真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「性悪女 茂みのぬくもり」(1998/制作:セメントマッチ/配給:大蔵映画/監督:池島ゆたか/脚本:五代暁子/撮影:清水正二/音楽:大場一魅/編集:酒井正次/助監督:森山茂雄/監督助手:佐藤吏/撮影助手:岡宮裕・小沢匡史/スチール:津田一郎/録音:シネ・キャビン/ネガ編集:フィルムクラフト/現像:東映化学/出演:篠原さゆり・工藤翔子・水原かなえ・かわさきひろゆき・樹かず・神戸顕一・山ノ手ぐり子・藤森きゃら)。
 曇天の遠景、遠目から歩いて来るロングに寄りがてら、工藤翔子のモノローグが起動する「人生に偶然なんてない」。一欠片の新味も欠いた、他愛ない運命論を投げた上でフランス書院ぽさのあるエンボスなタイトル・イン。何が恐ろしいといつて、わざわざアバンで思はせぶりに投げさせておきながら、最終的に二番手は広げた風呂敷に触れさせてすら貰へぬまゝ、ラストまで辿り着けず一幕前で呆気なく退場。運命論に新味どころか一切意味のない虚無と紙一重の無造作さは、五代暁子あるいは池島ゆたかの特性といふよりも寧ろ、消費され忘れられてナンボのポップ感。量産型娯楽映画としての本質に、源を求めた方がなほ適切であるやうにも思へる。野暮は兎も角、引きの画―しかも着衣―で既に十分な破壊力を放つ、クドショのオッパイが凄え。
 フリーライターの多分一ノ瀬か一之瀬かおり(工藤)が朝のゴミ出しに行くと、近所の主婦(山ノ手ぐり子と藤森きゃら)が越して来た齢の差夫婦の噂話に花を咲かせてゐる、聞こえよがしに。当の柚月家、帰宅した柚月圭一(かわさき)は精神の平定を怪しまれるレベルの、闇雲な高圧さで十八離れた妻・真奈美(篠原)に対する。ぐりきゃらいはく“ジャニーズにゐてもおかしくない男”、と来るとこの人しかゐない、彼氏の尚也(樹)も来てゐるかおり宅に、柚月が声を荒げる夫婦生活の様子が騒々しく漏れ聞こえる。かおりと尚也の粛々とした婚前交渉を経て、柚月から殴られたのか、顔に痣を作つた真奈美とゴミ置き場にて出会つたかおりは、煩い二人が来たのでいつそ家に招く。
 配役残り、かおりが尚也とよく使ふ、クレジットに等閑視されるゆゑ謎の店に、マスター以下計四五人ノンクレで投入される。中盤の絶妙なタイミングで飛び込んで来る水原かなえは、柚月の素性不明な浮気相手・洋子、一応スーツは着てる。変なおじさんばりの、劇映画にしては明らかに汚し過ぎたビジュアル―と正気を疑ふ所作―に、誰なのか暫し識別に苦しんだ神戸顕一は、親戚をたらひ回しされた真奈美を手籠めにする傍系三親等。
 流石にex.DMMの中にも残り弾がなくなつて来た、池島ゆたか1998年薔薇族込み第六作。ひとつ前々から気にはなつてゐるのが、何故かエク動が池島ゆたかを配信しようとしない謎。
 特段姦計といふほどの姦計を練る訳でも全くない割に、あれよあれよと事が上手く運んで性悪女がテイクス・オールするに至る始終は、これで裸映画的に安定してゐなければそれこそ目も当てられぬほど、ドラスティックに面白くも何ともない。ドミノ倒しの如くぞんざいに散つて行く柚月とかおりに劣るとも勝らない、真奈美に唯々とチョロ負かされる尚也の操り人形ぶり。ついでで、羽目を外しすぎた山竜よりなほトッ散らかつた神顕。狂言回しの二人は所詮進行役につきこゝはさて措き、絡み要員の洋子を、絡み要員のポジションで辛くも災禍を免れる洋子を除くと、誰一人満足な造形の登場人物が見当たらない死屍累々。要は濡れ場以外全篇隈なく酷い壮絶な有様なのだが、強ひて致命傷を挙げるならば、過去パートを見る分には徹頭徹尾可哀想な少女にしか思へない真奈美が、魔性の女に変貌する過程はおろか契機さへ、丸々端折つて済ます豪快作劇。柚月が事切れるのを大人しく待つて、首を絞められてゐた真奈美が身を起こすシークエンスの煌びやかなまでの凡庸さダサさが、グルッと一周してもう完璧。

 反面、柚月が洋子のお胸に精を放つ辺りから、画面の手前ボカシ越しにチンコ―の模型―があるのはまた間抜けか邪魔臭い意匠だなあ、と呆れかけてゐたところ。洋子がして呉れる所謂お掃除を、亀頭、より正確には棹の根本視点でカットを割らずに描く、案外明確な企図が存在した、AVの感覚なりメソッドに近いのかな。


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