執筆におけるガイドライン

ランダム化比較試験の場合はCONSORT声明という指針に沿って論文を記載する。

CONSORTとはConsolidated Standards of Reporting Trials.

観察研究の論文を書く際にはSTROBE声明という指針がある。

STROBE声明とはStrengthening the Reporting of OBservation studies in Epidemiology statement.

その他、論文やレヴューに関する各種指針がある。

ICMJE

STARDイニシアチブ

QUOROM声明

MOOSE声明

GRADEシステム

TRIPOD声明

         ー

Introduction緒言 をどう書き出そうか悩むことはしばしばあるが・・・・

第一段落 トピック 現在の臨床で注目されているトピックが何か

第二段落 研究疑問の明確化 既存研究で明らかになっていないこと、自分の研究疑問は何か

第三段落 仮説の提示 仮説を提示し、研究疑問を解決するための方針を記述する

ということなのだそうだ。

         ー

Patients and Method

PECO/PICOにしたがって書かれる医学論文は、Material and Method ではなく、Patients and Method と書かれるようになってきているのだろうか・・・?

獣医学分野はまだ科学論文としてMMと踏襲することを強要されている気がする。

         ー

さて、そのあとはResults なのだが、長くなるので、つづく。

       /////////////

外科医が誕生日におこなった手術では、死亡率が1.3%高い、という研究結果が、医学のトップジャーナルのひとつにオンライン掲載された。

外科医もヒトの子、諸事に左右されるのは仕方がない?

統計の取り方で1.3%くらいの有意差は出せるかもしれない?

そもそも1.3%くらい許容範囲?どっちに転ぶか分からないんだし?

子供や奥さんの誕生日はどうだったんだろう?

誕生日の午前中と午後の手術では差はなかったんだろうか?

             -

この調査結果を信じるとして・・・・

外科医は誕生日には仕事を休もう!

そもそも徹夜明けなどは手術はやめよう!

誕生パーティなどほとんどできない日本の外科医では考えられない、という意見もあるようだ。

私は・・・・・60の誕生日は結腸捻転2頭で夜中まで働いていました;笑

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第3章 調査項目とアウトカムを書く

2020-12-10 | How to 馬医者修行

さて、調査項目とアウトカムを書く、と言っても、あくまで研究計画の中での話し。

            ー

実際の臨床研究では、E(あるいはI)群間でアウトカムを比較することになるが、アウトカム以外の項目調査が必要になることがほとんど。

研究を計画するに当たって、

アウトカムの比較を正しく行うために必要な他の項目は何か?」を考えなければならない。

            ー

しかし、「バイアス」と「交絡」がつきまとう。

バイアスとは、「研究理論の実務化に伴って生じる研究結果の系統的歪み」

交絡因子とは、「EとO両方に影響を与える因子」

研究計画を立てるに当たって、

バイアスは研究デザインによって”予防”する。

交絡は、統計解析によって”調整”する。

(この章は長くなるので”つづく”)

         ///////////

 

「坂の上の雲」を読み終えた私に、父が「こんなんもあるで」と貸してくれていた本。

読みかけていたのだが、「坂の上の雲」に出てくるエピソードが多く、

にもかかわらず「坂の上の雲」を参考資料として認めておらず、

著者のその姿勢に辟易して、途中で読むのをやめていた。

入院中に残りを読んだ。

コロナ禍で警戒態勢の病院で、明治の人を創ったのは何か?を考える本は、それなりに面白かった。

 

 

 

 

 

 


手術に役立つ臨床研究 第一章 臨床研究計画書を書く PECO/PICO

2020-12-07 | How to 馬医者修行

うまく行った症例や手技、効果を示した薬剤や投与方法だけが報告されるというバイアスがかかる。

それを避けるために研究計画は事前に公表されていなければならない、のだそうだ。

その課程は、

臨床医が臨床疑問 CQ ; Clinical Question を持つ。

それを研究疑問 RQ ; Research Question として磨きあげていく。

この本ではとてもわかりやすくイラスト入りで実例として書かれている。

          ー

RQが固まったら、研究計画には「背景」を書かなければならない。

それには過去の研究を検索する必要がある。

PubMedでの検索にもHow to が必要なのだが、

大動物臨床あるいは馬臨床の分野は、医学分野に比べるとはるかに狭く、情報量が少ないので、

検索語を上手に操らないと欲しい情報を厳選できない、ということは少ないかもしれない。

(海外のマイナーな雑誌がヒットすると入手するのに困る)

(英語以外で書かれた報告がヒットすると読めない;笑)

          ー

”ばかもん。PECO、PICOは臨床研究の基本事項だ。” なのだそうだ。

RQ ; Research Question をPECOの形で書き出す。

PECOとは、

P  patients 対象患者

E exposure 暴露

C control  対照

O outcome  結果

          ー

観察研究の場合にはE exposure (要因の暴露) で良いが、

介入研究の場合にはEではなく、I ; intervention (介入) になる。

          ー

臨床研究を進めていく中では、「だから何なの?」と自問自答を繰り返さなければならない。

「あなたの結果は患者にどういう利益をもたらすか明確にせよ」というのが、

権威ある医学雑誌 British Medical Journal (impact factor 19.97 !!) のkiller question なのだそうだ。

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味覚・嗅覚の異常はない。

倦怠感もない。

呼吸器症状もない。

平熱。

さあ、復帰しましょう。マスクして。

 

 

 

      


著述、記録、執筆....書くこと

2020-11-16 | How to 馬医者修行

高校で、現代国語、漢文を教わった田上先生は、もうかなりの年配だったが、専門分野で著述を続けておられた。

漢文を漢文として読むだけでなく、中国語での発音をまじえながら、漢字の意味なども講義してくださった。

その田上先生は、

「書いた原稿用紙をドンと立てられるくらい書かないと知識人には成れない」

と独特のやわらかい口調でおっしゃった。

もちろんボツ原稿は抜きにしてだろう。

九州のご出身で、北海道大学で学ばれた先生だった。

授業中の雑談、逸話からも多くを学んだ気がする。

                    -

大学時代、山岳部員でさんざん山で遊びまわったが、本人としては楽しく遊んでいる、という感じはなかった。

登山計画を立てて、準備があって、きつい活動があって、帰ってきたら反省会での報告がある。

登山するときは、リーダー、装備、食事、記録、など担当を決める。

記録係は、時間と到達地点を細かくメモに残す。

どこからどこまで移動するのに何時間かかったか。

どの尾根の標高どのくらいの場所にテントを張れる場所があったか。

休憩ごとにメモ帳に書き留める。

そして、活動の季報として冊子にまとめることもしていた。

獣医さんのカルテより細かくて、正確だった;笑

                  -

大学の研究室で教わった一条先生は、教授になってからも数多くの論文を書いておられた。

「書かなきゃダメだ。」

「書かないと何も残らない。」

と、ことあるごとにおっしゃられた。

卒業してからも、

「Hig君、早く書けよ」と、修士論文を学術論文化して投稿するようにせっついてくださった。

私の初めての英語論文になった。

                  ---

文章を書くこと、記録を残すこと、それを世に問うこと、その重要性を教える師や機会に恵まれたことは幸せだった。

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朝、競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

終わる頃、1歳馬の飛節の細菌性関節炎。全身麻酔下で関節洗浄した。

飛び入りで飛節の外傷。

私は血液検査業務。

14時から競走馬の腕節骨折の関節鏡手術。

14時半から監査。

続いて、外傷。

4頭で牧柵を突き破って脱走し、4頭とも怪我したのだそうだ。

1頭は骨折していて、翌日内固定手術することになった。