馬医者修行日記

サラブレッド生産地の大動物獣医師の日々

分娩後の腹膜炎 子宮穿孔の生死の分かれ目

2018-03-07 | 繁殖学・産科学

分娩4日目の繁殖雌馬。

分娩後から不調で、抗生物質投与などの治療をしていた、とのこと。

前日の白血球数は3000以下。

来院したら、超音波検査で腹水増量が確認され、

子宮に手を入れたら、右子宮角の大きな穿孔を触知できた。

子宮角の穿孔は、たいてい、いかにも仔馬の後肢が突き破りました、という5cmほどの穿孔創であることが多い。

しかし、この症例の子宮の裂孔は10cm以上ある。

腹腔内の汚れもひどかった。

アズキ色の腹水が大量に溜まっていた。

生理食塩液を注入して、吸引回収して腹腔洗浄することを繰り返し、腹底にドレインを留置して閉腹した。

                            -

経過はよろしくなく、次の朝は疝痛。その翌朝には死んでしまった。

子宮角の穿孔を開腹手術した症例では、ダメになることは珍しい。

手遅れだ。

分娩後の繁殖雌馬で腹膜炎を疑ったら、するべきことは抗生物質投与ではない。

腹膜炎を確定診断し、二次診療施設へ送ることだ。

                           ---

子宮体の穿孔で、分娩当日に運び込まれた繁殖雌馬。

子宮体の背側の大きな裂創で、開腹手術創と膣側から縫合された。

ドレインを留置し、翌日も腹腔洗浄。

その翌朝は、ドレインを開放しても腹水は出なかった。

生理食塩液を2リットル入れて、ドレインをかなり抜き気味にしたところ。

オレンジ色をしているが、透明感があり、フィブリン塊などはない。

ドレインは抜去した。

仔馬と一緒に退院していった。

                             ///////////////

ゴミ箱組み立て中。

ネジでとめて組み立てるだけなんだけど、ねじ回しだけではたいへんだ。

電動ドリルでてきぱきやるのと・・・・

動物を扱う必要があるのは、家畜整形外科学と相通ずる;笑。

                            

 

 


全身麻酔での陰部縫合

2017-06-28 | 繁殖学・産科学

疝痛続きで忙しい日に、

「今日か明日、陰部縫合してくれませんか?」

もう3年不受胎の繁殖雌馬。

おもいっきり蹴る馬で、立位ではとても陰部縫合できない、とのこと。

覚醒室で尻尾を吊って起立介助するのも危ない、とのことなので、屋外で草の上で全身麻酔することになった。

プロポフォールを使った静脈麻酔なので、良好な覚醒が期待できる。

陰部を奥まで切開し、3層に連続縫合した。

名血でも、いつまでも不受胎では置いてもらえないだろう。

馬も、命がけだ。

                         ///////////////

しばらく雨降ってない。

 


交配による膣穿孔

2017-05-15 | 繁殖学・産科学

きょうは、準急患で、交配による膣穿孔。

たいていは膣円蓋と呼ばれる子宮頚管の背側が破れる。

この馬は子宮頚管の右側が穿孔し、左側も傷んでいたが貫通はしていなかった。

目視下で縫えた。

立位、枠場保定、尾椎硬膜外麻酔。

                      ////////////

これは日曜日。

曇りのち雨の天気予報だったが、とても好い天気だった。


緊急帝王切開

2017-04-14 | 繁殖学・産科学

妊娠末期に、母馬がひどい状態に陥ることがある。

致命的な骨折とか、消化管破裂とか、子宮動脈破裂とか、etc.

そういうときに、帝王切開して仔馬だけでも助けられないかやってみることがある。

ただし、分娩徴候がまったくないときに帝王切開しても子馬が助かる可能性はほとんどない。

馬では仔馬が出生して呼吸する準備は分娩前の24時間ほどに急速に進むことが研究で知られていて、

それ以前に帝王切開しても仔馬は呼吸できずに死んでしまう。

人で未熟児が助かるようになったのは、肺サーファクタントを使えるようになったことが大きいのだが、

馬ではまだそのHow toがない。

                           -

先週、膀胱破裂からひどい腹膜炎になった繁殖雌馬から緊急帝王切開で仔馬を取り出した。

その仔馬は元気になって、次の日、乳母に付けられた。

強い胎動で膀胱破裂したくらいだから仔馬が生まれる準備ができていたのかもしれない。

腹膜炎はひどかったが、消化管破裂による腹膜炎とちがい、猛毒であるエンドトキシンにやられていなかったのだろう。

                           -

今週、盲腸破裂で緊急帝王切開して取り出した仔馬は数時間後に死んでしまった。

剖検したら肺の1/3ほどしか空気を含んでいなかったそうだ。

その母馬は、7年前、子宮捻転と膀胱破裂で2回開腹手術して助かった馬だった。

その後もお産していたが、3年前に子宮動脈破裂をして生死をさまよった。

その後は受胎しても妊娠維持できなかった。

今年はもう分娩予定日を過ぎていた。

しかし、疝痛を起こし、開腹手術したら癒着疝だった。3年前の動脈破裂で癒着を起こしたのだろう。

癒着を剥がし、小腸の閉塞を解除した。

翌朝は順調で、元気で食欲もあったのだが、昼前に状態が悪くなった。

消化管破裂だと判断して、再開腹し、盲腸破裂を確認した。

仔馬も一度は乳を飲めそうなくらいだったが・・・・・死んでしまった。

                           -

今朝、「ゆうべから産気づいているが出てこない」と連絡。

来院してみると口粘膜チアノーゼでショック状態。

白血球数は2000と激減。PCVは50%超。

急いで緊急帝王切開した。

仔馬の口粘膜もひどいチアノーゼ。

お母さんの胎盤から酸素をもらっているのに、お母さんがチアノーゼなんだから仕方がない。

お母さんにオキシトシンを投与して、臍帯の臍動脈を鉗圧して胎盤の血が仔馬に戻る時間だけ待って臍帯を切る。

仔馬の気道を吸引して羊水を吸出し、気管挿管してデマンドバルブで酸素吸入する。

30分ほどの間に仔馬の口粘膜の色は改善した。

目つきもしっかりし、体を起こすようになった。

大きな牡仔馬だ。

                             -

母馬は盲腸破裂だった。

助ける方法はない。

                        ///////////////

ンニョウ ニャニャ ニョニョ とネコのような、海鳥のような鳴き声がすると思ったら、道沿いの水溜りでカエルが出産中だった。

どの生き物も、産むというのは命がけだ。

                        -

すごい量だ。

魚卵が好きな日本人も食べないのは、味がないのかね。

そういうと悪食のカラスも食べない。

 

 


斜・傍正中切開による顆粒膜細胞腫卵巣摘出

2017-03-21 | 繁殖学・産科学

顆粒膜細胞腫GTCTと化した卵巣の摘出手術。

例によって仰臥位で、膝ヒダの内側を乳房へ向けて切開する。

「斜・傍正中切開」というらしい。

まあ、今日のは最大級というわけではなかった。

                        //////////

ボールをくわえてくるのはオラにまかせろ