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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

Equine Veterinary Journal の変容 2 共著者についての表示

2024-09-25 | 学問

Equine Veterinary Journal の掲載論文の変化について思うこと。

本分の最後に、共著者(共同発表者)のそれぞれがその論文について何の役割を果たしたのか表記するようになっている。

A はこの研究のすべてのデータに関係しており、そのデータの尊厳に責任があり、B とともに分析の正確性にも責任がある。

CとDは、この研究のデザインを行った。

Aがデータを入手した。

AとBがCT画像を評価した。

EとAが統計解析を行った。

すべての著者は論文を下書きし、校閲し、最終論文を承認した。

              ー

論文に責任を持つ人だけが共著者であることを示している。

そして、各人が何の役割を果たしたかを示している。

さらに、役割を果たしていない人、責任を持っていない人が共著者に入っていないことを示している。

              -

すべの著者が研究デザインと実施に貢献した。

発案、データ収集、統計解析、データ分析、そして文章著述はAが行い、Bが校閲した。

C,D,E,Fは調査の発案と計画に貢献した。

Gは調査の技術的実践について支援し・・・・

            ー

役割を果たしていない人は共同報告者に入っていませんよ。

            ー

すべての著者は、研究デザインとデータ収集、あるいはその両方に間違いなく貢献した。

それぞれの著者は論文の著述、あるいは校閲にたずさわった。

そして、それぞれの著者が最終論文を承認した。

            -

関係していない人が共著者になっていたり、最終論文を見ないままになっていたりしませんよ。

           ーーー

本来、論文の共著者とは、その論文について責任を負う人ということになっている。

一緒に診療したとか、採材に協力したとか、論文作成にアドバイスしたとか、etc.という人には、謝辞を述べるにとどめるべきなのだろう。

            ー

「協力したのに共著者にオレの名前が入ってない」「もう二度と手伝わない」

と言われると、以降の調査研究ができなくなる。

それなら、計画段階 concept の段階から研究に入ってもらって、実践 implementation も手伝ってもらうのが本来なのだろう。

            ー

私も長く調査、研究も行い、学術論文にも名前を連ねてきた。

時代は進み、研究として緻密さと厳格さが要求されるようになっている。

ダイナミックではなくなっているかもしれないが、そうあるべきところへ進んでいるのだろう。

            ー

著者の中で、とくに筆頭著者 first name は研究者として社会的にも研究歴として特別な扱いを受ける。

最も責任が重く、その論文著述、その研究を最も主体的に行った者が筆頭著者がなるべきであろう。

そうでないなら研究上、論文報告上の虚偽だ。

           ///////////

前日は好く晴れて山容が見えていたのに、登頂前夜は大雨。

朝は雨が止むのを待って登り始め、原生林の中を歩き、急登にあえぎ、なんとか頂上へ。

雄阿寒岳。

原生林に囲まれ、大小の湖沼を麓に持つ独立峰。

眺望が素晴らしい・・・・そうだ;笑

登りでへばっていると下りもなかなかたいへんだ。

秋の日は短い。

それでもゆっくり降りたので、倒木いっぱいの原生林をたっぷり味わえた。

晴れた日にまた登りたい。

                                               ー

そう言うと、論文投稿、論文掲載を高みに登る summit って呼ぶ。

 

 

 

 


Equine Veterinary Journal の変容 1

2024-09-24 | 学問

Equine Veterinary Journal は英国馬獣医師会が発行するイギリスの馬の学術誌。

「馬」に限定されているので、日本の大学の先生はご存じない方が多いが、実は獣医学分野ではインパクトファクターは指折り高い。

かつては1例報告などの症例報告も掲載されていたが、そのうち4例以上の症例報告でないと受けない、となった。

学術・研究誌としてどんどんレベルアップし、臨床とは距離ができたようにも感じるが、症例数が多く、しっかり練られた症例集の報告も現在でも載せている。

馬の臨床家にとっても prestigious な学術誌だ。

             ー

最新刊を見ると、掲載論文はいくつかのカテゴリーに分類されている。

EDITORIAL 論説 2編

EVIDENCE REVIEW  根拠総括 2編

NARRATIVE REVIEW 論説総括 2編

ANALYTYCAL CLINICAL STUDY 分析的臨床研究 13編

DESCRIPTIVEDESCRIPTIVE CLINICAL REPORT  記術的臨床報告 3編

SURVEYS AND POPULATION STUDY  調査および集団研究 1編

EXPERIMENTAL AND BASIC RESEARCH STUDY  実験および基礎研究 3編

CORRESPONDENCE ”やりとり”

             ー

掲載されている記事が、evidence として何に当たるのかを示す分類になっている。

 

下図はWikipedia から

 

私は、よく示されるこのピラミッドが、それぞれの研究レベル、研究の価値を示すとは思わないけどね。

             /////////////

厚岸産牡蠣のダッジオーブン蒸しは最高だった。

アサリの酒蒸しも美味!

ピンクのシャンパンに、岐阜の栗きんとん。

学生時代にいっしょに貧乏登山をした仲間も、それぞれ年を経たのだ。

 


北獣誌の症例報告 子牛の脛骨近位粉砕骨折

2024-09-19 | 学問

投稿していた症例報告が北海道獣医師会誌に載った。

会員外の方も、そのうちHP上で読める、ようになる、たぶん。

このブログの読者の方はご存じの症例

うまく治った

しかし、同様の症例で、プレート固定は不適だとし、インターロッキングネイルで治癒させた報告がすでに Veterinary Surgery 誌に出ている。

その小動物外科医の先生が書いた症例報告に反論したくて、私は今回の症例報告を書いた。

            ー

なんの問題もなく治癒したと思っている。

私は、T-LCPという特殊で高額なプレートを使ったが、普通のLCPや、安価なDCPを使っても治せたと思う。

あとは確率論だ。

まだまだ多くの症例経験が Evidence Based Veterinary Surgery としての牛骨折治療には必要だ。

              ー

T-LCPを再利用したことも述べた。

これは賛否、是否、可否、があるかもしれない。

しかし、経済的に合わない、として殺処分されてしまうより、牛も農家も良いはずだ。

何十例も牛のプレート固定をしてきたが、プレートが折れたことは一度もない。

(馬では何度も経験している)

              ー

この症例報告が、私の論文著作活動の最後だ。

多くの編集員、レフリーの方にお世話になった。こころから御礼申し上げたい。

共同報告者の先生方にもたいへんお世話になった。感謝申し上げます。

            /////////////

まだ暗いうちに窓にぶつかった鳥。

クロツグミ?

ケースの上に置いてやった。

しばらくして回復して飛んでいった。

 

 

 

 


Veterinary Surgery誌の論文タイトルに思うこと 2024

2024-09-13 | 学問

新しい Veterinary Surgery 誌を見て驚いた。

「英国の馬群における腔内軟部組織損傷併発のない掌/底側輪状靱帯拘縮の治療としての腱鞘鏡ガイド下の掌/底側靱帯切断の治療成績」

まあ、なんと長いタイトル。

そして、Outcome 治療成績 が内容だとするタイトルになっている。

               ー

「前十字靱帯症に関連した半月板裂を関節鏡視下縫合で治療したイヌ43頭の短期的治療成績」

これも Outcomes とまとめられている。

こちらの outcomes は複数形。

              ー

「透視装置下順方向管骨ピンニングで治療した管骨骨折のイヌ15頭とネコ2頭の治療成績」

これもタイトルが長い。

何を、どうやって治療した、治療成績、と書こうとすると、タイトル内に重複が出てくる。

そして outcomes は複数形。

              ー

「15頭のネコにおける特発性乳糜胸のヴィデオガイド下胸腔鏡治療の治療成績」

これも outcome くくり。

              ー

全論文がこの形式のタイトルで書かれているわけではない。

「12頭のイヌにおける膵臓新生物の腹腔鏡視下切除」

これはすっきりしている。

             ー

これらの論文は CLINICAL RESEARCH という分類にされている。

CASE REPORT 症例報告と分類されている論文もある。

「変更傍脊椎切開経由傍顆結節骨折片摘出による頭振戦の外科治療:1頭の成馬における詳細な解剖的そして外科的記述」

1例報告だから case report なんだろう。

これもタイトルは長ったらしい長い。

           ー

「脈管輪異常の胸腔鏡治療による8ヶ月齢のベビードールヒツジ1頭の慢性逆流の改善」

こちらも case report 症例報告で、1例報告。

             ー

CLINICAL RESEARCH 臨床研究としての論文は CASE SERIES 症例集積としてではなく、調査研究として書け、あるいは、タイトルは調査内容を示すものにしろ、という編集方針になったのだろう。

しかし、case series 複数例の症例報告であっても、著者が書きたいのは治療成績だけとは限らない。

獣医外科学の最高峰の学術誌であっても、読者が読みたいのは手術成績だけとは限らない。

どのような馬にその疾患が多かったのか、であったり、

どのような症状であったのか、あるいは何が問題で手術が選択されたのかであったり、

手術手技や、手技におけるオリジナルの工夫であったりする。

ほとんどの論文が Outcome とタイトルをまとめてしまうのは、どうなの?と私は思う。

            ー

「冷却したネコ腸管と新鮮なそれは、腸管切開部漏洩圧試験あるいは全層厚計測において差がなかった」

こういう結果そのものを文章で示してしまうタイトルは、私は好ましいと思う。

ある時期に見かけるようになったけど、あまり流行らなかった。

 


高度免疫血漿によるR.equi肺炎予防の総括

2024-07-18 | 学問

高度免疫血漿投与で仔馬をR.equi肺炎から守れるか?予防できるか?

総括的文章が昨年Equine Veterinary Journal に掲載された。

Transfusion of hyperimmune plasma for protecting foals against Rhodococcus equi pneumonia

Equine Vet J 2023 May;55(3):376-388

The bacterium Rhodococcus equi causes pneumonia in foals that is prevalent at breeding farms worldwide. In the absence of an effective vaccine, transfusion of commercial plasma from donor horses hyperimmunised against R. equi is used by many farms to reduce the incidence of pneumonia among foals at farms where the disease is endemic. The effectiveness of hyperimmune plasma for controlling R. equi pneumonia in foals has varied considerably among reports. The purposes of this narrative review are: (1) to review early studies that provided a foundational basis for the practice of transfusion of hyperimmune plasma that is widespread in the United States and in many other countries; (2) to summarise current knowledge of hyperimmune plasma for preventing R. equi pneumonia; (3) to provide an interpretive summary of probable explanations for the variable results among studies evaluating the effectiveness of transfusion of hyperimmune plasma for reducing the incidence of R. equi pneumonia; (4) to review mechanisms by which hyperimmune plasma might mediate protection; and (5) to consider risks of transfusing foals with hyperimmune plasma. Although the weight of evidence supports the practice of transfusing foals with hyperimmune plasma to prevent R. equi pneumonia, many important gaps in our knowledge of this topic remain including the volume/dose of hyperimmune plasma to be transfused, the timing(s) of transfusion, and the mechanism(s) by which hyperimmune plasma mediates protection. Transfusing foals with hyperimmune plasma is expensive, labour-intensive, and carries risks for foals; therefore, alternative approaches for passive and active immunisation to prevent R. equi pneumonia are greatly needed.

Rhodococcus equiという細菌は、世界中の生産牧場に蔓延し、子馬に肺炎を引き起こしている。

有効なワクチンがない状況で、R. equiに対して高度に免疫されたドナー馬からの市販の血漿輸血は、この病気が蔓延している多くの牧場で肺炎の発生を減らすために多くの牧場で行われている。

R.equi肺炎を抑制するための高度疫血漿の有効性は、報告によってかなり異なっている。

この記述総説の目的は、

(1)米国および他の多くの国で広く普及している過免疫血漿の輸血の実践の基礎を提供した初期の研究を総括すること。

(2)R.equi肺炎を予防するための高免疫血漿に関する現在の知識を要約すること。

(3)R.equi肺炎の発生率を減らすための高度免疫血漿の輸血の有効性を評価する研究間のさまざまな結果の考えうる説明の解釈的な要約を提供すること。

(4)高免疫血漿が防御を媒介する可能性のあるメカニズムを検討すること。

(5)子馬に高免疫血漿輸血するリスクを考慮すること。

R. equi肺炎を予防するために仔馬に高度免疫血漿を輸血する行為を支持する証拠の重みはあるが、輸血する高度免疫血漿の量/用量、輸血のタイミング、高度免疫血漿が防御を媒介するメカニズムなど、このトピックに関する知識には多くの重要なギャップが残っている。

仔馬に高免疫血漿を輸血することは、費用がかかり、労働集約的であり、子馬にリスクを伴う。

したがって、R. equi肺炎を予防するための受動的および能動的免疫の代替アプローチが非常に必要とされている。

            ー

ワクチンがない現状では、高度免疫血漿投与による予防は多くの牧場で行われているし、それなりに成果をあげているのだろう。

しかし、あまりにも費用と手間がかかりすぎる。

そして、効果は投与すればほぼ発症しない、などというほど鮮明なものではない。

新生仔馬に相当量の血漿輸血を行うのはショックなどのリスクがある。

別な方法が欲しいものだ。

という結論。

             ー

異論はない。

1990年代からかなり使われてきたR.equi高度免疫血漿投与。

効果はあるが、決定的なものではない。

R.equi肺炎を減らし、おそらく重症化も防ぐが、投与した仔馬でもかなり発症する。

             ー

多くの仔馬に投与するのではなく、感染仔馬、発症仔馬に治療目的に選択的に使えないか?

おそらく期待できるほどの効果はない。

投与しないよりはした方が良いかも知れないが、潜伏期間があり、症状を現しにくいこの病気の性質から言って、感染の非常に初期に投与するのは難しいし、

発症した仔馬はかなりの免疫応答をしている。

そこへ高度免疫血漿を投与しても、治療効果はさほど期待できない。

これだけ高度免疫血漿についての調査・研究が行われているが、治療効果について云々した研究や調査報告はない。

              ー

R.equi強毒株の病原性は、膿瘍を作り、膿瘍の中は血行がないので免疫成分も届かず、抗菌剤も届かないことが1つ。

膿瘍ができてからでは、免疫成分の血中濃度を上げても効果は出にくい。

もう1つの病原性は、免疫細胞に貪食されても殺されずに生き残ること。

これについても、高度免疫血漿と言えども、細胞内での殺菌力を改善する成分は含んでいないのだろう。

              ー

だから、今は、多発牧場をなんとかしたいなら、多くの仔馬に生後できるだけ早く、予防的に高度免疫血漿を十分な量(おそらく2㍑)投与するという使い方をするしかない。

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よ~く考えよう

だいじなことです。