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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

今年は子宮穿孔が多い

2018-04-20 | 繁殖学・産科学

朝、早めに出勤したら当番の獣医師が子宮穿孔の確定診断を終えたところだった。

もう一人出勤してくるのを待って開腹手術を始めた。

左子宮角の先端の穿孔だった。

これで7頭目だったか、8頭目か・・・・

今年は子宮穿孔が多い。

記録的に積雪が多かったことと関係ありそうな気もするが、わからない。

                   -

その夜は私は第一当番。

難産の依頼で起こされた。

両前肢屈曲、頭部屈曲、後肢も産道に入って来ている、とのこと。

10時半から準備を始め、実習生2人を呼んで、さらに当番獣医師も呼ぶ。

馬が着いて、最初から全身麻酔する。

両前肢を伸ばして、頭が出てきたら、後肢が産道へ来ていないのを確認して・・・・

引張ったが、出てこないので探ったら、後肢が産道へ入ってきていて・・・

また母馬の後躯を吊り上げて、後肢をできるだけ押し戻しておいて、また引張れるだけ引張って・・・

子馬の胸まで出たところで切胎する。地元での難産介助のときから死んでいたようだ。

後肢にチェーンをかけて、下半身は尾位にして娩出させた。

その間、40分ほど。

麻酔を終了して1時間近く寝ていて、良い覚醒起立をしたが、歩かせ始めると後肢が開いてしまう。

左右の後肢をつないで、それ以上広がらないようにした。

入院させることも考えたが、よちよち歩きで帰って行った。

血と羊水と胎便であちこち汚れたのを掃除して、終わったのは午前1時半。

夜中の重労働だった。

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ようやく暖かい日が続きそうだ。

薪ストーヴの季節がそろそろ終わりなのは残念に感じる;笑

 


子宮頚管奥の背側の穿孔

2018-03-31 | 繁殖学・産科学

3日前に分娩した繁殖雌馬。

きのうから発熱し、元気食欲不振。

その日は、超音波で腹水増量は見えなかったが、翌日には腹水増量している、とのことで来院。

PCV47、白血球数4,780/μl。

産道から子宮を触ってみるが子宮角先端に穿孔は触れない。

しかし、超音波検査では腹水は明らかに増量している。

「お産は重かったですか?」と訊いたら、

「仰向けで出てきかけていたので、直すのに時間がかかった」とのこと。

下胎向だと産道の背中側を傷つけることが多い。

もう一度、直検エプロンと手袋をつけなおして、産道から子宮へ背中側を探ると・・・・

子宮頚管の奥の背中側に指3本ほどの穿孔創が確認できた。

さて・・・・この部位だと開腹手術しても開腹手術創からは縫合できない。

立位で膣から手を入れて縫うしかないが、膣穿孔とちがって遠くて厳しい。

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尾椎硬膜外麻酔をして、

2の合成吸収糸150cm長に三稜針を付け、

左手で裂創の辺縁を持って、右手で手探りでそれを貫き刺して、左手で針を引き抜いてくる。

それを数回繰り返して、最後の糸結びは膣鏡で広げておいて、長い把針器で頚管の粘膜を貫いて、針をはずして膣内で手結びした。

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そのあいだ、腹底に32Fr(フレンチ)のトロッカーカテーテルを刺し込んで、

最初にマンゴージュースのような汚い腹水を抜いて、

次に子宮穿孔創から6リットル生理食塩液を入れて、それをドレインから抜いて、

もう一度それを繰り返して、

あとは、ドレインから生理食塩液を12リットル入れて、ドレインから抜いた。

最後に抗生物質入り生理食塩液を1リットル入れて、ドレインを閉じた。

                  -

翌朝、ドレインを開放したが、腹水は少量しか出なかった。

前の晩に最初に出た腹水より濁りは少ない。

生理食塩液を5リットル入れたら、4リットルは回収できた。

濁りはさらに減っている。

抗生物質を溶かした1リットルを注入してドレインを閉じた。

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抗生物質は全身投与もする。

夜中に前搔きが止まなかったのでフルニキシンをうったせいもあって体温は平熱。

血液検査所見はすくなくとも悪くはなっていない。

子馬を連れて来て一緒にしても大丈夫だろう。

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とうちゃん まいあさ おらとしっかりさんぽして からだきたえとけよ

たいりょく しょうぶだぞ

 

 

 


高齢馬の分娩後の疝痛は子宮動脈破裂を疑う必要がある

2018-03-28 | 繁殖学・産科学

午前中、飛節OCDの関節鏡手術。

その最中に分娩直後からの疝痛の依頼。

18歳だと言う。

「子宮動脈破裂なんじゃないの?」

               -

来院したら、口粘膜は貧血+++。

心拍60、呼吸数54。

超音波で腹腔に血腫か血餅らしきものが見えた。

PCV36%、乳酸16mmol/l。

やはり子宮動脈破裂だ。

持続点滴するか、膠質輸液するか、考えるが、いずれにしてももう助からないだろう。

輸送すべきじゃなかった。

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午後も、飛節OCDの関節鏡手術。

それが終わって育成牧場へ喉の集団検診をさせてもらいに行った。

その最中、難産の連絡。

集団検診を終えて、戻ったら枠場で難産整復中。

球節が硬く屈曲変形しているようだ。腕節も伸びないので難産になったのだろう。

放牧地でお産を見つけてからすでに2時間以上経っている。

遅れていた頭を直してひっぱったら子馬は生きていた。

ヒップロックしたのか男4人でひっぱっても出てこない。

あとはひっぱるしかない。

なんとか引っ張り出した子馬はもう死んでいた。

やはり前肢の腱拘縮だ。背中も曲がっていた。

生きて生まれても安楽殺するしかない。

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無事に生まれて、健康に育って、元気に調教されている2歳馬たちの影には多くのリスクがある。

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オラがレトリーヴ(回収)してきたものは、おやつと引き換えです

 

 

 


難産 関節鏡手術と併行

2018-03-23 | 繁殖学・産科学

午前中は飛節OCDの関節鏡手術、という朝。

難産の依頼。

予定日より2週間早い死産の難産で、頭と前肢を直して枠場でひっぱったが肩までも出ない。とのこと。

関節鏡手術は延期しなくても、併行してでもやれるだろう、と判断する。

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すぐ全身麻酔して難産介助することにした。

子馬の肢が細い

球節が過伸展している。流産に近いのだろう。

尿膜・脈絡膜が剥がれて見えているし、厚く、色もおかしい

すでに破水して2時間以上経っている。

胎向(子馬の背中が母馬の背中と同じ方向)にはなっている。

も遅れていない。

後肢を吊り上げて潤滑剤を入れて探っても子馬の後肢は産道へは来ていない、とのこと。

それなら、強引にひっぱって出すしかない

どこかでひっかかっていたが、ひっぱる方向を変えたりして4人でひっぱったら出てきた。

子馬の後肢内股が裂けて腸が飛び出していた。

後肢がどこかに引っ掛かっていたのだろう。

胎盤炎で子馬が死んだので流産の難産になったと思われるが、念のために家畜保健衛生所へ胎仔は届けてもらう。

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覚醒を待たずに、別な部屋で倒馬して関節鏡手術開始。

難産の繁殖雌馬は16歳だったので、吊起帯を着けて起立させたが、ゆっくり寝ていたのでとても良い立ちかただった。

プロポフォールで麻酔するようになって麻酔からの覚醒起立は格段に安心できるようになった。

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大学から研修に来ている先生は、2ヶ所で正常産を観せてもらい、これで難産も観れた。

正常産でも牧場によってやり方がずいぶん違うので驚いていた。

人手や施設によって適切な方法は変わるかもしれないが、本当は望ましい方法にはそう差はないはずだ。

違うことをやっていても多くの大きな問題発生につながらないのは、正常産は病気でも事故でもない、ということでもある。

大学で獣医科学生に馬の分娩を見せたい、ということなので、背景を正しく説明して見せて欲しい。

「大学ではこういうのを見せられました」となって、間違いが普及されるのは困るから。

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午後は、繋靭帯炎の超音波画像診断。

2歳馬のDDSPに対するTieforward手術。

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雪が消えて、でも青草はまだない放牧地。

地面のやわらかさが嬉しいかね。

君は足どろだらけにしないでね。


ごく小さい子宮穿孔

2018-03-21 | 繁殖学・産科学

3/16分娩した繁殖雌馬が、3/19夕方元気がなく、3/20朝には体温39.8℃。

超音波検査で腹水が見え、穿刺したら血様腹水が採れた。

子宮穿孔のようだ、ということで診療依頼。

そこまで診断されていたら間違いないだろう、ということで、午前中の手術を延期してもらった。

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来院したら、PCV30台。WBC11,300。あれっ?

ふつう、腹膜炎を起こしていたら、白血球数は減少し、PCV値は上昇する。

超音波で観ても腹水はあるが、多くはない。

子宮内に手を入れて触診した獣医師は、両子宮角まで手が届いたが穿孔はわからない、と言う。

牧場で採れた腹水は持参していないので、もう一度穿刺した。

検査室で調べたら、PMN(多形核白血球)多数。細菌の貪食像も観えた。

腹膜炎は間違いない。

子宮や産道の損傷ではないかもしれないが、開腹手術することにした。

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右の子宮角はフィブリンが少し付いていたが、穿孔なし。

左の子宮角に小さな穿孔創が見つかった。

とても小さい。

それでも子宮内腔まで開いていて、悪露が流れ出てくる。

周囲には薄い膜状の線維組織が付いていて、癒着したのだと思われた。

おそらく、わずかな癒着があり、その部分が引張られるか、子馬が蹴ったので穿孔したのだろう。

いつものように腹腔に生理食塩液を入れて吸引することを繰り返し腹腔洗浄した。

腹底にドレインを留置した。

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お母さんの帰りを馬房で待つ子馬。

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昼前に手術は終わって、夕方ドレインを開放したらオレンジ色の混濁した腹水が流れ出た。

2リットルほどか。

生理食塩液を2リットル注入したら、今度はずっときれいな腹水が流れ出た。

抗生物質入りの生理食塩液1リットルを注入して、ドレインを閉じておく。

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翌朝、体温37.5℃。

平熱だった。

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とうちゃん、そろそろ表でオラをマッサージしながら新聞読む季節だぞ