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馬医者残日録

サラブレッド生産地の元大動物獣医師の日々

ウマ科学会学術集会 一般口演

2007-11-29 | 学会

 出張に出る朝は電話で起こされた。前の晩から、妊娠中の繁殖雌馬のようすがおかしいと言う。

最後までやっていると飛行機に乗り遅れるので、開腹手術の途中でバトンタッチしてもらった。

試合を締めくくる野球の投手を closer と呼ぶが、手術の最後を締めくくる外科医は術創を閉じるのでまさしく closer だな。

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 ウマ科学会一般口演は、実に色とりどり。

騎乗技術に関係するものあり、動物行動学的に子馬の行動や放牧を研究した発表あり、栄養学や飼養管理に関する発表もあり、私の発表も含めて臨床獣医学の発表もあった。

・乗馬上級者と初心者の乗馬姿勢を分析した発表は乗馬経験者としては興味深かった。

 馬に乗るときさんざん言われたことの意味が良くわかった。できるかどうかは別にして。

・騎乗技術向上のためのトレイニング方法の検討も面白かった。

 うちにもバランスボールがあるのでやってみるか?練習すればモンキー乗りできるように・・・・・ならんな。

・腸蠕動促進剤としてメトクロプラミドを使ってきたが、いよいよモサプリドへ切り替えようかと考えている。

・乳酸菌製剤はどんなものを使っても効果を感じるのは難しいと考えていたが、使うなら今回報告された製剤を使ってみようと思った。

 発表者のM先生はディープな競馬ファンなようで、二次会でも楽しい話を聞かせていただいた。

・仔馬を1月2月に産ますことの問題。育成馬も含めて馬に冬をどう過ごさせるかの問題はこれから北海道のホースマンが考えていかなければいけない課題ではないだろうか。

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 すべてが科学的な発表であったわけではない。

科学とは実証できる知識を扱う学問である。

だから客観的な真実を導き出したり証明する方法が非常に大事になる。

「理由はないけど私はこう思う。証明できないけど私はこうしたい。」というのは科学にならない。

生産技術を考える。と題されたシンポジウムで私が言いたかったのは、生産というリスクとロスの多い事業のなかで獣医師がなすべきことは、そこへ科学を持ち込むことではないか。ということかもしれない。

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 しかし、ウマ科学会はすべてが科学でなくても良いのだろう。

日本にこれだけウマに興味を持つ人が居て、専門の枠を超えて情報・意見を交換できるのは楽しいことだ。

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 楽しいと言えば、懇親会と2次会にも参加させてもらった。

幹事役A先生の見事な仕切り!! あれは誰にもまねできまい。

おかげで普段会えないような人に、こちらに居ては聞けないような話を聞くことができた。

中央アジアの汗血馬の話に、動物行動学の話に、屈腱炎の話に、行方不明になったGPSをどう探すかの話に、アルミ蹄鉄の金型の値段の話に・・・・・etc.

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Photo_2 羽田空港に牛がいたって良いじゃないか!

 


ウマ科学会学術集会 って?

2007-11-28 | 学会

 ウマ科学会学術集会から帰ってきた。長年、会員ではあったのだが、この学術集会に出るのは実は初めてだった。

ウマ科学会の立ち上げのとき、どのような会を望むか、ハガキのアンケートが来た。馬臨床獣医師が参加できるような集まりになることを望む。ということを書いたのを覚えている。

しかし、当初、学術集会は春に開かれていた。馬の獣医師を広く集める学会・集会で春に行われているものはない。

生産に関わる獣医師が春は忙しいからだ。

われわれ生産地の獣医師には関係のない集まりなんだなと思わざるを得なかった。

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 ウマ科学会は会員は漸減しているそうだ。07

私の知るかぎりでも生産地でも、競馬場でも、臨床獣医師は会員でない人が多い。

いままでのウマ科学会が馬臨床獣医師にとって魅力がなかったからだろう。

一方、日本では馬臨床獣医師が集まる会はない。

これからウマ科学会が馬臨床獣医師が参加しようと思う会になることは、ウマ科学会にとっても望ましいことなのではないだろうか。

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 毎年12月最初の月曜日にはJRA調査研究発表会が開かれる。

これには私も何度も出張してきた。発表させていただいたことも何度かある。

JRAの競走馬に関する研究はレベルが高く、臨床獣医師にとって興味ある演題も多い。

ただ、以前2日にわたって日本都市センター、九段会館などの大会場で行われていたこの発表会も、1日だけになり、会場も東大農学部弥生講堂で開かれるようになった。

時間的にも、会場的にもゆとりがなく、内部発表会の性格が強くなったように思う。

 しかし、来年は50周年とのことでウマ科学会学術集会と、日程をつなげて3日間開かれる。

その中で、馬臨床獣医学の教育講演が半日にわたって開かれる(予定)。

一般の馬獣医師にとっても参加する価値が大いにある集まりになるのではないだろうか。

馬医者の皆さん! 来年12月東京に集まって、馬臨床獣医師の集まりを作っていきましょう!

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 ウマ科学会総会でウマ科学会の学術誌 Journal of Equine Science (JES)の編集委員長から投稿を呼びかける発言があった。

JESも慢性的に論文数の減少に悩んでいる。

獣医療学術誌としてPub Med などで検索できるように登録してもらうことを目指しているが、論文数が少ないのと、「(veterinary)medical」ではない。ということでまだ Pub Med の検索対象になっていない。

それで大いに論文掲載数を増やしたい。症例報告も、もちろん、受け付ける。

今は機械翻訳ソフト、翻訳会社、電子辞書もあり、昔より英語でリポートを書くのは難しくなくなっている。(ホントカ?)

英語で論文を書いておくと、欧米人に自己紹介するとき一目置いてもらえる。

老若男女問わない(笑)、ぜひ投稿を!

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正直言うと、私は日本人が審査する英語学術誌に抵抗があったのだが、編集委員長の

 「自分達の学術誌を持つということの価値」

 「レフリーは著者の味方であるべき」

という言葉に説得されてお手伝いしている。

日本にも馬獣医学があることを示そう!

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Photo

少しずつ、ウマ科学会で見たこと、聞いたこと、しゃべったこと、会った人について書きたいと思っている。

東京飯田橋の月。

ビルより低い。

                               

 


第35回生産地シンポジウム

2007-07-12 | 学会

 今日は、JRA主催生産地の軽種馬の疾病に関するシンポジウムだった。

もう、35回になるそうだ。

昔の集まりの記録が書庫にあるが、腰痿と白筋症がひとまとめに扱われていたりして、その頃の獣医学のレベルが推し量られて興味深い。

歴史の中で、腰痿も、白筋症も、子馬の肺炎も、その他多くの生産地の問題が扱われ、解決されてきた。

JRAが主催しているというのも日本的なのかもしれないが、海外でもジョッキークラブが獣医学的な調査のスポンサーになっていたりはする。

このシンポジウムを通じて軽種馬生産に貢献して来られたJRAをはじめ、多くの先達に敬意を表したい。

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P7120461 今回のシンポジウムは繁殖がテーマだった。

カラードップラ機能付き超音波装置による子宮への血流の調査。

子宮血管破裂の病理学的検索。

初回発情での種付けに関する膨大なアンケート調査。

飼養管理が繁殖成績にあたえる影響と、代謝プロファイルテストの可能性。

それぞれの発表者によって報告された。

これから生産牧場に具体的に還元できる方法をまとめることが課題だろう。

日本のサラブレッド生産に貢献するための調査・研究のはずだから。

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午後は一般講演。P7120462_1

昨年の東京での調査・研究発表会で聞いた演題もあったが、興味ある発表はおさらいになった。

なんといっても、生産地シンポジウムにふさわしかったのは、

子馬のロタウィルス下痢についての膨大な成績の調査!(笑)

生産地の子馬は2割ほどが下痢で診療を受ける。

その半数あまりはロタウィルスによる下痢であることも示された。

そして、子馬の数が増えていくことで、子馬の群の中にロタウィルスの流行が起こってくる。

流行のピークは6月で、遅生まれの子馬は生後早い時期にかかる傾向にある。

          では、どうする?

種付けに行く時、子馬を置いていく習慣をつくることは無理だろうか?

5月、6月と、数が増えた子馬の群れの中に、ロタに感染した子馬が入ると流行が起こる。

種付けに子馬を連れていかなければ、牧場へロタウィルスが侵入する機会はかなり減るように思うのだが・・・


真菌性喉嚢炎の外科治療

2006-09-17 | 学会

 北海道産業動物獣医学会での研究発表に北海道獣医師会長賞をいただきました。Hpnx0069_1

学会はコンテストではないと知りながら、公の場でどのような評価を受けるかはいつも気にしています。

今回のような臨床例の成績をまとめた研究発表は、個人のものではなく、初診した獣医師、術後管理した獣医師、チームとして手術した複数の獣医師、そしてわれわれに馬を託した牧場など、関係した皆すべてのものです。

成果を認めていただけたことを、皆で喜びたいと思います。

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 今回の発表は真菌性喉嚢炎の外科治療成績をまとめたものでした。Dscn6139_1

この手術方法は世界に先駆けてJRAのチームが開発した方法です。

その方法は美浦トレセンの競走馬診療所で実験馬での実技も含めて教えていただきました。

もう10年近く前になるでしょうか。

馬の代表的な死因のひとつである真菌性喉嚢炎に対して、最も実用的な外科手術方法を開発したJRAのチームに改めて敬意を表したいと思います。

また、「どや、ええ方法があるんや、見に来んか?」と声をかけていただいたことに改めて感謝します。

他の団体の獣医師にまで声をかけることなど、なかなかできることではありません。

やはりすごい人だと感心します。Dscn6145_1

JRAにも何かの形で恩返ししたいと思っています。

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 日本の学会で馬に関する演題を発表しても、関心を持ってもらうことさえ難しいことが少なくありません。

あとで英語の論文にして、獣医学の分野では最も権威ある学術誌である Equine Veterinary Journal やVererinary Surgery に掲載される内容を日本の学会で発表しても、その意味や価値さえ理解してもらえなかったのではないかと感じたことがあります。

学会も人の集まりである以上、評価や注目は主観の集まりでもあります。

今回、馬の病気の外科治療といった内容の発表を評価していただいた、座長をはじめ発表を聞いていただいた皆さんや、北海道産業動物獣医学会のメンバーに感謝します。


北海道産業動物獣医学会から

2006-09-10 | 学会

 興奮冷めやらぬ。というわけでもないのだけれど、北海道産業動物獣医学会ねたをもうひとつ。

いくつも記憶に残った発表はあったのだが、

釧路地区NOSAIの高橋先生の乳牛の疥癬の演題もそのひとつ。Kaisen (図は人の疥癬ダニ)

疥癬はダニによる皮膚病なのだが、ポアオン製剤で駆除したら治癒して、治療前平均8700kくらいの乳量が1万キロを越えたという。

実に20%以上の伸びである。

ポアオン製剤が消化管内の線虫にも効いた可能性もあるが、それにしても駆虫でこんなに乳量が伸びるなら駆虫しない手はないだろう。

また、疥癬が治ることの意味がこれほど大きいのなら、疥癬にかかっている牛の苦痛はおして知るべし。

私なんぞは、どういう皮膚病が疥癬なのか見ただけでは診断する自信がないのだけれど、尻尾の周りに皮膚病がある牛はまず疥癬かどうか調べてみる必要があるだろう。

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同じ釧路地区NOSAIの遠藤先生の血乳を醗酵初乳として使えるかどうか検証した発表も印象的だった。

釧路で開かれた昨年は私は参加していないので聞いていないのだが、昨年の本学会でも醗酵初乳の利用に関する発表を3題されて、積極的な利用を提案されたらしい。

酪農の現場にあって、酪農家に利益を与えられる指導をするための地道でなおかつ科学的な発想と手法には感心させられた。

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 お二人の先生もその他の発表されている臨床獣医師の先生方も忙しいだろうに、それに研究費があるわけでもないだろうに・・・・情熱の元は何なんだろう。

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 馬の演題は・・・・・・コメントするのはやめておこう。

そのうち、自分の発表した内容だけは公開しようと思う。

ただ、パワーポイントで作ったプレゼンをブログに載せる方法が~わからない~。