真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「私の中の娼婦」(昭和59/製作・配給:株式会社にっかつ/監督:武田一成/脚本:西岡琢也/プロデューサー:結城良煕⦅N·C·P⦆/企画:半沢浩・進藤貴美男/撮影:前田米造/照明:木村誠作/録音:金沢信一/編集:山田真司/音楽:髙原朝彦トリオ/効果:小島良雄/美術:部谷京子/助監督:高橋安信/色彩計測:森島章雄/製作担当:三浦増博/現像:東洋現像所/製作協力:伊豆雲見温泉観光協会/出演:田坂都・大林丈史・朝倉まゆみ⦅新人⦆・有田麻里・荻尾なおみ・水木薫・加藤忠・粟津號・鶴岡修・松熊信義・遠山牛・阿部勉・石渡しあき・浅見小四郎・小倉茂・藤原稔之・荒尾敏明・宮内裕三)。出演者中、小倉茂以降は本篇クレジットのみ。配給に関しては、事実上“提供:Xces Film”。
 製配ロゴから時化の海挿んで、砂を噛む下駄。割と脱力してゐる主演女優が、しやがみ込んでゐたかと思へば、くさめをしてみたり。海を見やる桂子(田坂)を陸(をか)側から抜いた、後姿のロングが恐ろしく広い。桂子が里の中を歩く、今度は海からのロングにタイトル・イン。キッメキメの撮影部がアバンから敢然と攻めて来る一方、一つ目の“の”と“娼”が無駄に赤く着色されてあるタイトルは正直ダサい。
 アフリカの海に遠洋漁業に出てゐる、夫の帰りを桂子が来年に待つ海町。一方、骨壺を抱へ電車に揺られる黒田(大林)の、妻・郁子(水木)は間男宅にて急死。一度寝た不義の発覚を懼れる改札(遠山)を、桂子が軽くあしらふ駅に黒田が降り立つ。過去に一度、郁子と当地を訪れてゐた黒田は、現存した民宿「たつ」の同じ部屋に宿を取る。
 勘繰るに協力を得たよしみに快く首を縦に振つたか振らされたと思しき、フレーム内に雪崩れ込む甚大な現地民ないし縁故人員の頭数にも屈した、松熊信義を見つけられない配役残り。ほかに新生百合族を組んだ望月真美と、赤坂麗。優勝者が何人ゐるんだといふ、同年にっかつ新人女優コンテスト優勝者の朝倉まゆみは不良の千加、「たつ」の女将・たつ子(有田)の娘、ちなみに父親は影も形も出て来ない。黒田が浸かる共同温泉場の岩風呂、隣の湯船で盛大な青姦をオッ始める漁師夫婦は荻尾なおみと浅見小四郎。加藤忠は、黒田が舟の手配を乞ふ漁師。そして鶴岡修が郁子の情夫、ジュンちやんまでしか固有名詞不詳、外科医ぽい。家主が帰宅する以前の、郁子死亡現場に黒田がゐるシークエンスが不可思議といへば不可思議。黒田に対し、「けどよく探しましたね、こゝ」とジュンちやんがグルッと一周して感心する、エクスキューズが一応設けられはする。石渡しあきはへべれけに繁盛するスナックのママで、そこで桂子と何となく距離を近づける黒田に、小指の順番を守れと凄む男が阿部勉。粟津號は、スナック奥の間で桂子を抱く漁師。事後桂子の方からしあきママに支払ふのを見るに、連れ込み代りにでも使つてゐるといふ寸法なのか。その他タイトルバックで桂子と会話を交す魚市場要員を皮切りに、リーダー格兼千加の男でもあるタダシ以下、族のみなさんが十余人。黒田と会話を交す救急隊員に、霊安室の計三人。あと、スナック「しあき」(超仮称)で素面の映画的には木に竹しか接がない、何故か尺をも過分に費やし「兄弟船」を熱唱する謎のオッサン等々が不明。いやホント、オッサン誰よ。
 この辺り、正直門外漢かつ初見につき全く手探りのまゝに、どうもシネフィル受けのいゝらしい、武田一成のロマンポルノ最終第十七作にして監督自体打ち止め作。昭和59といふと当サイトは小学六年生、まあ四十年近くの結構な昔である。近年テレビ畑でも仕事をされてゐないゆゑ、さういふ印象になるのも致し方ないが、監協公式サイトを覘いてみるに現会員。九十二歳の、御長寿であられる。暫し名前を聞かない、米寿の今上御大はお元気しとられるのか。
 シネフィルの連中に受けるとなると、如何にも文芸臭い、お上品な代物なのかと思ひきや。女の乳尻を決して疎かにはしない、腹の据わつた裸映画ぶりが何はともあれ出色。勃つ勃たないでいふならば、ちやんと勃つ。妻を喪つた男と、実は夫を喪つてゐた女。秀逸なミスリードに統べられてゐた、淡々と進行するエロいところはしつかりエロいメロドラマの、盛り上がりなり感情移入をさりとて阻むのは。体躯も身形も扮装も、出て来た時の見た目からパッとしない漫然とした男優部主役。後々“無事故無違反無欠勤”に着弾させる目的を優先させた、諸刃の剣も覚悟の上での魚雷的なキャスティングであつたのならば、ある意味しやうがないにせよ。徐々に凄味を増す田坂都が業の深さを感じさせる桂子と、終始ニュートラルに入りぱなしな黒田の、生の濃淡がフィットしてゐないちぐはぐさが兎にも角にもな致命傷。桂子の告白に続いての、絵画のやうな曇天二連撃。蚊帳越しに桂子を捉へた画なども流石の必殺ぶりながら、少なくとも当サイトには、殊更ヨネゾーヨネゾー有難がるのは些か難い。決してそれを、第一義的に求めてゐる訳ぢやない。尤も一時間を跨いで、実際は託した相手が違つた遺志の残酷な真意が明らかとなる辺りから、足をためてゐた映画が猛然と爆加速。これは凄いものを観た見せられたと、小躍りしかけたのも束の間。結局その時点で残つた大林丈史に、矢張り以降を任せられるでなく。砂浜一面に相当数の花火を適当に挿した、終に美術部が力尽きるぞんざいなカットから、小舟が闇夜の黒牛状態の海に漕ぎ出でるや照明部も共倒れ。“お前”といふのが文脈を鵜呑みにすると郁子を指す、「俺だけだよなあ、お前のことを思つてやつてるのは」。他愛ないミソジニーを黒田が垂れ流す、屁のやうなラストで改めて失速する。


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