今年の北海道産業動物獣医学会へ出て感じたこと。
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過去の発表や報告、教科書、文献をもっときちんと調べた方が良い。
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私は2004年の北海道獣医師会雑誌に、子牛の大腿骨骨折をプレート固定して治せたことを報告している。
口頭発表はしていない。
口頭発表しても学会の抄録しか残らない。聴いた人の記憶にしか残らない。
それより、正確に詳しく文章で書いて、記録に残すことで、後世に役立てて欲しいと思うからだ。
今回、子牛の大腿骨骨折をトマススプリントで治した、という発表があった。
その中で、大腿骨骨折の内固定は困難で、報告はない、とぬかしやがったので、述べておられたのでむかついた発言しておしらせしておいた。
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そして、数年前から牛の骨折についての講演や発表を聴いて思うのは、牛の整形外科はまだまだ未開拓の分野のようだ。
基礎知識が不足しているし、症例の経験も不足している。
そして、たしかに牛はほんとうに優秀な患者で、他の動物では内固定が必要なタイプの骨折も、外固定で治るのかもしれない。
しかし、何でも外固定で治せるわけはないことは、牛を日常的に診ている先生たちが一番よく知っている。
少なくとも、骨折の研究発表や症例報告をするなら、基本を勉強し、抜け落ちがないように文献検索しておくべきだ。
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その発表を評価しようという目で内容を聴いていても、それが発表者のオリジナルな治療方法や研究成果なのか、他でもやられている方法なのか、
広く受け入れられているものなのか、それともまだ評価が定まっていないものなのか、わからない。
その症例報告や研究発表の、「背景」を聴く人に伝えることはたいへん大事なことだ。
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われわれは、23年前に、北海道産業動物獣医学会で、後肢吊り上げによる馬の難産介助について研究発表し、賞をもらった。
それ以来、毎年20頭近い難産馬をこの方法で娩出させている。
重種馬でも、この方法で対応している。
野外で行ったこともある。
おそらく、もう数百頭、この方法で難産介助してきただろう。
われわれはすっかりルーティンとしている方法だが、それを知らない人や地域ではわれわれが発表したことや内容など、とうに忘れられているのだろう。
数百頭経験したら、その成績も報告しないといけないのかもしれないけど。
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かつて、日高では毎年数十頭の白筋症仔馬が死亡していた。
私が大学院の学生だったとき、ひと月半日高に滞在し、20頭以上の発症馬からサンプリングできたくらいだ。
それから、セレニウムが飼料に添加されるようになり、輸入飼料の給与が増え、日高では白筋症はほとんど発生しなくなった。
多くの関係者は白筋症のことなど忘れたか、あるいは若い獣医さんは白筋症自体を診たことがないだろう。
道東で、愛玩用に買われている混血種の新生仔馬が白筋症で死亡し、Vit.Eとセレニウムを測定して欠乏を確認した発表があった。
飼料を改善し、その後のVit.Eとセレニウムも測定し、続発もなかった、とのことで感心した。
栄養欠乏症は、放っておくと続発したり、多発したりする。
(私は、33年前、軽種馬が4頭生まれるはずが、4頭とも白筋症で3頭が死亡した牧場を知っている)
”古い”病気になっても、獣医師が過去から学んで、熱意を持って対応することで、悲劇が防げるのだ。
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温故知新。という。
ふるきをたずねて、あたらしきをしる。
あるいは、
ふるきをあたためて、あたらしきをしる。
”古き”をきちんと調べて積み重ねていかないと、低レベルのまま繰り返しだ。
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ひとつ提案だ。
北海道獣医師会三学会も、今は抄録はファイルで提出している。
タイトルと内容をデジタル情報として蓄積して、のちのちの獣医師が検索できるようにしてはどうだろう。
産業動物獣医学会では、毎年100題近い発表がある。
北海道の産業動物獣医学の貴重な財産となっていくのではないだろうか。
(プリントアウトして送っていた時代の抄録は今からデジタル情報化するのはたいへんすぎるかな・・・・)