真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「痴漢電車 弁天のお尻」(1998/製作:国映株式会社/配給:国映・新東宝映画/脚本・監督:いまおかしんぢ/企画:森田一人・朝倉大介/プロデューサー:衣川仲人・福原影/撮影:鈴木一博/編集:酒井正次/助監督:菅沼隆/監督助手:柳内孝一・小林康宏/撮影助手:飯岡聖英・鈴木健太郎/録音:シネキャビン/現像:東映化学/ガンエフェクト:ブロンコ/刺青:ポンテンスタジオ/応援:広瀬寛己・坂本礼・女池充・榎本敏郎・堀禎一/ロケ協力:加藤章夫/協力:17番企画・今川修二・河田拓也・梶原誠司/出演:鈴木卓爾・長曽我部蓉子・川瀬陽太・内藤忠司・岡田智宏・児島なお・佐々木ユメカ・星川隆宣・佐藤宏・上野俊哉・正岡邦夫・秦国雄・伊藤猛・林由美香・吉田チホ)。新しい版と変りがない場合、出演者中、星川隆宣から秦国雄までは本篇クレジットのみ。同じく吉田チホがポスターには吉田ちほ、チホが正解。応援の寛巳でない広瀬寛己は、本篇クレジットまゝ。
 本来はど頭にでも入つてゐたのか、ビデオマーケットが配信してゐる動画に、最初から最後まで勿論目を通したが何題なのかよく判らない「弁天のお尻 彩られた柔肌」にせよ元題の「痴漢電車 弁天のお尻」にせよ、兎に角一切のタイトルが何処にも入らない。
 朝の電車、男の譫言と、しやがみこむ女。女は一晩で十人の客を取り、擦り切れたホテトルのベン子(長曽我部)。男はのちに鉄格子のあるホスピタルに入つてゐたといふか入れられてゐた出自を自白する、即ち本物の大黒雅人(鈴木)。一人になるや終始戯言を呟き続ける反面、人との会話は会話で普通に出来る大黒に、ベン子が金銭の発生しない痴女行為を仕掛ける。先走ると締めまで含め全ての絡みを中途で端折る、小癪な潔癖の類でないなら一種の逃避で、痴漢電車はぞんざいに途中下車。往来できれいなお姉さん(林)と擦れ違つた大黒は、運転手は多分内トラのセダンに下敷きになるほど轢かれる。方々で火の燃える廃墟、異様な咆哮に大黒が天を仰ぐと技術込みで特殊造形のクレジットもない割に、合成もまあまあの―着包み―大怪獣・デメキング出現。建物に大黒が入ると、額に銃創を開けた瀕死の自分が「お前の女だ、助けてやれ」。大黒は改めて屋外、全裸で倒れてゐる、背に見事な弁天様の彫られた女の身を起こすとベン子だつた。てつきり車の下で事切れる風に映つた大黒が生きてゐて、現実に帰還。持ち帰つた食品ボトルを開けてみると1999年の三月に自らが採取した、数畳分はあらうかといふデメキングの足跡が入つてゐた。
 配役残り伊藤猛は、ベン子のヒモで見るから筋者のタケシ。弁天様を見せろ見せないで大黒と諍ひになるベン子の眼前、オートマチックでタケシを射殺する男はいまおか映画のリーサルウェポン・佐藤宏。佐々木ユメカはベン子のホテトル仲間で不感症の南極、南極に電車痴漢を働く岡田智宏が、手短なプレイで一万円巻き上げられたかに思はせ、十万入つた財布をスッてゐたスリのシャモ。客からの電話がかゝつて来ない、閑古鳥の鳴くホテトル事務所。大股開いて寝こける名無し嬢役の吉田チホといふのは、杉浦昭嘉デビュー作「淫気妻 つまみ喰ひ」(主演:葉月螢/二番手)に、八ヶ月先んじてゐた泉由紀子(a.k.a.柚子かおる/a.k.a.いずみゆきこ)の別名。内藤忠司はシャモの齢の離れた相棒・寿、パクられた警察から、足を洗ふ記念感覚で回転式をスッて来る凄腕。児島なおがサラ金「ローンズエイワ」のありがちな疎外感を燻らせるOL・ホテイで、川瀬陽太は会社から尻尾を切られた挙句、二千万の借金を負はされ強盗を企てるエビス。南極こゝで死んでねえか?といふ気も否めない、早漏の客は正岡邦夫、オーグリーンの人。上野俊哉と多分星川隆宣は、タケシが草鞋を脱いでゐた組の偉いさんと若い衆。黒い土田晃之といつた風情の、秦国雄を見つけきらなんだ。シャモと寿がよく使ふ、何時の間にか七人勢揃ひ後もみんなで行く焼肉屋。ファースト・カットで四人見切れるその他客がそれなりの面子である可能性も大いに残しつつ、少しは安くしろとでもいひたくなる、随分な低画質で識別能はず。は兎も角、大問題なのが焼肉屋に現れ、ベン子に軽傷を負はせた佐藤宏を、大黒が返り討つてのゲームセンター。なほも錯乱した大黒が暴れ倒す、この辺りから徐々に求心力を失し、映画がグダつき始める兆しとなる別の意味でキナ臭い修羅場。を、「生きてるかー」で半ば強制終了するダッフルコート美少女は全体何者。もうクレジットの中に、女の名前なんて朝倉大介(a.k.a.佐藤啓子)しか残つてないぞ。
 監督として使用したのはこれまで一度きりの、いまおかしんぢ名義による今岡信治第三作で国映大戦第五十五戦。いましろたかしによる原作マンガ(1991)を豪快にパクッてのけた上、後年怒られたとかいふ大概な逸話には、いやしくも商業映画で然様にフリーダム通り越してイリーガルな真似が許されるのかと軽く驚いた。目下確認し得る、いまおかしんぢ限定のフィルモグラフィは榎本敏郎のデビュー作「禁じられた情事 不倫妻大股びらき」(1996/井土紀州と共同脚本/主演:悠木あずみ)の助監督と、自身の前作「痴漢電車 感じるイボイボ」(1996/主演:水野麻亜子)の星川隆宣と共同脚本。三本目が今作で、最後に今度は鎌田義孝デビュー作「若妻 不倫の香り」(1998/主演:佐々木ユメカ)の、江面貴亮と共同脚本といつたところ。大事な仔細を、忘れてゐた。大きめロマポ並みの、尺は驚愕の八十二分、小屋からは相当面倒臭がられたにさうゐない。
 登場順で弁財天を背負つたベン子に、大黒天もそのまんま。一番難しい南極は、寿老人は別にゐるゆゑ≒南極老人の福禄寿。シャモは毘沙門天の中に埋もれてゐて、最高齢の寿が寿老人。いふまでもなく、布袋と恵比寿もそのまんま。臨死体験で未来に飛んだ大黒を中心に、行き逸れたか生き逸れた連中ばかりの七人が、意識的に結成するでなければ、威勢よく集結しもせず焼肉屋に何となく集合。ドロップアウト七福神で、世界を壊滅させるデメキングに挑む。大黒を除いた六人の、デメキングと対峙する意思の有無も兎も角、八犬士的に七福神が揃ふところまでは、別に当サイトが盛つたものではない。さてそこで、七人で力を合はせて大怪獣をやつゝける堂々とした娯楽大作を、今岡信治に望む訳ではないけれど。
 佐藤宏の第一次凶行後、ベン子と大黒は大黒が暮らす―あるいは住みついた―神社に避難。愛する男を殺された絶対的な喪失感の中、遂に弁天様を大黒に開陳しがてら、ベン子曰く「神様なんて役に立たないよ」。未だノストラダムスが活きてゐた時代の拭ひきれない終末思想と、よもや二十五年後の平成もとつくに通り過ぎた今なほ、抜ける兆しの“き”の字すら見当たらないとは。流石に思ひも寄らなかつたより具体的な、ほとんどフィジカルな閉塞感。「神様なんて役に立たないよ」、バッキバキにキャラの立つベン子こと長曽我部蓉子を、勝るとも劣らない速度で佐々木ユメカと岡田智宏が激しく追撃。内藤忠司は飄々としたいゝ味で適度に脱力、クソな現し世を蹴倒すソリッドな寓話が女の裸は疎かにするものの、あゝ、国映の連中はかういふのがやりたかつたのかな。ぞんざいな雑感も胸を過るほど、十二分にも三分にも面白かつた、のに。畳みあぐねたシークエンスを明らかに持て余す、ゲーセンの件でみるみる失速。安普請が底を尽き演出は力尽き、雁首並べた七福神が、てれんてれん塩を撒くへべれけなクライマックス?は、スペクタクルはおろか木に竹も接ぎ損なふ。そして、たおやかなベン子の寝顔で誤魔化し、きれない全てを投げ放し、見る者観る者を煙に巻くくらゐしか精々能のないラスト。一時間を跨いだ辺りでみるみる瓦解、横紙を盛大にブチ抜いたかに少なくとも形式的には見せ、結局ピンクのフォーマットといふ掌から、案外逃れられてはゐなかつたのかも知れない一作。だなどといふのは、我ながら如何にも当サイト臭い、牽強付会を垂れるにも度が過ぎるかしら。


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